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巨大スーパー「一風堂」を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に、株価は暴落。一風堂の巨額支援要請を巡って、メイン・バンクの白水銀行では、審査部の板東洋史(ばんどう ひろし)は企画部の二戸哲也(にと てつや)と対立する。
一方、警視庁の野猿(やえん)刑事に架かって来たタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追い込まれていた。
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元銀行員の作家・池井戸潤氏の小説「株価暴落」を読了。9年前に書き下ろしで刊行された此の作品、巨大スーパー「一風堂」の目黒店の食品売り場で爆発テロが発生し、多数の死傷者が出たという状況から、ストーリーは展開して行く。事件発生直後、一風堂のHPの投書コーナーに、、「案山子」を名乗る人物からの書き込みが発見され、其処には「カリスマ創業者として一風堂を『グループ売上2兆円、傘下に数百社を擁する超巨大企業に迄育て上げるも、其の独裁的な手法で多くの人間を路頭に迷わせ、挙句に一風堂に1兆円を超す有利子負債を抱えさせる事になった会長・風間耕造(かざま こうぞう)と、其の女婿にして社長の西原竹史(にしはら たけし)の速やかなる辞任。」を求めると共に、「要求が受け容れられない場合は、新たなるテロを行う。」との“宣戦布告”が在った。
池井戸作品には、下敷きとなる「人物」や「事件」が在るケースが結構在り、其れ等を頭の片隅に置き乍ら読むと、又、別の“味わい”が在る。先日読了した「空飛ぶタイヤ」は「三菱リコール隠し」が、そして「鉄の骨」は「大林組の元幹部等、ゼネコン5社の営業担当者が逮捕された、名古屋市発注の地下鉄延伸工事を巡る談合事件。」がといった具合に下敷きが存在している訳だが、今回の「株価暴落」は「中内功氏」と彼が率いていた「ダイエー・グループ」が下敷きになっているのは間違い無いだろう。
元銀行員だけ在って、経済用語がポンポン出て来るのだが、シンプル且つ判り易く説明されており、経済面に弱い自分には勉強になった。又、「真犯人」呼び「真の犯行目的」は意外さが在り、ミステリーとしても読み応えが在る。
「正しい事をしている人間が報われず、不正を働く人間が利益を得る。」という理不尽は、現実社会で少なからず見受けられるが、池井戸作品は波乱万丈が在るものの、最後は「正しい事をしている人間が報われ、不正を働く人間は“罰”を受ける。」というのが、カタルシスを得られて良い。
総合評価は、星3.5個。
世の中は綺麗事だけでは回らず、寧ろダーティーな部分が主流となっているという現実は在りますが、そうは言っても、必死で頑張っている者が馬鹿を見る世の中というのは、何とも遣り切れない。そんな思いをスッキリさせてくれる池井戸作品というのは、本当に貴重です。