ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

バルドのテーマ、ギリオンのテーマのこと(ホビットサントラ語り)

2016年12月08日 | 指輪物語&トールキン
再びTolkien Wrightig Day参加の記事です。
またしてもサントラの話ですが…(ネタがない)

ホビット映画のサントラに出て来るテーマは、残念ながらLotRほど劇的に変化して成長したものはあまりなかったかなと思います。映画は同じ三部作ですが、そもそも原作がLotRよりもずっと短い物語で、登場人物も舞台となる土地もずっと少ないですから、仕方ないことなのですが。
そんな中で、唯一劇的な変化を遂げたのが、バルドのテーマとギリオンのテーマだと思います。
闇の森の王国のテーマ(Woodland Realm Theme)も色々と変化している点では面白いのですが、テーマとして物語の中で成長している、というのとはちょっと違いましたし。(LotRで言うとロリアンのテーマと同じような扱いかもしれません)
トーリンのテーマもそんなに変化はなかったし、ドワーフ関連のテーマは変化するというよりも新しいテーマが出て来るという感じでしたし。
ビルボの単独のテーマが残っていたらまた違ったかもしれないなあと思ったりするのですが…

さて、そもそもバルドのテーマとかギリオンのテーマって?と思う方も多いでしょう。
まずバルドのテーマですが、DoSではバルドが舟にドワーフたちを乗せて湖を進む場面などで流れています。正直ちょっと冴えないというか、地味なテーマで(^^;)私もDoSのデラックス版サントラCDのライナーノートに楽譜が出ていなかったら認識できなかったと思います…(汗)
このバルドのテーマについて、「悪役のテーマかと思った」とおっしゃった方がいて、なるほど、と思ったことが。映画のバルドは最初敵か味方かわからないような感じで出て来るので、敢えて不気味な感じにしたのかなあと。
それにしてもバルドにしては冴えないテーマだなあ、とDoSの時点では思っていた訳です。

一方ギリオンのテーマは、同じくDoSでバルドの家からギリオンの大弓を見たトーリンたちが、スマウグと戦うギリオンを回想する場面で流れます。ここではホルン(とトロンボーン?)、次いでヴィオラとチェロ(多分)でゆったりとどこか物悲しく流れています。

このバルドのテーマ、ギリオンのテーマが、BoFAでは劇的な変化を見せるのです。
まずスマウグの襲来に人々が逃げ惑う中、バルドが牢を抜け出す場面で、あのDoSでは冴えない感じだったバルドのテーマが、華やかで勇ましいメロディに変化して流れるのです! DoSでは後半部分が胡散臭げに(汗)半音上がっていたところ、4音(完全四度)上がって長調になっているのが、華やかな変身の肝かなあと思います。
そしてバインが黒い矢のことを思い出し、舟から飛び出す場面で、今度はギリオンのテーマが打って変わってテンポも速く、勇ましいアレンジで流れます。ここはギリオンが遺した黒い矢を表すのと同時に、ギリオンの子孫でもあるバインの勇気も示しているのかもしれません。
その後、バルドが物見の塔の上で黒い矢を手にスマウグと対峙する場面でも、朗々とギリオンのテーマが流れます。ギリオンのテーマはDoS EEの特典映像に映った楽譜には「Gilion/Bard」となっていましたから、ギリオンのテーマでありつつ、バルドも表しているテーマなのでしょう。
そしてバルドが折れた弓でスマウグに立ち向かうことを決める場面で、バルドのテーマが再び華やかに流れます。
ちょっと話が逸れますが、ここでバルドのテーマ、ギリオンのテーマが盛り上がってスマウグを倒すのではなく、バルドの家族のテーマ(仮)の少年合唱の優しいメロディに変わるところがまた良いなあと思います。

