昨年、突如巻き起こった将棋ブーム。高齢の“ひふみん”事加藤一二三氏と若い藤井総太氏という、色んな意味で対極的な2人のプロ棋士がブームを牽引したのは、多くが知る所だろう。
親戚には、囲碁を嗜む者が多い。亡き父は囲碁はしなかったが、将棋が得意だった。そして自分は、囲碁も将棋も全くした事が無い。共に、知識は全く無いに等しい。
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71歳の老婆が、自宅で殺された。片手に握っていたのは将棋の「歩」、ポケットに入っていたのは「銀」の駒。其の後、名古屋市の老人が次々に殺害されるが、何故か全ての現場には、将棋の駒が残されていた。被害者の共通点も見出だせず、行き詰まる中、捜査1課の女性刑事・水科優毅(みずしな ゆき)巡査部長と佐田啓介(さた けいすけ)巡査部長は、或る可能性に気が付いて・・・。
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第17回(2018年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で優秀賞を受賞した「盤上に死を描く」は将棋、其れも詰将棋を題材にした小説。著者の井上ねこ氏は65歳での受賞という事で、此れは“このミス大賞”史上最年長の受賞者なのだとか。“ひふみん”が人気者になった年に、同じく高齢の井上ねこ氏が快挙を達成した訳だ。
詰将棋の創作が趣味という事なので、「詰将棋を題材にした小説を書く。」というのは、彼にとって必然の事だったのだろう。又、名古屋市の大学に通われていたそうなので、名古屋弁が使われた会話が少なからず登場する。「名古屋が故郷。」という思いが強い自分にとって、“けったましーん”等、使われている名古屋弁は非常に懐かしい。
殺人の動機や現実味という点では「どうなのかなあ?」と思う所も在るが、“被害者達の関連性”という点では「面白い発想!」と感心。3番目の事件迄は被害者が全て高齢女性だったので、「高齢女性を狙った連続殺人事件!」という展開だったが、4番目の被害者が高齢男性、そして5番目は50歳代の女性という事で、被害者達の関連性が全く判らなくなってしまうからだ。
「ミステリーと詰将棋が趣味の30歳の女性・水科優毅。」と「ホスト風の端正なルックスで、物憂げな佇まいの中年男性・佐田啓介。」という2人がコンビを組み、謎を解いて行く。キャラクター設定は悪く無いと思うが、水科に比べると佐田の登場頻度が少なく、余り目立たない。「キャラクターが、余り生かされていないなあ。」という感じがする。
又、最も不満を感じたのは、「自分の様に詰将棋の知識が無い読者にとって、“駒の動かせる範囲”等の説明が無いのは、非常に不親切。」という点。余りにもくどくどしく説明するのもどうかとは思うけれど、「読者が全て、詰将棋に詳しい。」という訳では無いのだから、“必要最低限の説明”は記して欲しかった。
被害者達の関連性等、設定面で面白さを感じるけれど、結末は在り来りな感じ。「もっと捻りが欲しい。」と思わせる勿体無さが。
そんなこんなで、総合評価は星3つとする。