世の中には「失礼な事を口にしても、『此の人が言うなら、まあ仕方無いな。』と笑って許して貰える様な人。」が居たりする。芸能人の場合、男性では蛭子能収氏、女性では黒柳徹子さんなんかが、そんなタイプだと思う。
我が国のTV放送史を語る上で、外せない人物の1人が黒柳さん。何しろ黎明期より今に到る迄、TV放送の第一線で活躍し続けて来た方なので。そんな黒柳さんが、今は亡き“同士達”(向田邦子さん、森繁久彌氏、沢村貞子さん、渥美清氏、坂本九氏、杉浦直樹氏等。)との思い出を綴った本が「トットひとり」(著者:黒柳徹子さん)。
黎明期、放送用のテープが高価だった事も在ってか、収録では無くて、生で放送される番組が結構在った。「TVドラマでは、生放送ならではのハプニングも多かった。」と良く見聞するが、「トットひとり」に記された逸話には大笑いしてしまった。
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この手の話で、「あれはすごかった、うまくいった。」と私たちの間で英雄的に語り継がれたのは左卜全さん【動画】のケース。やはりセリフ憶えのよくない左さんは、路傍のお地蔵さんのよだれかけにセリフを書いていた。誰か意地の悪い人がいて、本番直前に、何体ものお地蔵さんを全部、後ろ向きにしてしまった。いざ本番となって、入ってきた左卜全さんは、お地蔵さんをチラッと見るや、慌てず騒がず、すぐ近寄ると、「また、村の童がイタズラしおって!」と、さも、いまいましそうに舌打ちしながら、お地蔵さんを次々と、素早く、正面に向き直した。そして、平然と、よだれかけを見ながら、セリフをすらすらと言い始めた。あまりの見事さに、現場にいた人たちは驚嘆し、本番中なのを忘れて、思わず拍手しそうになった。
この左卜全さんが、森繁さんを絶句させたことがある。森繁さんが刑事役で、左さんが被害者というか、死体になって、お棺に入っていた。森繁さんはお棺の前で、推理する場面を演じていたのだが、何回目かにふと見ると、お棺の中に死体がない。それが映ってしまった。左さんがもう終わったと思って、お棺から出て、化粧室へ行ってしまったのだ。もちろん、お棺から死体が消えるという事件ではない。さすがの森繁さんも身もだえするような感じで繋いでいる間、みんなで必死に左さんを探したのだけれど、そんな遠くまで行った筈もないのに、すぐには戻って来ない。森繁さんが、犯人は誰だ、みたいな名推理をしても、どんなにうまいアドリブを言っても、沈黙で時間を稼いでも、いよいよどうにもならなくなって、「終」のフリップが出ることになった。
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自分の場合、黒柳さんと言えば、音楽番組「ザ・ベストテン」【動画】で久米宏氏と共に司会を務めていた姿が、強く印象に残っている。同番組は様々な点に於て斬新で、久米氏と黒柳さんが司会を務めていた間は、毎週欠かさずに見ていた。
当時としては斬新奇抜な音楽番組「ザ・ベストテン」を立ち上げたのは、32歳のディレクター・山田修爾氏だった。“音楽番組や芸能界の不文律”を崩す番組スタイルには、多くの圧力が掛かったそうだが、其れにもめげず番組を立ち上げ、大人気番組にしたのだから、本当に頭が下がる。
「“常識”では思い浮かばない様な演出。」や「視聴者をハラハラさせ、番組内にのめり込ませる演出。」等が、此の本で具体的に記されている。「実際に行ってみないと、何が起こるか判らない様な面も在る演出。」を次々に“掛け合わせる”事で、途轍も無いパワーを有する、実に魅力的な番組が出来上がっていたというのを、改めて感じさせられた。
近年、似た様なTV番組が多く、見る気が失せてしまう。「景気が振るわない事から、番組制作費が大幅に減っている。出来るだけ製作費を掛けないで、良い視聴率を稼がなければいけない。だから、冒険的な番組は作れない。」*1というのも背景には在るのだろうけれど、作り手側の“別の思考”も大きく影響している様に感じる。
「ザ・ベストテン」が「『実際に行ってみないと、何が起こるか判らない様な面も在る演出。』を次々に“掛け合わせた、言わば“掛け算的思考”で作られた番組。」とするならば、近年の番組には「タレントのAは○%、BはX%、そしてCは△%の潜在視聴率を持っているとされるので、彼等を番組に起用したら、『○%+X%+△%』分の視聴率が稼げる筈。」といった“足し算的思考”が見受けられる。
“足し算的思考”が必ずしも悪いとは言わないし、そういう“足し算的思考”で作られた番組は、一定の数字を稼ぐかもしれない。でも、“掛け算的思考”で作られた様な、途轍も無いパワーを有する番組は、“足し算的思考”で作るのは難しい様に思う。
*1 「“無闇矢鱈とクレームを入れる風潮”が、番組制作者を必要以上に委縮させ、冒険的な番組を作り辛くさせている。」という面も在るだろうけれど。
1998年からタイムスリップでした。
最近の黒柳さんは滑舌がはっきりしないので少しつらい。永六輔と同じ理由でしょうか。
ベストテンの相方だった人たちはテレビで見ない人が増えた。故人もいる。久米、コニタン、男アナウンサーは殆どテレビに出てこなくなったかな。古館も司会だったと思ったらそれは「夜ヒット」でした。こっちは井上順も良く見るし男司会者はそれなりに見る。女司会者はどうしてるかなー。
「十年一昔」と言いますが、近年は移り変わりのスピードが加速し、「五年一昔」位の感じがします。TVの世界も例外では無く、一時は露出度が凄かった人でも、全く見掛けなくなった事に気付かないケースも。
VHSのテープと言えば、「ザ・ベストテン」を結構録画&保存していました。電波受信状況が余り良く無かった事も在り、録画画質はクリアで無かった為、DVDが普及し始めた頃、ごっそり処分してしまった。今となっては、「勿体無い事をしたなあ。」と思ったりしています。
黒柳さん、入れ歯の具合が悪いのか、言葉がハッキリしない。老化現象とはいえ、「ザ・ベストテン」での喋りを知っている身としては、凄く残念。
“夜ヒット”の女性司会者、本当に見掛けなくなりましたね。「彼女が紹介したという“謎の治療師”に掛かった事で、高峰三枝子さんや美空ひばりさんの死期が早まった。」という“疑惑報道”がされて以降、芸能界からフェイドアウトして行った様に感じます。