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なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか
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なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか
2019年10月7日(月)11時30分
前川祐補(本誌記者)
<激しい入試競争を勝ち抜いても職にありつけない本質的な問題と「文在寅マニフェスト」への評価とは>
自殺するために勉強したんじゃない――。2016年12月、韓国の首都ソウルで朴槿恵(パク・クネ)前政権を糾弾する反政府デモを取材したとき、ある若者が叫んだ言葉だ。
韓国の自殺率はOECD加盟国のなかで最も高いが、2011年以降は政府の対策などもあってか全体としては減少傾向にある。
ただ20代は例外で、今年の自殺予防白書でも前年と比べて唯一減少しなかった世代と指摘されている。
彼らが自殺に追い込まれる背景の1つには、激しい入試競争を経て大学を卒業しても職にありつけず、将来への経済的不安があるためとされている。
実際、韓国の20代の失業率は全体の10%近くもあり、全体の2.5倍以上という水準が長らく続いている。
なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか。
公約として掲げられた数々の雇用対策は、文政権発足2年半を経て、どのような成果があったのか。
韓国の雇用・労働問題に詳しい駿河台大学の朴昌明(パク・チャンミョン)教授に、本誌・前川祐補が聞いた。
* * *
――韓国の若者の失業率はかなり高い。
韓国統計庁によると、2018年の失業率は3.8%であるのに対し、青年失業率(15~29歳)は9.5%と顕著に高い。
定職を持たないフリーター、就職浪人、ニートなど実質的な失業者を含めて算出すると失業率はさらに高くなる。
「青年拡張失業率」、つまり広い意味での失業率を見ると、15~29歳はコンスタントに20%を超えており、これは深刻な数値と言わざるを得ない。
若者の5人に1人が実質的な失業者ということになる。
――若者の失業率が高止まっている理由は?
本質的な原因は、経済あるいは労働市場が二極化していることだ。日本には中堅企業など知名度は低くても業績や雇用の安定度が高いケースも多い。
一方、韓国ではそうした企業が限定的であり、中小企業の労働条件は厳しい。
そのため、公務員や大企業への就職は極めて競争が厳しいにもかかわらず、多くの学生がこうした職場を目指すことに固執しようとする。
韓国では学歴に加えて就職先が大きなステータスになることから、労働条件が劣悪で賃金も低く、離職率が高い中小企業への就職を敬遠しがちだ。
実際、韓国政府が公表している賃金格差の資料をみるとその差は歴然としている。
大企業の正社員の賃金を100とした場合、中小企業の正規労働者の賃金はその約半分程度でしかない。これは大企業の非正規労働者の賃金よりも低い水準である。
こうなると、学生は就職浪人をしてでも大企業や公務員を目指そうとするし、親もそれを支援する。一方で、日本で言うところの3Kの職場は激しい人手不足が起きている。
韓国の大学も、就職率の高さが学生へのアピール材料になるため中小企業であっても学生を就職させたいと考えるが、現実との乖離がある。
韓国ではこうした雇用のミスマッチが根強く存在しているため、若者の就職状況はなかなか改善されない。
――文政権は公約として「81万人の雇用創出」など野心的な政策を掲げた。ここまでの進捗をどう評価するか?
文在寅政権における雇用政策の特徴は、公共部門における積極的な雇用創出を通じて民間部門の雇用創出を牽引しようとする点だ。
そのため、公務員など公共性の高い社会サービス部門における雇用創出はある程度効果が出ている。
例えば、韓国には公共機関に対し一定の比率で若者を雇用することを義務付ける法律(青年雇用促進特別法)があるが、文政権は従来の比率(3%)か5%に引き上げることを検討している。
韓国雇用労働部によると、昨年は若者の新規雇用率が約7%になっており、さらにこの義務を履行した公共機関の割合も8割を超えるなど、保守政権時代の数字(2012年は5割弱)と比べて成果が出ている。
ただ社会全体でみると、実際に雇用が増えたのは社会福祉産業であり、特に高齢層の雇用拡大が進んでいる。
一方で、若者が就職する際の大きな受け皿として製造業があるが、ここでの雇用状況は改善されていない。
今年の失業率は8月まで低下傾向が見られるが、中長期的にみると、今の政策では若者の失業率改善に好影響を与える要因にはならないのではないかと考える。
――その理由は?
