嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

電話が壊れる音が聞きたかった

2004年12月20日 23時29分45秒 | 物語
残された電話は僕を酷く不愉快な気分にさせた
留守電メッセージが 0件だった事に怒ってるわけじゃない
それは日常的に当たり前の事だし、どうだっていいと思う

僕がその場に残された電話を見つめて
立ちつくしていたわけは
それが僕の電話かどうかという事とは、直接は関係がない
むしろ、僕の電話だった方が良かったのかもしれない

レインコートからぽたぽたと何かが垂れる音がした
たぶん、雨が降っていたんだろう

机の上には赤い水滴がいくつも散らばっていた
状況から考えて携帯電話は午前五時からずっと不通のままだ

僕は携帯電話を綺麗に拭いてポケットにしまった
赤い水滴を指でなぞって、少しだけ舐めてみた

突然携帯が鳴り出して、僕はビクっとなった

僕はイライラする原因をハンマーで叩き壊した

僕は携帯を取り出して、電源を切った
静かな方がいい
壊す音だけを聞きたい

バラバラの破片になった電話を見ていても
僕の気分はずっと複雑なままだ

携帯を取り出して、警察に電話する
110なら、タダで話せるんだっけ?違ったっけ?

「もしもし、こちら湾岸署です。」
ブツ。

やめた。馬鹿馬鹿しい。

外へ出て、水たまりに石を投げ入れる
何度も何度も投げ入れる

6年前の事を思い出していた
冷静に考えれば告白する必要性なんかどこにもなかった
だけど僕は、恋愛の成就や彼女の笑顔なんかよりも
振られる事自体を必要としていたのか。

ポケットに手を突っ込んで、ぶらぶら歩いて
ゆっくりゆっくり家に帰った

玄関のドアを開けて、真っ先に壁に目がいった

電話線が最初から繋がっていなかった事に気付いた。

たった一本の、スプーンの話をしようか。

2004年12月20日 14時20分21秒 | 物語
好きだとか嫌いだとか
そんな事についてぐだぐだ言うのはもう嫌なんだ

例えばそう、
僕はスプーンの話がしたいんだ
いや、したいかどうかハッキリしてるわけじゃなくて
例えば僕はスプーンの話がしたいと言う事だって出来ちゃうんだ
そんな事もできちゃうんだ

僕が言いたいのはスプーンの丸さよりは
そう、あのまんまるな丸さが丸いかどうかって話ではなく、
むしろとりあえず丸い事にしておいて楕円の歪み率とか
スプーン曲げとかそんな話をしてみたいんだ
だけどスプーンを何度も何度も折り曲げるような
そんな話はもうたくさんなんだ
スプーンの銀色が変な風に僕の顔を映し出す感じとか
磁石をごしごし擦って砂鉄を付けたりとか
そんな遊びみたいな事をしたいのに
何故だか丸いとか丸くないとか
そんな話が堂々巡りする事だってあるんだ

スプーンが映し出す僕の顔が、あまり歪んでいたから
もしかして、その事を怒っているのかもしれないな
だけどね、僕はスプーンが必要だったんじゃないかって思うんだ
もちろん手づかみでスープを飲んだっていい
そのまま口に流し込んだっていいんだ
だけど僕にとってスプーンってのは
すごく自然な道具だったんだ

わかるかな?そういう話。

僕は今だって本当に自分がスプーンの話をしたいのか、
すごく疑わしいんだ
すごくすっごく疑わしいんだ

いや、むしろこれは違う話なんだ
僕は本当はスプーンの話なんかしてないんだ
そう言う事だって出来ちゃうんだ
ねぇ、わかるかな
わかってくれるかな?

わかってくれるかどうか
そのことを一番大事にしたいわけじゃないと思うんだけど
すごく大事な事だと思うんだ

スプーンを右手で使うか、左で使うか、
グーでがしっと上から握るのか
斜めにかるくそっとつまむように三本指で支えるように持つのか
そういう事が大事な時だってあるんだ

わかるかな、僕の言いたい事
僕が何か言ってるって事くらいは、気付いてくれてるんだろ?

僕は、スプーンの話をしたいんだろうか
というか僕は、もうスプーンそのものなんじゃないだろうか
そんな気だってしてくるんだ

あるいはもう、スプーンの話なんかうんざりなんだ
だけど僕はさっきからスプーンに騙され続けていて
スプーンの話をしなくちゃいけないような気がしてくるんだ

怖いんだよ
スプーンの話を思い付いたのに
スプーンの話をしない僕が
誰もスプーンの話なんか、聞きたくないのかもしれないのに
僕はスプーンの話を延々とし続ける
頭が壊れてると思われたっていいんだ
僕は壊れたレコードみたいだって言い放たれて
3人の大人ぶった人達に大笑いされた事があるんだ

僕はその3人が嫌いだったんじゃない
むしろ好きだったと思うよ

ほら、うかうかしてると、
僕は人を好きだとか、好きじゃないとか
そんな話をしてしまう

僕はスプーンの話がしたいんだ!
OK、認めるよ
今日はもう、スプーンの話をしたかったんだって事にするよ
本当は違うんだけどな
絶対そんな話がしたかったわけじゃないんだけどな

だけどもうスプーンは僕の頭にぐっさりと突き刺さっていて
固く固くもうどうしようもなく固く
溶け込んでいるんだ

ああもう僕はスプーンだ
僕はスプーンになりたい
僕はスプーンになってスプーンの事を考えない僕になりたい

うわあ
なんだこれ
こんなところに

スプーンがあるじゃないか!