ギリオンのテーマのBoFAでの変化は、LotRでのゴンドールのテーマ(Realm of Gondor)を思い出させるところがあります。FotRのエルロンドの会議では物悲しくホルン1本で流れていたテーマが、RotKの予告で華やかに堂々と流れた時の驚きは忘れられない衝撃でした。
映画のバルドは色々とアラゴルンと被せているなあと思わせるところがあるのですが、このギリオンのテーマの使い方もその一つじゃないかなと思っています。
(他にも、バルドがトーリンとの交渉が決裂して馬で走って戻る場面で、アラゴルンのテーマと同じ三音のフレーズが使われているんですよね。ここ一ヶ所だけですけど。場面の絵面的にもアラゴルンが角笛城に到着する場面を彷彿とさせます)

そして、DoSで冴えないだとか悪役みたいだとか思われていた(^^;)バルドのテーマの華やかな変化は、そのまま映画のバルドの華やかな英雄への変化を表しているようで、そのテーマの使い方の妙に唸ってしまうのでした。

このスマウグ襲撃からバルドが倒すまでの一連の場面の音楽、サントラCDのトラック名だとFire and Waterは、スマウグのテーマが次第にテンポを上げて緊迫感を増して行くところをはじめ、情景描写としても、一連の場面の音楽としてのまとまりも、LotR、ホビット映画のサントラの中でも名曲と言って良いのではないかと思っています。ホビットサントラの中では一番好きかも…
(ちなみにエレボールの表門前でエルフ軍とダイン軍が一触即発、の場面の闇の森の王国のテーマとダインのテーマが絡み合うところのCDバージョン(The Clouds Burst2:39~)もすごく好きなのですが、映画本編では大ミミズが出て来るのが早すぎて一瞬しか流れないのが残念です…)

ただ、バルドのテーマもギリオンのテーマも、この場面が最高潮で、この後は発展して行かないのですよね…そのあたりがちょっと残念です。
やはりテーマの使い方はLotRサントラには敵わないかなあ、と思ってしまうところでもありますね…
とはいえ、もちろんホビットサントラも名曲がたくさんありますし、LotRと共通のテーマ・モチーフが使われているという楽しみもありますし、何と言ってもドワーフの音楽がたくさん出て来るし、名サントラだと思ってます。
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なぜ私はThe Journey Thereが好きなのか

2016年12月02日 | 指輪物語&トールキン
またしてもTolkien Wrighting Dayの参加記事で書いてます。珍しくお題に沿った内容で。

まず、「The Journey Thereって何?」と思う方が大半でしょう…(^^;)これはLotR映画のサントラのテーマの一つです。
一番わかりやすいのは、フロドとサムがガンダルフと別れて二人でホビット庄の中を旅し始める場面でしょう。ここでバウラン(アイリッシュフレームドラム)のリズムをバックに弦楽器で流れるのがThe Journey Thereです。(と言ってもサントラ完全版のライナーノートで名前が挙がるまでは名無しのテーマでしたけど…)
麦畑でサムが立ち止まり、「ここから先は行ったことのない場所です」というところで、オーボエとホルンの物悲しいメロディの掛け合いになり、やがてホビット庄のテーマから旅の仲間のテーマへと変わって行く、心温まる場面です。

この割と地味なテーマが、実は私がLotRサントラの中で一番好きなテーマなんです。
なぜこのテーマが一番好きなのか…それは遡ること14年前、何回目かの(多分10回目くらい)FotR鑑賞の時でした。
ガラドリエルの水鏡の場面で、奥方が「最も小さな者が世界の運命を変えるのです」とフロドに語りかける場面で、このテーマが使われていることに気が付いたのです。ここではホルンでより物悲しく流れています。
このことに気が付いた時、電撃に打たれたような衝撃を受けました。ああ、これ意図的に同じメロディが使われているんだ!と。
もちろん、ホビットのテーマや旅の仲間のテーマが繰り返し使われて、それぞれホビットや旅の仲間の場面で使われていることには気づいていました。でも、登場人物のテーマがサントラで出て来るのはよくあることで、そんなに重要視はしていなかったのです。
でも、このテーマが違う場面で違う楽器で使われていることに気が付いて、このサントラに出て来るテーマは、単に登場人物を表す表面的なものではなく、登場人物の心情も表しているんだ、クラシック音楽やオペラやミュージカルのテーマ、モチーフのように…!ということに気が付いたのです。

