斟酌に、手加減する意味が現れる。忖度が悪だくみに用いられる。どちらも、漢字の難しい語である。斟酌は、もと、水、飲料などをくみ分ける意から、酒を酌み交わすことにもなる。さらに、控えめにする、辞退する、と、転義に近い意味内容になる。
しん‐しゃく【×斟酌】例文一覧 8件
・・・ なおこの土地に住んでいる人の中にも、永く住んでいる人、きわめて短い人、勤勉であった人、勤勉であることのできなかった人等の差別があるわけですが、それらを多少斟酌して、この際私からお礼をするつもりでいます。ただし、いったんこの土地を共有し・・・<有島武郎「小作人への告別」青空文庫>
・・・ いかに孝女でも悪所において斟酌があろうか、段々身体を衰えさして、年紀はまだ二十二というのに全盛の色もやや褪せて、素顔では、と源平の輩に遠慮をするようになると、二度三度、月の内に枕が上らない日があるようになった。 扱帯の下を氷で冷す・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
・・・…… すべて、いささかも御斟酌に及びません。 諸君が姑息の慈善心をもって、些少なりとも、ために御斟酌下さろうかと思う、父母も親類も何にもない。 妻女は亡くなりました、それは一昨年です。最愛の妻でした。」 彼は口吃しつつ目瞬し・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
・・・ こういう道義的アナーキズム時代における人の品行は時代の背景を斟酌して考慮しなければならない。椿岳は江戸末季の廃頽的空気に十分浸って来た上に、更にこういう道義的アナーキズム時代に遭逢したのだから、さらぬだに世間の毀誉褒貶を何の糸瓜とも思・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
・・・ただし事皆世上には知られぬよう、臙脂屋のためにも此方のためにも、十二分に御斟酌あられい。ハテ、心地よい。木沢殿、事すでにすべて成就も同様、故管領御家再興も眼に見えてござるぞ。」というと、人々皆勇み立ち悦ぶ。「損得にはそれがしも引廻さ・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
・・・私は、年少の友に対して、年齢の事などちっとも斟酌せずに交際して来た。年少の故に、その友人をいたわるとか、可愛がるとかいう事は私には出来なかった。可愛がる余裕など、私には無かった。私は、年少年長の区別なく、ことごとくの友人を尊敬したかった。尊・・・<太宰治「散華」青空文庫>
・・・それで貌の処だけは幾らか斟酌して隙を多く拵えるにした所で、兎に角頭も動かぬようにつめてしまう。つまり死体は土に葬むらるる前に先ずおが屑の嚢の中に葬むらるるのである。十四五年前の事であるが、余は猿楽町の下宿にいた頃に同宿の友達が急病で死んでし・・・<正岡子規「死後」青空文庫>
・・・女子が、神経の弱い、社会的因襲による無智から常規を逸しやすいものとして、結論に当っていくらかの斟酌を加えられる場合は決して尠くないけれども、刑法は女子が人妻だからといって無能力者と規定してはいないのである。日本の婦人の置かれて来た立場の奇怪・・・<宮本百合子「石を投ぐるもの」青空文庫>
斟酌(しんしゃく) - 語源由来辞典
gogen-allguide.com › 「し」から始まる言葉
斟酌の「斟」は分量を探りはかりながら汲むこと、「斟」は柄杓で汲み上げる意味で、斟酌は酒や水の分量をはかってくみ分けることが原義。
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%9F%E9%85%8C
>
斟 酌(しんしゃく)
(原義)水や飲料をくみ分けること。
相手の事情や心情などを推量すること。また、それによって手加減すること。
「… 好嫌(すききらい)は別として、こちらで他に求める条件だけは、ちゃんとこちらにも整えてあるんだから、強あながち身勝手ばかり謂うんじゃない。けれども、品行の点は、疑えば疑えると云うだろう。そこはね、性理上も斟酌をして、そろそろ色気が、と思う時分には、妹たちが、まだまだ自分で、男をどうのこうのという悪智慧(わるぢえ)の出ない先に、親の鑑定めがねで、婿を見附けて授けるんです。 …」(泉鏡花『婦系図』)
いろいろと参照して、取捨選択すること。
控えめにすること。遠慮すること。
斟酌(読み)シンシャク
デジタル大辞泉の解説
しん‐しゃく【×斟酌】
[名](スル)《水や酒をくみ分ける意から》
1 相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること。「採点に斟酌を加える」「若年であることを斟酌して責任は問わない」
2 あれこれ照らし合わせて取捨すること。「市場の状況を斟酌して生産高を決める」
3 言動を控えめにすること。遠慮すること。「斟酌のない批評」
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
大辞林 第三版の解説
しんしゃく【斟酌】
( 名 ) スル
〔「斟」も「酌」も汲くむ意〕
① 相手の事情・心情などをくみとること。 「相手の立場を-して裁定を下す」
② 手加減すること。手ごころ。 「採点に-を加える」
③ 条件などを考え合わせて、適当に取捨選択すること。 「虚心にこれを-商量すべきことなり/西国立志編 正直」
④ 遠慮すること。ためらい。 「 -せず推返おしかえし言へば/五重塔 露伴」
出典 三省堂大辞林 第三版について 情報