公共部門の雇用拡大は財政負担を拡げるため、雇用創出の規模には制約があり、効果も短期的だからだ。
また、そうした手法を民間部門に強要することはできず、景気低迷などにより採用拡大が困難な環境にあることを考えると、民間への波及効果は極めて限定的と言わざるを得ない。
――非正規職の若者を正社員化することも公約に掲げていた。
現政権が発足した際に文大統領が最初に言及したのがこの分野で、労働政策における重要課題として位置づけられている。
そのため、まず手を付けやすい公共部門において積極的に「正社員化」を進めている。
政府資料によると、2019年の転換計画予定者の95%の正社員化*が決定している(非正規労働者の正規労働者転換率、2019年8月末)。
ただ、ここでも公共部門では順調に進捗している半面、民間部門では低迷しており、波及効果が限定的だ。
韓国雇用労働部によると、全産業における勤続期間1年6か月以上の契約期間満了者が正社員化された割合は約16%(2018年下半期)と、非常に低く厳しい数字といえる。
さらに正社員化されても課題が残っている。正社員化された労働者の大半は、既存の正社員とは別枠の正社員として採用される。
また、非正規として働いていた企業本体ではなく、新たに設立された子会社での採用になるケースも多い。
雇用は安定するが、待遇面などの労働条件では格差が存在する。そのため、「低賃金正社員」「無期雇用非正規職」などと表現して正社員化の現状を批判する者も多い。
――最低賃金の引き上げについて
公約では2020年までに1万ウォン(約1000円)へ引き上げるとしていたが、政府は断念した。文政権発足後、昨年まではかなりの引き上げを実現したが、今年から引き上げ幅が縮小している。
それでも、政府統計を見ると賃金格差は縮小しており一定の効果はあったと言える。例えば賃金の上位20%と下位20%の差を表した数値は、過去5年で低下している(=格差が縮小している)。
さらに低賃金労働者に該当する人の割合も、昨年は2割を切るなど縮小している。
つまり、職を持っている低賃金労働者に関しては、最低賃金引き上げの恩恵を受けているといえる。
だが同時に、低賃金労働者が多い中小企業や自営業においては経営難に陥るケースが増加した。
最低賃金の大幅な引き上げだけが経営難の原因ではないかもしれないが、概して大幅な賃上げには限界がある。
税制面での優遇措置などを使いながら、経営側に負担にならない政策が課題になるだろう。
――朴教授はどのような雇用対策が必要だと考えるか?
まず、中小・中堅企業に若者の就業するような支援制度を強化する取り組みが必要だと考える。
もっとも、現行でもそうした支援制度はある。
例えば、中小・中堅企業に就職した若者には、2年間で300万ウォン(約30万円)を貯蓄すれば、政府が900万ウォン(約90万円)、さらに企業が400万ウォン(約40万円)を支援する制度がある。
理論的には、2年間で1600万ウォン(約160万円)の財産が得られる。
――非常に手厚い支援に見える。
数字だけを見ればそうだ。ただ、そもそもこの制度を知らない人が少なくない。
さらに、今の若者は目先の貯蓄よりも安定した雇用先を求める傾向が強いため、こうした支援が必ずしも満足のいく効果を上げていない。そのため、支援制度の広報の強化などの工夫が必要であろう。
私としては、自治体による奨学金返済の支援を検討すべきだと考えている。
韓国では奨学金を借りて大学を卒業した学生が就職後に返済に苦しむケースが見られている。
そうした問題を改善するために、中小・中堅企業に一定期間就業した場合、そして同一地域に居住する場合はその自治体が奨学金の返済を支援する制度があれば、中小・中堅企業に就職する若者が増えるのではないかと考える。
課題としては、自治体の財政負担が増えることと長期的に運営できるかどうか、だ。
――企業としてできることは?
