現代日本語文法文章論 題材は、タイトルが、そうよ役割語は深くてよ とある。副題に、人物像示す架空の言葉、日本語表現の豊かさと危うさ探る とある。エッセイである。日本経済新聞の文化面、20141017付けである。執筆者は、 金水 敏氏である。なお、有料会員サイトであり、著作の全文をこのように言語分析に資料としているので、そのことをお断りするとともに、ここにお礼を申したい。
冒頭の文は、次である。
>まず次の文章を読んでもらいたい。
末尾の文は、次である。
>言語学の新しい研究分野として、裾野が広がっていくことを願っている。
書き出しの文段は、次のようである。
> まず次の文章を読んでもらいたい。少女漫画に出てくる「お嬢様ことば」は明治期の女学生言葉の流れをくむ(川原泉「笑う大天使」より、(C)川原泉/白泉社)
(1)そうじゃ、わしが知っておる。
(2)そうよ、わたくしが知っておりますわ。
(3)さよう、拙者が存じておりまする。
末尾の文段は、次のようである。
> 若い研究者の協力も得て、このほど「〈役割語〉小辞典」(研究社)を出版した。これまでに集めた役割語の用例と歴史を紹介したこの本の刊行は一つの節目だが、今後はさらに研究の土壌を整えていきたい。力を入れたいのは海外との研究協力だ。役割語が存在しているのは日本語だけではない。言語学の新しい研究分野として、裾野が広がっていくことを願っている。
段落は、見出しのもと、次のようである。
> 大衆的な作品で多用
役割語は現実の言語の一部ではない。実際の老人は「そうじゃ、わしが知っておる」などという言い方をしないだろう。これはフィクションの中の言葉なのである。
> すでにあるものが変質
老人語のように古い歴史を持つものもあるが、実は多様な役割語が生み出され、社会に浸透していったのは1970~80年代のことだということもわかってきた。背景にはマンガやアニメなどの発展がある。56年生まれの私はそうした創作物に大いに触れてきた世代だ。だからこの研究は、まさに自分の仕事だという意識を強く持っている。
> 信じすぎてはいけない
ひとつ忘れてはならないことがある。役割語はステレオタイプのイメージを強化する危険性もあるということだ。たとえば役割語としての大阪弁がそうだ。テレビでタレントが話す誇張された大阪弁はバーチャルなものである。言葉を信じすぎてはいけない。
2014/10/20付
日本経済新聞
19世紀末、欧米では、エンジンを使った動力飛行をめざす様々な挑戦があった。翼を鳥やコウモリに似せたり、主翼と尾翼を同じ大きさにしたり。その中で1903年に米国のライト兄弟が栄誉を手にした根本の理由は何か。佐貫亦男著「不安定からの発想」に詳しい。
機体を安定して飛べる構造にすることばかり考えるのを、やめたからだという。空中で不安定になるのを最初から織り込み、機体をいかにうまく操るか追求した。例えば主翼にケーブルをつなぎ、腹ばいになった人間がこれを引っ張って翼をたわませ、バランスをとる。人の操縦能力を生かそうと考え方を転換したわけだ。
安定志向を捨て、不安定な状態が当たり前と割り切った、いわば逆転の発想だ。空の世界をめぐっては、そうした心構えが、今の航空機ビジネスにも必要なのかもしれない。世界景気の混迷で航空機の需要予測は容易でない。新興国メーカーも手ごわい。完成披露式のあった国産旅客機「MRJ」も先行きは楽観できまい。
事業会社の三菱航空機(名古屋市)には不安定な環境の中でも人の知恵と工夫で前に進む姿を、ライト兄弟の飛行機のように見せてほしいものだ。兄弟は飛行技術がほどなく競合相手に追いつかれ、計画していた飛行機の開発・製造では成功者になれなかった。そのころから技術革新は速かった。教訓の多い2人の歩みだ。
冒頭の文は、次である。
>まず次の文章を読んでもらいたい。
末尾の文は、次である。
>言語学の新しい研究分野として、裾野が広がっていくことを願っている。
書き出しの文段は、次のようである。
> まず次の文章を読んでもらいたい。少女漫画に出てくる「お嬢様ことば」は明治期の女学生言葉の流れをくむ(川原泉「笑う大天使」より、(C)川原泉/白泉社)
(1)そうじゃ、わしが知っておる。
(2)そうよ、わたくしが知っておりますわ。
(3)さよう、拙者が存じておりまする。
末尾の文段は、次のようである。
> 若い研究者の協力も得て、このほど「〈役割語〉小辞典」(研究社)を出版した。これまでに集めた役割語の用例と歴史を紹介したこの本の刊行は一つの節目だが、今後はさらに研究の土壌を整えていきたい。力を入れたいのは海外との研究協力だ。役割語が存在しているのは日本語だけではない。言語学の新しい研究分野として、裾野が広がっていくことを願っている。
段落は、見出しのもと、次のようである。
> 大衆的な作品で多用
役割語は現実の言語の一部ではない。実際の老人は「そうじゃ、わしが知っておる」などという言い方をしないだろう。これはフィクションの中の言葉なのである。
> すでにあるものが変質
老人語のように古い歴史を持つものもあるが、実は多様な役割語が生み出され、社会に浸透していったのは1970~80年代のことだということもわかってきた。背景にはマンガやアニメなどの発展がある。56年生まれの私はそうした創作物に大いに触れてきた世代だ。だからこの研究は、まさに自分の仕事だという意識を強く持っている。
> 信じすぎてはいけない
ひとつ忘れてはならないことがある。役割語はステレオタイプのイメージを強化する危険性もあるということだ。たとえば役割語としての大阪弁がそうだ。テレビでタレントが話す誇張された大阪弁はバーチャルなものである。言葉を信じすぎてはいけない。
2014/10/20付
日本経済新聞
19世紀末、欧米では、エンジンを使った動力飛行をめざす様々な挑戦があった。翼を鳥やコウモリに似せたり、主翼と尾翼を同じ大きさにしたり。その中で1903年に米国のライト兄弟が栄誉を手にした根本の理由は何か。佐貫亦男著「不安定からの発想」に詳しい。
機体を安定して飛べる構造にすることばかり考えるのを、やめたからだという。空中で不安定になるのを最初から織り込み、機体をいかにうまく操るか追求した。例えば主翼にケーブルをつなぎ、腹ばいになった人間がこれを引っ張って翼をたわませ、バランスをとる。人の操縦能力を生かそうと考え方を転換したわけだ。
安定志向を捨て、不安定な状態が当たり前と割り切った、いわば逆転の発想だ。空の世界をめぐっては、そうした心構えが、今の航空機ビジネスにも必要なのかもしれない。世界景気の混迷で航空機の需要予測は容易でない。新興国メーカーも手ごわい。完成披露式のあった国産旅客機「MRJ」も先行きは楽観できまい。
事業会社の三菱航空機(名古屋市)には不安定な環境の中でも人の知恵と工夫で前に進む姿を、ライト兄弟の飛行機のように見せてほしいものだ。兄弟は飛行技術がほどなく競合相手に追いつかれ、計画していた飛行機の開発・製造では成功者になれなかった。そのころから技術革新は速かった。教訓の多い2人の歩みだ。