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ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「精鋭」

2015年05月19日 | 書籍関連

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俺達は、軍隊じゃ無い。飽く迄警察官だ。「闘う」という意味が違う。
軍隊の様に、相手を打ち殺すという意味じゃ無い。テロリスト制圧して、検挙するに闘うんだ。


柿田亮(かきた りょう)は、研修を終えた許り新米巡査。自分が警察官に向いているのか悩みつつも、機動隊志望し、ハイジャック等、凶悪事件を解決する特殊急襲部隊(SAT)の隊員を目指すが・・・。

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警察小説を、自家薬籠中の物としている作家今野敏氏。冒頭梗概は、今年2月に上梓された同氏の作品「精鋭」に付いて。今野作品と言えば、「主人公が現状や自身の立場に関し、『本当に、此れで良いのだろうか?』と思い悩む場面が多い。」のだけれど、「精鋭」の主人公・柿田もそんな1人。新米巡査として、同僚言動に疑問を持ったり、又は目から鱗が落ちたりし乍ら、人間として成長を遂げて行く。

 

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交通課での柿田の教育係は、小西という名の35歳の巡査部長だった。彼は、あるとき、こんなことを言った。「どんなドライバーでも、たいてい違反は犯している。停車禁止の場所で停車することもあるだろう。制限速度を超えたことのないドライバーはいない。切符を切るか切らないかは、俺たちの判断一つだ。」。

 

その話をするとき、小西はうれしそうだった。警察の中で交通課が一番意地が悪いかもしれない。事実、小西はちょっと腹黒かった。「取り締まりで、張り込む場所を選ぶには、ちょっとしたコツがある。曲がりくねった細い道から、直線になる道路の脇に隠れていたら、速度違反は入れ食いだぜ。」。柿田も運転をするので、覚えがあった。たしかに、そういう道ではついスピードを出してしまう。

 

さらに、小西はこんなことも言った。「あとは、住宅街の一時停止だな。たいてい、完全停止しないから、検挙放題だ。」。

 

それが交通課の仕事なのだと、理解はしていても、こうあからさまに言われると、柿田はちょっと反感覚える。「それって、違反を作るための取り締まりじゃないですか?」

 

小西は、ふんと鼻で笑ってから言った。「ばか言え。取り締まりは交通安全のためにやるんだ。交通法規を守らないと、そのうち大事故につながる。」。「はあ・・・。」。それはわかるが、どうも納得がいかない。

 

割れ窓理論って知ってるか?」「ええ、割れた窓を放っておくと、どんどん他の窓も割られてしまう、という話ですね。つまり、軽微な犯罪を放っておくと、やがて治安が悪化し、凶悪犯罪の温床になる、という・・・。」。「交通違反も同じだ。些細なことだと、見逃していると、次第にエスカレートして、そのうちたがが外れる。そして、大事故につながるわけだ。だから、俺たちは、せっせと違反を取り締まる。」。

 

中略

 

「いいか?右折車がいるとする。そこに横断歩道がある。歩行者がいた場合、右折車は、停車してその歩行者が通過するのを待たなければならない。」。「はい。」。「そのとき、歩行者が車を気にして歩調弛めたとしたら、おまえ、どうする?」「どうするって・・・。」。柿田は戸惑った。質問の意図がよくわからない。

 

小西は言った。「その場合、右折車のドライバーに違反切符を切ることができる。」。「えっ・・・。」。柿田は、つい声を上げた。「どこが違反なんですか?」「安全運転義務違反だ。道交法には、ちゃんと規定がある。歩行者優先の原則だ。ドライバーは、歩行者の安全を確保する義務がある。歩行者が車を気にして、歩調を弛めるようなことがあってはならないんだ。」。

 

