原作と違うところなど、重大なネタバレも書いていますので、これからご覧になる方はご注意ください。反転文字などの配慮はしていません。
舞台化の一報を聞いてから随分経ちましたが、ようやく観にいってきました。まあ公演終了間際にしたのは敢えてなんですが・・・
原作も大好きなんですが、もともとは原作者ガルシア=マルケスが脚本を担当した映画が大好きで、それがきっかけでガルシア=マルケスにハマってしまったという、私にとってはかなり大きな存在の作品です。
蜷川幸男で舞台化、と聞いて、これは合うなあ、と楽しみにしていました。
ウリセスがアッキーこと中川晃教さんなのも楽しみでした。でもウリセスが主演扱いって・・・とやや気になってはいたのですが・・・このことについては後ほど・・・(汗)
上演時間とか全く知らずにいったんですが、13時開演で17時終演って!? 全3幕で4時間って・・・指輪ミュージカルかい(汗)
それでも最初の頃よりは短くなっているらしいですが・・・その辺も指輪ミュージカルと同じ・・・(汗)
でも観ていて、長すぎるとかは全く感じませんでしたけどね。なんだかんだと引き込まれてみてしまいました。
平日マチネということもあってか、なんと最前列が取れてしまったのですが、言ってみたらピンクのハンドタオルが置いてあって「???」
一緒に置いてあった紙を見ると、雨が降るシーンで水が跳ねる場合があるので、このタオルで拭けって・・・「なんじゃそりゃ~」とびっくりでした。
実際にはたいしたことなかったんですけどね。2、3滴跳ねたくらいで、タオルなんか使う必要なかったですよ。
それとも、これも回を重ねてそんなに濡れないような降らし方に工夫したのだとか・・・!?
この雨のシーン、なかなか印象的でした。ちょっと塩素臭かったけど(笑)
雨のあと、アンサンブルの出演者たちが一生懸命水を拭き取っている姿がなんかおかしかった・・・(笑)
最前列で、役者さんの表情がよく見えたのはよかったですが、舞台の端の方が観辛くて・・・
なんだか語り手が紙芝居をやっていたらしいんですが、全く見えず残念・・・
蜷川演出で舞台化と聞いて「合ってる」と思ったのは、蜷川氏の斬新な演出と、幻想的な「エレンディラ」の世界が合ってる、と思ったからでした。
なので、視覚的な演出を一番楽しみにしていました。
さきほど書いた雨もそうですし、紗幕を上手く使ったり、舞台の奥行きも活かしていて、さすがの演出でした。
でも、映画の印象が強いからか、「すごい!」と衝撃を受けるほどではありませんでした。
蜷川演出は「リチャード三世」と「ハムレット」を見たことであるだけですが、斬新で難解な演出、というイメージだったんですが、今回は思ったよりもわかりやすくてオーソドックスな演出だなあと・・・いや、蜷川幸男にしては、ですが。
もしかして私にとってシェイクスピアが難解なだけだったりして・・・(汗)
それと多分、原作も映画も、幻想的な映像を表現することに主眼を置いていたのに(そもそも原作からして映画を想定して書かれたそうですから)、この舞台ではもっとストーリーやエレンディラ、ウリセスの心情に重点が置かれていたから、なのかもしれません。
うーん、エレンディラとウリセスの純愛の物語にしちゃうのはどうなんだろうなあ・・・というのはありましたが・・・
でも、十分に美しく幻想的で、楽しめる舞台ではありましたよ。
それにしても、映画とビジュアル的にかなり似ている部分があったのが意外でした。敢えて真似たんでしょうか。
エレンディラも映画そっくり、特に初登場の衣装なんかそっくりだったし、祖母の家もかなり映画と似ていたような・・・原作どおりの記述に従うとああなるものなんでしょうか。
写真屋の帽子とマントも映画とかなり似ていたような。出てきた瞬間に「あ、写真屋だ」と思ってなんだか嬉しくなりましたが。
自転車乗ってる姿もそっくりだったなあ。これはマントのせいだと思いますが。
祖母の髪型も映画と同じだったような? メイクはどちらかというとフリーダ・カーロ系(?)でしたが(汗)
最初予定されていた公演が延期になったためか、祖母役が白石加代子さんじゃなくなってちょっと残念だったんですが、嵯川哲郎さん、素晴らしかったです。
うーん、白石加代子さんでもあの肉襦袢を着たんだろうか・・・(汗)あれ男性がやるから観られるところはありましたね。
夢を見ているシーンの演技、圧巻でした。エレンディラの美波さんが見ながら涙を流していたけれど、素直にエレンディラの気持ちにシンクロできましたね。
「その後」が明らかになるシーンも、最初「えーっ」と思ってたんですが、嵯川さんの演技が素晴らしかったので泣けてしまいました・・・
エレンディラの美波さんも、熱演が素晴らしかったです。まだ技術的には未熟なところもありますが、しっかり役に入り込んでいたのが素晴らしかった。よく私が思う「一線を超えた」状態にありましたね。
ビジュアル的にもエレンディラにぴったり。特に初登場の時は映画からそのまま出てきたようで、感動してしまいました。
マジで脱いでいたのはびっくりしましたが(ベッドが引き回されるシーン、あのまんまやるとは・・・!)、官能的ではなく、美しかったですねえ。娼婦なのに「無垢な」と題されたエレンディラらしかったです。