このことに気が付いて以来、「他にもテーマ、モチーフがいろいろあるはず…!」とサントラの中からテーマ、モチーフを探し出すのに夢中になりました。
当時はまだサントラについて触れられている媒体がほぼ全くなく、ファンの中でもほとんど話題になっていませんでしたから、一人黙々と作業していたようなものでしたが、でも楽しかったなあ。
いわば私がLotRサントラにのめりこむきっかけになり、LotRサントラの世界の扉を開いてくれたテーマでもあるのです。それでとても思い入れがあるのです。
サントラにテーマやモチーフを使うケースは他にもありますが、ここまで大がかりにテーマ、モチーフを組み込んだサントラは、今でも他に類を見ないのではないかと思います。

その後、TTTではThe Journey Thereは登場せず、もう出て来ないのかな…と思っていたところ、RotK冒頭、フロドとサムとゴラムが歩き出す場面で再び流れた時は感無量でしたね……。

そんな私が大好きなThe Journey There、サントラ完全版のライナーノートで初めてテーマ名が明らかになったものの、説明はほとんどなく、消化不良な状態でした。
そのライナーノートを書いたDoug Adams氏がサントラ解説本The Music of the Lord of the Rings Filmsを出版し、どんなことが書いてあるのか…と楽しみにしていたのですが…
本の中で書かれたいたのは、このテーマのWeakness and Redemptionという別のテーマ(裂け谷の音楽のバックで流れる短調のアルペジオと言えばわかるでしょうか?)との類似の指摘と、Weakness and Redemptionが音が上がって下がるのに対し、上がり続けることで不吉さが増幅されている、というような短い説明のみで、ええ~、と…
私にはあのテーマはそれだけのものとは思えないんですよね。思い入れがありすぎるからかもしれませんけど(^^;)

The Journey Thereがはっきりと出て来るのは、FotRの2回とRotKの1回です。
最初に出て来るフロドとサムが旅する場面では、初めての土地に踏み出すサムを勇気づけるようにフロドがビルボの言葉を話す場面で、静かにホルンでホビット庄のテーマに変わり、更に初めて流れる旅の仲間のテーマへと変わります。(SEEだとサブタイトルで先に流れちゃいますけど)
RotKでは、このテーマが流れたすぐ後にアイゼンガルドに向かうガンダルフたちの場面に変わり、旅の仲間のテーマの最初の三音の下がって戻るフレーズ(Back and Again)に繋がります。そしてサブタイトルが出るところで希望を感じさせるゴンドールのテーマにつながり、次第に明るくなってアイゼンガルドでの仲間たちの再会の場面に向かいます。フロドとサムと仲間たちの絆を示すように。
この二つの場面とも、不安な状況から、勇気や希望を見出す場面につながっているように思うのです。
水鏡の場面では、他のテーマにはつながりませんが、麦畑の場面と同じ物悲しいメロディをバックに語られる「もっとも小さな者が世界の運命を変えるのです」という言葉が、絶望的な状況の中の一筋の希望を感じさせます。
これは私の贔屓目すぎかもしれませんが、このテーマは、ただ不安を募らせるというだけのテーマではなく、不安の中から希望を見出すことを表しているテーマなのでないかと思うのですよね…。
確かに、他のフルで使われず前半部分だけ使われている場面では不安を表しているようですけれど、それならそれでそういう場面とフルで曲調が変わるところまで流れる場面の違いも書いて欲しかったなあと思ってしまうのでした。

というわけで、今までなかなか語る機会がなかった、The Journey Thereについて思う存分語らせていただきました(笑)
なぜThe Journey Thereが好きなのか、だけではなく、なぜLotRサントラが好きなのか、という話にもなったかなと思います。
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