この映画を知ったのは昨年の東京フィルメックスでした。(いやシン・ハギュン目当てでクローズド上映の「渇き」観に行ったんですが)
イランでは音楽が規制されていて、許可を得ないと音楽が演奏できないという状況の中で、危険を覚悟でアンダーグラウンドで音楽活動を続けるミュージシャンたちを映しているドキュメンタリー映画(実際には実在のミュージシャンを使って実際にあった出来事を元に作られたフィクション、いわばセミドキュメンタリーだそうです)と聞いて、一度観てみたいなーと思っていたのですが、ついに公開されたので観て来ました。
そもそも私、英語以外の言語でやってるロック好きなんですよねー。欧州のバンドは英語で歌うことが多いけど、母国語で歌ってるバンドはいいなーと思います。スペインのメディナ・アサーラとか、中国の黒豹(ヘイバオ)とか、モンゴルのハランガとか・・・
その中国の黒豹を好きになってまもなく、ファンキー末吉さんの
大陸ロック漂流記に黒豹も出てくると知って読んでみたのですが、黒豹などのバンドが、ロック音楽が規制されて、アンダーグラウンドで活動しなければならなかった時代のことが書いてあり、とても興味深かったんですね。
ロックが反体制の音楽、なんて今はもうないよな、なんて思っていたら、つい最近までそういう世界があったんだなあと・・・
実際、そんな不自由な状態で作られた黒豹の1st.アルバムには何か人の心を揺さぶるものがあったのでした。シンプルで荒削りな音楽なんだけど・・・
そのあたりの中国ロックの歴史についてファンキー末吉さんが
こちらの記事に書いてますので、興味ある方はぜひ読んでいただきたいです。
本には書いていなかった(本が出た後の話なので)「その後」のことも書いてあって、色々考えてしまいました。
モンゴルも共産主義時代には音楽やるのは大変だったようだし、先日見てきた舞台「ロックンロール」ではチェコスロバキアのロックバンドが弾圧されたエピソードが出てきたし・・・
そんな状況が、今現在も続いている国がある・・・そんなイランの音楽状況を知ることができるだけでも、行く価値があると思ったのでした。
チラシを観たら、出て来る音楽はロックに限らないようなので、いい音楽(というか私好みの音楽)聴けるかなーとやや不安がありましたが、結構ロックバンドも出てたし、音楽だけでもなかなかよかったです。
思わず
サントラCD買っちゃいました(笑)映画館の物販で売ってます。
・・・とかなり気に入ったようなこと書いてますが、実は体調不良で途中までしか見られなかったんですよね・・・不覚というかこんなの初めて・・・
悔しいのでリベンジ予定なのですが、リベンジ待ちきれずに感想書いてるという・・・いやサントラの紹介したいだけなのかも(笑)
プログラムも珍しく買ってしまいました。(最後まで観てないのに・・・(汗))いろいろと背景を知りたいなーというのがあって。
東京フィルメックスの授賞式にゴバディ監督は来ていなかったのですが、ビザが発給されなかったのが原因だったんですね・・・
今回の日本公開に際して来日しようとした時も、パスポートの査証欄の追加もしくは再発行が認められず、渡航できなかったのだとか。
イランでは音楽もそうなのですが映画も当局の許可が下りないと撮影できず、この映画は無許可で撮影したため(そして結果として当局が見せたくないテヘランの姿を映しているため)、ゴバディ監督は撮影後出国して、今もイランには帰れていないそうです。フィルメックスの時はベルリンにいるとか言ってたなー。プログラムには今はイラクにいると書いてありました。イラクというと危ないというイメージがありますが、ゴバディ監督にとってはイランよりも自由に動けるのだそうな・・・
そんな背景を知ると、ますますこの映画の意義について考えてしまいます。
出演しているミュージシャンたちも、出演することで危険もあるのですが、それでも自分たちが今おかれている状況を世界に伝えたい、自分たちの音楽を知ってもらいたいという気持ちから出演したのだそうです。
当局の許可がないとCDのリリースもできない現在、イランのアンダーグラウンド音楽を聴くことができる貴重な機会でもあるんですね、この映画は・・・
冒頭、いきなりゴバディ監督が歌っている場面から始まります。実際歌なかなか上手いです。プログラムにはアルバムのレコーディングしたって書いてありましたねー。入手できるものなら聴いてみたいです。ゴバディ監督の声が気に入ったというよりも、曲がなかなかカッコ良かったんです。(サントラの12曲目に入ってます)
