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グリゴリー・ラスプーチン:帝政ロシア末期に現れた祈祷僧。ロマノフ朝最後の皇帝ニコライ2世の息子アレクセイ皇太子の難病を“不思議な力”で治した事で、皇帝夫妻から絶大な信頼を得て、宮廷内で権力を縦にする。其の事が、ロシア帝国崩壊の一因となった。「青酸カリを盛ったプチフールと紅茶を飲まされても数時間平然としており、泥酔した彼の心臓と肺を合計2発拳銃で撃たれた事で床に倒れ込む。死んだと思われたが、起き上がって来たので、更に額等を撃たれて死亡した。」という超人的な面を見せた事等から、“怪僧ラスプーチン”とも呼ばれる。
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中山千里氏の小説「ラスプーチンの庭」は、「刑事犬養隼人シリーズ」の第6弾。
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中学生の娘・沙耶香(さやか)を病院に見舞った警視庁捜査1課の犬養隼人(いぬかい はやと)は、沙耶香の友人・庄野祐樹(しょうの ゆうき)という少年を知る。長い闘病生活を送っていた祐樹だったが、突如、自宅療養に切り替え、退院する事に。
1ヶ月後、祐樹は急死。犬養は告別式に参列するが、祐樹の身体に奇妙な痣が多数在る事に気付く。そして、同時期に同じ痣を持った女性の自殺遺体が見付かり、本格的な捜査が開始。軈て「ナチュラリー」という民間医療団体に行き当たる。主宰の謎の男の正体と、団体設立に隠された真の狙いを追う内に、民間療法の闇が浮かび上がって来て・・・。
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先日、“最後のイタコ”と呼ばれる女性を取り上げているドキュメンタリー番組を見た。「死者の霊魂を憑依させ、縁者と対話させる“口寄せ”を行う。」のがイタコで、自分は全く信じていないし、「胡散臭いな。」という思いしか無かった。でも、此の番組を見て、少し考えが変わった。番組によると「イタコには特殊な霊能力が必要な訳では無いし、口寄せを頼んだ者に寄り添って色々と話をする“カウンセラー的な色合い”が強い。」様で、「高額な金銭を巻き上げるならば話は別だが、イタコによって“苦しみ”が取り除けられるならば、そういうのも『在り。』なのかもなあ。」と感じたのだ。
“先進医療”で病が改善されず、死を待つだけの様な患者や其の家族にとって、“民間療法”に頼りたくなってしまう気持ちが起きるのは、理解出来なくは無い。祖母が末期癌に成った際、母や伯母達が(「癌に効果が在る。」と言われていた)サルノコシカケを購入し、祖母に飲ませていた事も在るから。「溺れる者は藁をも掴む。」と言うが、何とも無い時には「馬鹿らしい。」と一笑に付していた事でも、どうしようもない状況に置かれてしまうと、縋ってしまうのが人間。そんな先進医療と民間療法を、「ラスプーチンの庭」は取り上げている。
犯人達の“動機”は理解出来るが、でも、「そういう動機が在るからといって、“ああいう犯行”をするという方向に結び付くかなあ?」という納得の行かなさが在る。動機と犯行への結び付きに、どうしても無理を感じてしまうのだ。
又、冒頭に2人の幼い姉妹が登場する。2人は御互いを“グーちゃん”と“ユーちゃん”という綽名で呼び合い、実名は一切明らかにされない。彼女達が経験して来た事や発言から、「彼女達が犯人となる。」のは想像付くのだが、2人の実名と綽名の関係性が全く判らず、モヤモヤとした思いが残ってしまう。綽名というのは実名や見た目等から付けられる事が多い訳で、こうも全く結び付かない綽名となってしまうと、「犯人当てという点から、実名と直結してしまう綽名は避けた。」という理由が在るにせよ、余りにも無理無理で冷める。
「ラスプーチンの庭」というタイトルも、“ラスプーチン”を持って来るのは判るが、“庭”というのが読み終えてもしっくり来なかった。
総合評価は、星2.5個とする。