ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「向田理髪店」

2016年07月10日 | 書籍関連

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北海道寂れてしまった元炭鉱町。人気の無い町に住む住人達は、息子の将来の事や年老いた親の事等、皆、多くの不安を抱えている。そんな町で、理髪店「向田理髪店」を営む向田康彦(むこうだ やすひこ)。心配性の彼の周りで、起こった出来事の数々。

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6つの短編小説から構成されている、奥田英朗氏の作品「向田理髪店」。北海道の中央部に位置する笘沢町は、嘗て炭鉱町として賑わいを見せていたが、「石炭から石油へ。」というエネルギー政策転換により、昭和40年代以降、衰退一途辿っている。若者はどんどんと町から出て行き、高齢者の割合が増加。「外部から人を呼び寄せ、財政好転図ろう。」と、安直箱物作りを進めた結果、却って赤字が積み増され、遂には30年近く前に町は財政破綻

 

そんな笘沢町で「向田理髪店」を営む向田康彦は、現在53歳。札幌大学を卒業し、一旦は夢だった広告代理店に就職するも、「向田理髪店」を営んでいた父親がヘルニア患い、見せに立てなくなった事から、長男で在る彼は28歳の時に会社を辞め、家業を継ぐ事になった。

 

其れから四半世紀。父は3年前に80歳で他界し、現在は妻・恭子(きょうこ)と母・富子(とみこ)との3人暮らし。25歳の長女・美奈(みな)は東京アパレル会社で、そして23歳の長男・和昌(かずまさ)は札幌の中堅商社で働いている。

 

そんな或る日、実家に帰って来た和昌が「俺は地元を何とかしたい訳さ。」と、会社を辞め、家業を継ぐ事を宣言。自分と同じ道を進む事にした和昌に、康彦は少なからずの違和感覚えていた。子供の頃から「家業は継がない。」と。和昌は言い続けていたからだ。1日に1人も客が訪れない事も珍しく無い、過疎地の理髪店に未来が在るとは思えなかった康彦にとって、息子には「より安定した仕事を辞めて欲しく無い。」という思いも在る。

 

10年前、「夕張市の現状は決して対岸の火事では無い」という記事を書いた。小説の中で描かれている笘沢町は、財政破綻した夕張市のイメージと重ね合わさる。地方では、こういった自治体が今後も増加して行くのだろう。

 

息子を始めとする、「笘沢町を活性化させて行こう。」と動き始める若者達に対し、康彦は不安を拭い去る事が出来ない。彼等の動きに、嘗て「箱物をどんどん作れば、町は活性化する。」として大失敗した過去と共通する物を感じていたから。そして、他者には秘密にしているけれど、「康彦が地元に戻ったのには、自身の大きな挫折。」という理由が在り、其れが今でも彼の中でトラウマとして残り続け、1年で会社を辞めて戻って来た和昌にも、「同じ様な理由なのではないだろうか?」という思いも在ったから。

 

寂れて行く一方の町を舞台に「離れた過疎地に暮らす親を、子供はどう看取るか?」、「過疎地で暮らす子供達の結婚や仕事等の問題。」、「狭い地域だからこそ、良い面も難しい面も存在する人間関係。」等々、多くの問題が描かれている。

 

同年代として、康彦の気持ちは凄く理解出来る。挫折が大きければ大きい程、其のトラウマは払拭難いだろうし、諸々の問題に対する不安感が、必要以上に大きくなってしまう事も在るだろう。

 

と同時に、「何とか故郷を活性化させたい!」という若者達の思いも、痛い程判る。誰しも、自分が生まれ育った地域が寂れて行くのは、耐えられない事だろうから。

 

何の作品も、ハッピーエンドで終わる訳では無い。そこそこの希望と、先がどうなるか見えない不安とかが入り混じった、実に微妙な終わり方。完全なハッピーエンドにしてしまうには、過疎地の現実は重過ぎるという事なのだろうが、個人的には評価出来る終わり方だったと思う。

 

総合評価は、星4つ


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