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大規模停電、強毒性ウィルスの蔓延、飛行機墜落事故等が立て続けに発生し、世界は急速に混乱に陥った。此れ等全ての原因は、謎の人工知能「天軸」の暴走と考えられた。
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の選ばれし3人は、人工知能の開発者が残したという巨大な樹の絵画「楽園」を手掛かりに、暴走する「天軸」の所在を探る。
旅路の果てには、誰も想像出来無い結末が待ち受ける。
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2000年に小説「オーデュボンの祈り」で文壇デビューを果たした伊坂幸太郎氏。デビューから25年目の最初の作品として、書下ろしで上梓された作品が、今回読んだ「楽園の楽園」で在る。
伊坂作品と言えば、「奇妙奇天烈な名前の登場人物達」や「非現実的な設定」等々、非常に独特な世界観で支配されているのが特徴だけれど、「楽園の楽園」も、其の例外では無い。
「謎の人工知能『天軸』の暴走による、人類滅亡の危機を描いた作品。」なのだが、天軸の謎を突き止めるべく旅している男女3人組の名前が「"ごじゅうく"ひこ→孫悟空」、「"さ"ん"ごじょう"→沙悟浄」、そして「"ちょ"う"はっかい"→猪八戒」で、暴走する人工知能の名称が「てんじく→天竺」というのだから、「西遊記」をオーヴァーラップさせない人は居ないだろう。
作者の伊坂氏自身、AERA(2月17日号)の中で「元々、中島敦さんが『西遊記』に題材を取った『悟浄出世』や『悟浄歎異』という小説が好きだったんだですよね。」、「『西遊記』の3人組のバランスは、前から『良いな。』と思っていました。運動神経の塊みたいな子(孫悟空)、理知的で思索的な子(沙悟浄)、性欲と食欲の塊みたいな子(猪八戒)。女性を書くのが苦手というか、良く判らないので、全員男の子で書きたかったんですけど、其処を敢えて珊瑚嬢を女性にしてみました。結果的に、良かったと思っています。」と語っている。
「楽園の楽園」は、3人が草原を歩いているシーンから始まっているのだが、「何処に向かっているのか?」も含め、良く判らない設定と成っている。「先が全く読めない展開」というのも、伊坂作品の特徴で在るのだけれど、其の本領発揮という感じだ。
本の帯に「人はどんな物にも物語(ストーリー)が在ると思い込む。屹度貴方も其の1人。」という惹句が記されていたけれど、内容的には此の2文に集約されている。「そう来たか!」という部分が在ったし、「ストーリーの中程で珊瑚嬢が語っていた"キャベツの話"が、"ああいう形"でリンクしていた。」というのも含め、「相変わらず"伏線の敷き方と其の回収"が上手いなあ。」と思った。
長編(其れも、可成りの長さの物。)が多い伊坂作品だが、「楽園の楽園」は挿絵だけの頁(14頁)を除くと全部で82頁だけ。又、文字も大きい事から、「此れで、本体1,500円は高過ぎだろ!」という声も在り、概して評価は低い様だ。だが、絵本と考えたらそう高いとは思わないし、内容的にも其処迄悪くは感じなかった。
総合評価は、星3.5個とする。