超高層ビルを襲う地震は、なぜ怖いのか 「長周期地震動階級」を知っておこう
東日本大震災の余震とみられる地震が2月17日、相次いで東北を襲った。津波は予測の1メートルを超えず、大きな被害はなかったが、気象庁は引き続き余震への警戒を呼び掛ける。震災は4年で終わったわけではない。
そうあらためて気づかされたのは筆者だけではないだろう。そして首都圏や西日本を直撃する次の震災にも備えねば。そのとき、大都市の超高層ビルで働く人やタワーマンションなどに住む人たちは、「もう一つの震度」があることも知っておきたい。
今回、津波注意報が発表された17日朝の地震は、岩手県を中心に最大震度4の揺れだった。一方、午後に発生した地震は、青森県で最大震度5強を観測。地震の規模を表すマグニチュードは朝(マグニチュード6.9)よりも、午後(マグニチュード5.7)のほうが大きかったが、内陸に近い分、午後の方が震度は大きくなったと見られる。
ただし、気象庁が試験的に取り入れているもう一つの揺れの指標、「長周期地震動階級」では、朝の地震が「階級2」、午後は「階級0」と、数字の大きさは逆転していたのだ。
「長周期地震動」とは長く、ゆっくりとした地震の振動をいう。その1往復にかかる時間(周期)が、建物固有の揺れやすい周期(固有周期)と一致すると、建物の揺れが増幅される。特に高さ31メートル以上の高層ビル、60メートルを超える超高層ビルなどは、階が高いほど大きく揺れる。
そこで、1階レベルの地震計でとらえた揺れのデータから高層階での揺れを推計し、「階級1」から「階級4」までの数字で表すのが「長周期地震動階級」だ。気象庁が2013年3月から試行的に運用、地震発生時に通常の震度とほぼ同時に発表している。
「ドン」と突き上げるような地震は、地表の揺れとしては大きく感じるが、周期1.6秒以下なら長周期地震動の対象でなく「階級0」となる。かわりに海溝型の地震は遠くからでもユラユラした大きな揺れが内陸に伝わるため「階級」は上がりやすい。先の東北での逆転現象はそのためで、「階級2」も三陸の沿岸部ではなく、秋田県内陸南部に出された。
「階級2」は「室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じる」揺れ。そして、「立っていることが困難になる」「間仕切り壁などにひび割れ、亀裂が入ることがある」という「階級3」は、昨年11月の長野県北部地震の際に、運用後初で観測された。「這わないと動けない」「固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある」という「階級4」はまだ出されていない。
もちろん出されたとしても、その場所に影響を受ける高層ビルや石油タンクなどの構造物がなければ、あまり意味がないことになる。とくに、高層ビルやマンションが密集する都市部において有効な指標と言える。
4年前の東日本大震災では、三陸沖を震源とする地震が東京や800キロメートル以上離れた大阪まで激しく伝わった。このことは、多くの読者にとって記憶に新しいところだろう。
気象庁が地震発生時に100〜150メートル級の高層ビルにいた人たちに聞き取りをしたところ、東京では「嵐の中の船の中にいるような揺れで、目が回ってしゃがみ込んだ」「最初は円をかくようになって、次第に大きく回る感じ。高層階は立っていられないくらい」「屋上で設備の点検をしていたら次第に揺れが大きくなって、振り落とされるのではないかと思い、床に這いつくばった」「外を見ると、隣のビルがしなるように大きく揺れていた」などの生々しい証言が飛び出した。
大阪でも、ビルの43階にいた男性は「立っていられないほどの揺れで、机に手をついて支えていた」、20階にいた女性は「エレベータホールからバシンバシンという大きな音が聞こえて怖かった」などと答えている。
大阪の臨海部に建つ大阪府咲洲(さきしま)庁舎は、長周期地震動の影響をまともに受けた超高層ビルの一つだ。最上階の52階は左右に最大2.7メートル振幅する揺れが10分間も続いた。天井の落下や壁の亀裂などの損傷が約360カ所発生。エレベータは全32基が停止、うち4基で人が5時間近くも閉じ込められた。大阪市内の揺れは最大で震度3だったことを考えると、このビルの中はまさに「別次元」だったのだ。
当時、本庁舎移転を検討していた橋下徹知事は、専門家との議論の末に全面移転を断念。長周期地震動に備えた耐震補強をした上で、第二庁舎としての利用は続けることにした。
現在、約300台の制震ダンパー類を取り付け、長周期振動センサーをエレベータに設置するなどの工事を終え、ロッカー、デスク類もすべて床や壁に固定している。高層階で勤務する総務課職員は「部署の配置換えなどの際にもいちいち固定し直さなければならないが仕方ない。揺れを想定して机の下で待機する訓練や、非常階段までのルートの確認などもよくしている」と話す。
咲洲庁舎の専門家会議で委員を務めた名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授は、気象庁の長周期地震動に関する検討会にも中心的にかかわり、情報伝達などについて検討を重ねた。
「震度とは違う揺れがあることを一般の人に理解してもらうために、まず先駆けてやることに意味がある。不特定多数でなく、高層ビルやマンションにいる人たちにどう効果的に、混乱なく伝えられるか。情報の出し方を徹底的に工夫しなければならない」と指摘する。地震発生直後はもちろん、事前の耐震補強や家具止めなどの意識啓発にも活用されるべきだという。
現在は気象庁のホームページにアクセスした人だけが見られ、伝え方を含め試行している段階だ。同庁地震津波監視課は「いずれは放送局などに提供してテロップとして流してもらったり、携帯電話やスマートフォンのアプリで必要なユーザーに届けたりしたい」と話す。
われわれが「2つの震度」を当たり前のように受け止められる日が、1日でも早く来た方がいいに違いない。