海を初めて観た時の表情が素晴らしかったですねえ。
祖母が夢を見ながらむせび泣くのを見ながら、本当に涙を流していたのにも感動。おもわずもらい泣きしてしまいました。またここの嵯川さんが良かったから・・・エレンディラが「無理よ。私のおばあちゃんだもの」と言う気持ちが理解できましたね。
金の延べ棒のチョッキを持ったエレンディラが走っていくシーン、涙が出てしまいました。原作どおりのイメージに感動したのもあるし、美波さんの熱演のためにエレンディラの気持ちにシンクロできたのもあったと思います。
原作どおりここで終わっても綺麗だったと思うんですけどね・・・(汗)
アッキーは相変わらずの熱演だったし、繊細な若者をよく演じていて、とても良かったんですが、ウリセスの役自体に疑問があったんで・・・(汗)アッキーは何も悪くないんですけどね・・・
歌はさすがに素晴らしかったけれど、歌う必要性をあまり感じませんでした・・・(汗)いや、歌自体は良かったんですけどね。これもアッキーは何も悪くないんですが・・・(汗)
原作や映画で印象的だったシーンがいくつも再現されていて、嬉しかったですね。
情事を交わす二人のそばで寝言を言う祖母とか。
写真屋がちゃんと出てきて嬉しかったですね~。しかも亡霊?として再登場したのが嬉しかったですね。
最後にもまた出てきたのが嬉しくて。なんで写真屋が出てくるとホッとするのかなあ。
映画では写真屋が自転車に乗りながら撃たれて、ばったり倒れていたのが印象的でしたが、舞台であれは難しいか・・・
一方で、原作と違うところ、原作にないところでうーむ、というところも。
原作や映画では描かれていなかったエレンディラの心情を、ストレートに台詞で説明しているところが結構あったけれど、「え、そうなの?」と思うところが多々・・・教会を出て祖母のところに戻るところとかを筆頭に。
あれは、ウリセスとの「純愛」のストーリーに改変したためにああなったのでしょうが・・・
そう言えば、アマディス父子、トランクをああいう風にしたのは面白いと言えば面白かったですが、あのアマディス父子がエレンディラを見守っている、というのはいらなかったなあ・・・
いらないといえば、ウリセスと両親のエピソードもいらないというか、あんなにストレートじゃなくてもいいのになあと。
ウリセスのインディオの母親は映画でも印象的だってんですけどねえ。ちょっと残念。
で、問題のラストなんですが。
最初は、なんだか俗っぽい「その後」を見せられそうで、「ええ~」という感じでした。
でも、ウリセスと再会した時の嵯川さんの演技が素晴らしくて、思わず泣いてしまいました・・・(汗)あのまま嵯川さんの姿で続けて良かったのに。
まあ、きれいに終わったと言えるかもしれないけれど・・・原作や映画を知っていると、エレンディラが走っていくあのラストではいけなかったの? という思いはあわますね。
あの改変、エレンディラの気持ちに過度に思い入れてしまった結果なのでしょうかね。「一人になるのはいや」とか言わせてたし。このあたり、
ガルシア=マルケスに葬られた女のことが頭に浮かびました・・・
結局同じような生き方しかできなかった、というのはありそうなことだし、リアリティはあったけれど・・・
だいたい、ウリセスがエレンディラの作り出した幻なら、前半のあのモノローグは? 両親とのエピソードはそれこそいらないですよね・・・というか話の辻褄が(汗)
もしかしたら、最初にエレンディラと出会ったウリセスは本当にいたのかも。あるいはエレンディラを連れて逃げたところまでは本当だったとか。それならありかもしれませんが。
最後の、舟に乗ったエレンディラと翼で飛ぶウリセスの図も、きれいではありました。「砂漠で死んだ者の魂は海へ行くんだよ」からつながった・・・あ、砂漠で死んでないですね・・・(汗)
でも、エレンディラが本当に求めていたのは何だったのか。ウリセスの愛だった?
私にはなんだか、ウリセスと愛を交わすエレンディラよりも、海を初めて見たエレンディラ、修道院の中で「幸せだ」というエレンディラ、金の延べ棒のチョッキを持って走るエレンディラ、の方が印象的だったんですけど。(原作どおりの部分なんですが)
なんかやっぱり、男性視点、それも日本的な男性視点からのエレンディラになっていたかなあ、という気がしてしまうんですよね。
美波さんの演技が、ウリセスとのシーンよりも一人のそういうシーンで抜きん出ていたのは、彼女が原作のエレンディラに近づいて行っていたということなのかもな、と思いました。演出や脚本の意図を超えて・・・
あと、マイケル・ナイマンの音楽が売りだったようですが、なかなか良かったけれど、もっと音楽を前面に出したものなのかと思っていたので、ちょっと拍子抜けでした。
とまあ気になるところもあるのですが、全体としてはあの長さとしては飽きずに見られたし、美術は良かったし、原作どおりのシーンが再現されていて嬉しかったところもあるし・・・で、楽しめた舞台ではありました。
再演があったら、きっと行くと思います。
それにしても、映画がとても観たくなってしまいました。ビデオ探そうっと。まだちゃんと観られるかなあ・・・