ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「猫を棄てる 父親について語るとき」

2020年07月21日 | 書籍関連

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時が忘れさせる物が在り、そして時が呼び起こす物が在る。或る夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は、過去の物では無い。此の事は何時か書かなくてはと、長い間思っていた。
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村上春樹氏の随筆猫を棄てる 父親について語とき」は、彼と彼の両親に付いて記した作品。村上氏に付いては少年時代を、そして両親に付いては若かりし頃から、少年時代の村上氏と暮らしていた時代を取り上げている。

熱狂的な村上春樹ファンが少なく無いけれど、自分の場合、きちんと読んだ事が在る村上作品は「1Q84」(総合評価:星3つ)と「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(総合評価:星3つ)の2つだけ。総合評価が低い事からも御判りの様に、どうも自分は村上作品と肌合いが悪い様だ。

そんな自分が「猫を棄てる 父親について語るとき」を読んだのは、随筆という事に加え、全部で百にも満たない“手軽さ”が在ったから。イラストが結構在って、全部で百頁満たないのだから、「すらすら読めるだろう。」と思ったのだ。

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実は自分も、“決まった悪夢”を何度も何度も見て来ている。昔書いたと思うけれど、「学生時代の定期試験で、『残り時間10分!』という声を耳にしてふっと解答用紙を見ると、全くの白紙で焦り捲る。」という夢だ。「一部答えを書き切れていない。」という事は在ったけれど、「全くの白紙で、残り時間10分を迎える。」という経験は無いのに、何故か何度も何度も見る。恥ずかしい話だが、4日前にも見た。目覚めた時は、凄く疲れている。自分にとって試験は、そんなにも苦痛な思い出なのだろう。
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今年の1月18日、「悪夢
」という記事の中で書いた文章。冗談では無く、自分が良く見る悪夢なのだが、今回の随筆を読んで思わず笑ってしまったのは、村上氏も同じ悪夢を未だに見続け、魘されている事を書いておられたから。

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おそらく僕らはみんな、それぞれの世代の空気を吸い込み、その固有重力を背負って生きていくしかないのだろう。そして、その枠組みの傾向の中で成長していくしかないのだろう。良い悪いではなく、それが自然の成りたちなのだ。ちょうど今の若い世代の人々が、親たちの世代の神経をこまめに苛立たせ続けているのと同じように。
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昭和30年代の初め、小学校低学年だった(と思われる)村上少年は夏の午後、父が漕ぐ自転車の後ろに乗って、近くの浜辺に向かった。手には、猫の入った箱を持っていたと言う。理由は判らないが、猫を棄てに行ったのだ。こう書くと「残酷な。」と思われる若い人も多いだろうが、自分が幼かった頃もそうだけれど、そんなに罪悪感無しに犬や猫を棄てる人は少なく無く、自分も箱に入れて棄てられている犬を拾い、家に持ち帰った事が在る。母親から「引っ越しが多いので、飼うのは駄目。」と言われ、ミルクを飲ました後、泣く泣く元の場所に置いて行ったのが、今も強く印象に残っている。(翌日、置いて行った場所を見に行ったら、箱ごと消えていた。「どうしたのだろう?」と不安になり、一緒に見付けた同級生と捜し回った所、近所の家の人が拾って、飼う事にした事が判り、ほっとしたっけ。

村上少年の家から2km程離れていた浜辺に猫を入れた箱を置き、後も見ずにさっさと家に帰ったと言う。自転車を降りた父が「可哀想やけど、まあしょうがなかったもんな。」といった感じで玄関の戸をがらりと開けると、さっき棄てて来たの猫が「にゃあ。」と言って、尻尾を立てて愛想良く2人を迎えた。呆然とした表情を浮かべていた父だったが、軈て感心した表情に変わり、そして最後には幾らかほっとした様な顔になったと言う。

村上氏が仕事を始めた頃より、父とは疎遠な関係となり、最後には絶縁に近い状態となった。考え方の違い等が原因の様だが、20年以上全く顔を合せず、連絡も取り会わなかった。結局、父と顔を合せて話をしたのは、父が亡くなる少し前の事で、入院している病院内でだった。其の際、和解の様な事を行ったと言う。

ずっと複雑な思いを持っていた父に付いて、亡くなって以降に“彼が歩んで来た人生”を調べた村上氏。“子供時代及び軍隊時代の経験”が強い影響を及ぼし、其の事が“棄てた猫が戻って来た時の父の表情の変化”に結び付いていた(で在ろう)事は、非常に印象的だった。

総合評価は、星4つとする。


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