そんな・・・。早足になるとか、ゆっくり歩くとか、車を気にするとかは、歩行者の側の問題でしょう。。「そんなことを言っていたら、ちゃんと違反車を検挙することなんてできないぞ。まあ、今のは、そういうことも取り締まりの対象になり得るんだぞ、という一例だが・・・。」。「なんだ・・・。本当にそういうのを取り締まるわけではないんですね。」。「いや、実際に切符を切ったやつがいる。」。

 

柿田は、またしても驚きの声を上げた。「本当に検挙したんですか?ドライバーはおとなしく従ったんですか?」小西は、意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。もちろん、猛烈に抗議をしたそうだ。だがな、ここが大切なところだから覚えておけ。一度捕まえたら、絶対に逃がしちゃいけない。仏心なんて出しちゃだめだぞ。警察官は、市民と接するときは、常に毅然としていなければならない。

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以前にも書いた事だけれど、個人的に警察官に対して強烈な悪印象を持っている訳では無いが、過去にとても不快な思いをさせられた事が在る。もう10数年以上前、運転中、警察官に呼び止められ、車を停止させられたのだが、其の理由が全く判らなかった。聞けば、上記した「歩行者の安全確保義務を怠った安全運転義務違反」と言う。「御宅其処の横断歩道で停止しなかったでしょ?なので、彼の女性が渡るのを妨げられたんだよ。」と、30代位の警察官は指摘。

 

「冗談じゃ無い!」と反論する自分。「横断歩道の前で一旦停止し、渡る人間が誰もないのを確認した上、ゆっくりと車を動かした。」事に、100%自信が在ったからだ。「いや、私がハッキリ見ましたから、間違い無いです。」との警察官は答えるも、目は伏せ勝ちで、明らかに嘘を吐いているのが判る。

 

頭に来て言い返していた所、渡るのを妨げられたと(警察官が)称していた高齢の女性が近くに来て、「どうしたんですか?」と問う。事情を説明した所、「私、横断歩道を全く止まる事無く、普通に渡りましたよ。此の方どころか、1台も車は無かったし。」と証言してくれた。

 

ところが、其の警察官はしどもろもどろになり乍らも、「私がハッキリ見たのだから、間違い無い!」の一点張り。「貴方が被害者と称している私が、『そんな事実は全く無い。』と言っているのに、横暴過ぎるわ。」と件の女性も言ってくれたのだけれど、聞く耳を一切持たず、結局、高い罰金を支払わされたのだが、小西の言葉を読んで「成る程。」という思いが。警察官の多くは真面目職務当たっていると信じてはいるが、中には権力笠に着るも居るのだ。

 

話を「精鋭」に戻すが、SATの一員抜擢され、其処で成長して行く柿田の姿が興味深い。是が非でもSATの隊員になりたい。」としゃかりきになっている“同僚達”に対して、生真面目な柿田は別にSATに興味が在る訳でも無く、流されて志願する事になるのだが、鈍感さと前向きさが、結果として自身のみならず、同僚達をもレベルアップさせて行くのだから。

 

総合評価は、星3つとする。


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2 コメント

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Unknown (梅吉)
2015-05-21 01:51:28
警察の内情が見事に描かれていますね。
出世と役人体質、官僚体質の実情、内情も
警察独特の事なかれ主義という体質も
上手く描写されてる感じの物語だと思います。

でも実際にはこういうことは
あってほしくはないですけど。



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>梅吉様 (giants-55)
2015-05-21 02:37:41
書き込み有難う御座いました。

記事では書かなかったのですが、実は警察官による取り締まりで嫌な思いをした事が、もう1つ別に在ります。3年程前ですが、追い越し禁止車線上で車線変更をしたという事で捕まりました。然し、100%していない自信が在ったので、当該警察官に「裁判になっても構わない。」といった強い口調で抗議を続けていた所、其の方が居丈高では無かった事も在り、「貴方は嘘を吐く様な感じには見えないし、恐らくは目視した警察官の判断ミスだったのでしょう。申し訳無い。」と丁寧に謝罪し、無罪放免にしてくれました。こういう方も居るんですね。
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