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裁判所職員採用試験に合格し、家庭裁判所調査官に採用された望月大地(もちづき だいち)。だが、採用されてから任官する迄の2年間-養成課程研修の間、修習生は家庭調査官補・通称“カンポちゃん”と呼ばれる。
試験に合格した2人の同期と共に、九州の県庁所在地に在る福森家裁に配属された大地は、当初は関係書類の記載や整理を主に行っていたが、今回、初めて実際の少年事件を扱う事になっていた。
窃盗を犯した少女。ストーカー事案で逮捕された高校生。一見幸せそうに見えた夫婦。親権を争う父と母の間で、何方に着いて行って良いのか判らない少年。
心を開かない相談者達を相手に、彼は真実に辿り着き、手を差し伸べる事が出来るのか?彼等の未来の為、悩み、成長する“カンポちゃん”の物語。
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柚月裕子さんの小説「あしたの君へ」は、家庭裁判所調査官になるべく、家庭調査官補として研修中の望月大地の“成長”を描いている。家庭裁判所は「家庭に関する事件の審判(家事審判)及び調停(家事調停)、少年の保護事件の審判(少年審判)等の権限を有する日本の裁判所。」で、作品の中で大地は少年事件と家事事件の2つを担当する。
大人びた話し方をする子供を見ると、「子供っぽく無いなあ。」と思ってしまう。でも、「子供=幼い話し方をする。」というのは決め付けで在り、大人びた話し方をし様が子供は子供なのだ。大人びた話し方をしていても、内面は大人では無い。「表面的に見えたり、又、感じたり出来る事が、必ずしも事実では無い。」という当たり前の事を、改めて思い知らされた。
5つの短編小説で構成されているが、10歳の子供を“軸”に据えた「第5話 迷う者」が一番心に響いた。事実の残酷さを感じると共に、少しの希望を感じさせるストーリーだからだ。
印象深い作品を多く生み出して来た柚木さんこそ、直木賞受賞者に相応しい作家と思っているのだが、過去に1度しか候補になっていないという事実は、本当に理解出来ない。
総合評価は、星4つとする。