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小説家を目指す柿沼春樹(かきぬま はるき)。ミュージシャンを夢見る小倉雪(おぐら ゆき)。そして、2人を見守る人達。其れ其れの哀しみを背負い乍ら、高校3年間、寄り添う様に生きて行く。
ところが突如、平穏な日々に悲劇が訪れた。隠蔽、苦悩、決断の果てに待つ衝撃の結末とは?全ての答えは卒業式当日。私は、貴方の「爆弾」になる。
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カンザキイオリさんの小説「親愛なるあなたへ」を読了。元々、「日常的に音楽を聞く。」という人間では無いし、特に近年の音楽事情には疎い。だから、“カンザキイオリ”という名前は今回初めて知ったのだが、ミュージシャンで在り、作曲家で在り、作詞家でも在るとか。顔出しは一切しておらず、性別や生年月日も明らかにされていない様だが、恐らくは若い方と思われる。
小説を書く上で、若い人が中高年以上の人間を描く際、又は、逆に中高年以上の人が若い人間を描く際、プロで在る以上は、“自分の世代と掛け離れた人物”に上手く“寄せて”描く。でも、どんなに上手く寄せても、或る程度の違和感が在ったりする。書き手が生きて来た時代の中で積み上げて来た感性と、どうしてもずれが生じてしまうのだろう。だから、若い人が若い人物を描くと、「中高年以上の書き手だと、こういう言動は中々表せないだろうな。」と思う事が良く在る。今回の「親愛なるあなたへ」に登場する中学生~高校生の言動も、若い書き手だからこその“無理の無さ”が感じられる。
主人公は柿沼春樹と小倉雪の2人。共に母子家庭で、共に父親の記憶は無いに等しい。春樹の父は小説家で、春樹と母を捨てた人間。だから、春樹は父をずっと憎み、彼が手掛けていたという事で、小説自体にも嫌悪感を持っていた。そんな春樹が、小説を書く身となる。又、雪の場合、実母の事は全く知らず、実父が再婚した際、義母と義姉が出来た。でも、雪が幼い頃に実父は失踪し、以降は義母と義姉の3人で生活して来たのだが、雪が中学校を卒業した際、義母は“事故死”してしまう。
春樹が書いた小説に魅了され、ミュージシャンを夢見始めた雪。共に“同じ高校”に“同学年”として通っている筈なのに、何故か接する場面が登場しない。「春樹の小説にこんなにも魅了されているのに、何故接点が無いのだろう?」と、読んでいてずっと不思議だった。全部で400頁近い作品だが、223頁目で“意外な展開”が待っている。「だから、接点が登場しなかったんだ。」という“納得”と、「こういう設定だったのか。」という“驚き”。“騙された感”は半端無い。
だが、全体としては「可も無く不可も無し。」といった感じ。特に結末は“尻切れ蜻蛉”な感が在り、モヤモヤしてしまう。
総合評価は、星3つとする。