この曲を作ったマーディヤール・アーガージャーニーがサントラCDのプロデュースもしてるそうなので、アルバムにも彼の曲入ってるんじゃないかなと・・・現在N.Y.在住の22歳・・・って若っ! すごい才能だなあ・・・
監督が歌っている場所はアンダーグラウンドのスタジオなんですが、そこでスカーフを頭に巻いてギターを抱えた女の子たちがいたりして、なんかすごく新鮮な絵でした。この映画の主人公の一人ネガルもそんなスカーフを巻いたミュージシャンですが。
この映画は、無許可で撮影されているため、今まで映し出されたことのなかったテヘランの姿が映っていて、なかなか衝撃的なんだそうです。イラン映画見たこと無かったし、恥ずかしながらイランについての知識がないので「こんなものか」と観てしまったのですが・・・(汗)
外国人が思うよりもずっと西洋化が進んでいる、らしいです。女性はスカーフは巻いているけれど、髪形も化粧も服装も結構派手だったりして。登場する若いミュージシャンたちも、ごく普通の、欧州にいたりしそうな感じの若者たちでした。
モトクロスやってる女の子も映ってたなあ・・・(さすがにヘルメットの中まではスカーフしてませんでしたね)
彼らがやっている音楽は、意外に欧米のポップミュージックそのまんまな感じがあって、ちょっとがっかりした部分もありますが、あとでプログラムを読んだら、伝統音楽との融合を試みるミュージャンは今増えて行きつつあるところなんだそうです。
歌詞も、以前は英語ばかりだったけれど、ペルシャ語で歌うケースも増えているそうで。イランのポピュラー音楽はこれからなんだな、と思いました。それでも一時の中国よりはレベル高いのは、やはり欧州が近いからですかね。
やっぱり伝統音楽を取り入れてる曲が新鮮でいいですねー。こういうのが聴きたかったんだよな。冒頭のゴバディ監督が歌う曲がまさいにそういう感じです。
なんかイランの伝統音楽、すごく聴き馴染みあるな・・・と思ったら、シルクロードアンサンブルで聴いてたんだった(笑)あちらはクラシックと伝統音楽の融合ですが。こういうジャンルの垣根を超えた音楽って好きだなー。
一番気に入ったのは、最初の方に出てくる、猫好きで地下に住んでるミュージシャン、ハメッド・セイエド・ジャヴァーディーでした。サントラの最後に曲が入ってますが。映画で彼が歌うのを聴いた時には涙が出てしまいました。CDよりも映画バージョンの方がいいかも・・・しかしCD聴いて8分超の大作だったのにびっくりしました(笑)
The Free Keysと牛小屋メタルバンド(笑)ニカインもいいなーと思いました。ブルースは本来好きじゃないんですが、地下スタジオのオーナー?ババク率いるミルザーもなかなかいいなーと思いました。
The Yellow Dogsはヴォーカルがもちょっと上手ければなあ・・・(汗)
一方で、主人公のアシュカンとネガルのTake It Easy Hospitalはあんまり好きじゃないかな・・・(汗)ジャンルの好みの問題だとは思いますが。特に女の子ヴォーカルのネガルの細い声がどうも気に入らない・・・かわいいんですけどね、ネガルちゃん。
アシュカンはアシュトン・カッチャーとガエル・ガルシア=ベルナルと岡田准一を足して3で割ったような、なかなかイケメンでした。岡田准一に目元がそっくりなんだよなー。なんか観ていて気になって(笑)
なんか二人でヴォーカル取ってる曲より、それぞれ単独で歌ってる曲の方がいいかなと・・・(汗)好みの問題かもしれませんが。
ロンドンに渡ってバンド活動をしたい二人がバンドメンバーを捜す、という名目で色んなミュージシャンが出てくる趣向ですね。
その案内役としてなんでも屋のナデルが出てくるのですが、よく口が回る人だな・・・と思ったらこの方は本業の役者さんなんだそうで。どうりで(笑)(彼はちょっとエリック・バナに似てる・・・)
そういえばTake It Easy Hospitalはジャンルを聞かれると「インディー・ロック」と答えてたんですが、インディー・ロックって何?と思って後で調べたら、ちゃんとそういうジャンルあるんですね・・・(汗)
でも、イランではインディー・ロックって日本よりもメジャーなジャンルなんですかね? なんか偽装パスボートつくりに来ていた女性がインディー・ロックと聞いて「私好きよ」とか言ってたので・・・なんかマドンナとか言ってたけど、マドンナってインディー・ロックなんですかね?
そんなこんなで色んなミュージシャンが登場し、色んなエピソードが語られます。セミドキュメンタリーですが、多分出てくる話はほぼ実際にあったことなんでしょう。
個人的に衝撃だったのは、近所の人が、音楽をやっていると警察に通報するというんですね・・・。しかも、留守番に退屈した子どもが通報したりとかもするとか。
「音楽をやってたら逮捕されていい」という感覚になってしまっている人が結構いるというのがショックですね・・・
私は途中までしか観てないのですが(汗)ずっとコミカルな調子で進むのですが、ラストは悲劇で終わっているのだそうです。実際にはネガルとアシュカンは無事ロンドンに行っているので、この悲劇的なラストはちょっとベタな気もするのですが(いや実際に観てないのでベタでもないかもしれませんが)、実際にゴバディ監督の友人で自殺した人もいるし、ゴバディ監督自身も映画の許可が2年も下りず、死も考えた・・・とインタビューで言っていますから、今のイランでは現実的な内容なのでしょう・・・
サントラを聴いていたら、映画終盤で流れたと思われるTake It Easy Hospitalの曲がなかなか良かったので、やっぱり最後まで観ないとだな・・・また行ってくるか・・・
なんだか音楽の感想ばかりになってしまった気もしますが(汗)チラシに出ていた誰かのコメントで、「ミュージッククリップをつなげて物語にした」と書いていて、なかなか的を射ているかなーと。それぞれの演奏シーンは、さすが監督自身音楽をやるだけあって、ミュージッククリップとしても完成度が高かったと思います。
特にハメッド・セイエド・ジャヴァーディーの映し方が上手かったなあ。他のミュージシャンと違ってなぜか彼の場面にはテヘランの町の風景とか映らず、リアルに室内で演奏する彼と聴いている人たち(と動き回る子猫たち(笑))だけだったのも良かったような。
牛小屋メタルバンド、ニカインのイントロで牛の鳴き声が絶妙に入るところとかも・・・(笑)
ミュージシャンたちが、自分たちがやっている音楽を知ってもらいたい、という意図は十分に果たされたと思うし、その姿を通じて生のイランの若者たちの姿を見せることができて、映画の出来がどうこう以上の意味のある作品になっているのではないかな、と思いました。(いや映画の出来が良くないとかいう話ではないんですけど(汗))
今私がハマっているサントラも、映画のサントラではあるんだけど、今ほとんど聴くことのできないイランのポピュラー音楽のオムニバスだと考えると、とても貴重な1枚ではないかという気がします。
この映画に出てくるミュージシャンたちも多くが現在は国外に出ているそうですが(ハメッド・セイエド・ジャヴァーディーはどこの国にいるのかプログラムに書いてなかったなあ・・・)、いつか彼らが自由に祖国で音楽ができる(そしてゴバディ監督も自由に映画を撮ることができる)ようになりますように、と思わずにはいられません。
・・・でも中国みたいに音楽が開放されたとたんに失われるものも多いのかも・・・いや中国は極端なんだと思いたいですが(汗)
自由に音楽できればそれでめでたしめでたし、というわけでもないかもしれないし・・・
それでも、いつか彼らのアルバムが簡単に聴けるようになったらやっぱり嬉しいので、いつかそういう日が来ればいいなあと思います・・・
てな訳で今年見た映画の順位。
1.
ニューヨーク、アイラブユー / 2.
9ナイン~9番目の奇妙な人形 / 3.
ザ・ロード / 4.
NINEナイン / 5.
復讐者に憐れみを / 6.
Dr.パルナサスの鏡 / 7.
のだめカンタービレ最終楽章後編 / 8.ペルシャ猫を誰も知らない / 9.
コララインとボタンの魔女 / 10.
ラブリーボーン / 11.
かいじゅうたちのいるところ / 12.
アリス・イン・ワンダーランド / 13.
プリンセスと魔法のキス
なんか結構低い順位になりましたが(汗)その割にはかなりおススメなんですけどね~。最後まで観たらまた順位変わるかもしれないので暫定順位ということで。
あと今年観に行く予定の映画。
公開中「トイレット」
10月1日公開「ガフールの伝説」
11月13日公開「トワイライトサーガ/エクリプス」
11月19日公開「ハリー・ポッターと死の秘宝 前編」
12月10日公開「ロビン・フッド」
12月11日公開「ノルウェイの森」
観るつもりでいた映画2つほど思い出しました・・・全部観に行けるかどうかわかりませんが(汗)