光州型雇用モデルの全国展開が検討できると考えている。これは、(韓国南西部の)光州市と現代自動車による合弁企業(合作法人)のことで、雇用を確保したい自治体とコストを抑えたいメーカーの希望をかなえるモデルだ。
人件費が上昇するなか大手製造業は安い労賃を求めて国外移転を行うことで産業の空洞化の問題が発生する。また、地方においても雇用改善は至急課題となっている。
これらを解決するために、自治体が企業と協同し、他地域よりも適正範囲内で低い賃金を設けて工場誘致をはかり、雇用創出を実現するのがねらいである。
ただ、これは進歩系といわれる左派系の勢力の間でも賛否両論がある。
地域住民にとっては新工場設立による雇用創出というメリットが得られるが、他地域の既存の工場で働く労働組合員にとっては賃上げ抑制の要因になるからだ。
特に強硬派で知られる民主労総は光州モデルに強く反発している。他方、左派系のハンギョレ新聞や京郷新聞は普段は賃金抑制に批判的な記事を書く傾向が見られるが、光州モデルに対しては支持的な論調である。
課題の一つは、賃金水準である。企業誘致に向けた低めの賃金設定はやむを得ないが、ワーキングプアの創出ではなく地域住民の生活水準の向上につながるような配慮が必要である。
また、労組側にも歩み寄りや視点の転換が必要だ。これらの課題が解決できれば、光州以外のエリアにも展開できる。
――企業の採用にも課題がある。
採用慣行を改善させる必要はある。現在の採用プロセスでは、書類選考に大学ランクなど学歴が強く反映されるケースが多い。
公共部門では2017年から学閥、学力、出身地、身体条件などを履歴書に記載しない「ブラインド採用」が義務化されている。総合大学のトップ3といわれるソウル大学・延世大学・高麗大学からの採用が減るなど一定の効果が見られていることから、この採用方式を民間にも広げる努力が必要になるだろう。
雇用の創出そのものは難しいとしても、採用方法をもっと公平にすることで若者の不満を軽減することは必要な措置だろう。
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なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか
2019年10月7日(月)11時30分
前川祐補(本誌記者)
<激しい入試競争を勝ち抜いても職にありつけない本質的な問題と「文在寅マニフェスト」への評価とは>
自殺するために勉強したんじゃない――。2016年12月、韓国の首都ソウルで朴槿恵(パク・クネ)前政権を糾弾する反政府デモを取材したとき、ある若者が叫んだ言葉だ。
韓国の自殺率はOECD加盟国のなかで最も高いが、2011年以降は政府の対策などもあってか全体としては減少傾向にある。
ただ20代は例外で、今年の自殺予防白書でも前年と比べて唯一減少しなかった世代と指摘されている。
彼らが自殺に追い込まれる背景の1つには、激しい入試競争を経て大学を卒業しても職にありつけず、将来への経済的不安があるためとされている。
実際、韓国の20代の失業率は全体の10%近くもあり、全体の2.5倍以上という水準が長らく続いている。
なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか。
公約として掲げられた数々の雇用対策は、文政権発足2年半を経て、どのような成果があったのか。
韓国の雇用・労働問題に詳しい駿河台大学の朴昌明(パク・チャンミョン)教授に、本誌・前川祐補が聞いた。
* * *
――韓国の若者の失業率はかなり高い。
韓国統計庁によると、2018年の失業率は3.8%であるのに対し、青年失業率(15~29歳)は9.5%と顕著に高い。
定職を持たないフリーター、就職浪人、ニートなど実質的な失業者を含めて算出すると失業率はさらに高くなる。
「青年拡張失業率」、つまり広い意味での失業率を見ると、15~29歳はコンスタントに20%を超えており、これは深刻な数値と言わざるを得ない。
若者の5人に1人が実質的な失業者ということになる。
――若者の失業率が高止まっている理由は?
本質的な原因は、経済あるいは労働市場が二極化していることだ。日本には中堅企業など知名度は低くても業績や雇用の安定度が高いケースも多い。
一方、韓国ではそうした企業が限定的であり、中小企業の労働条件は厳しい。
そのため、公務員や大企業への就職は極めて競争が厳しいにもかかわらず、多くの学生がこうした職場を目指すことに固執しようとする。
韓国では学歴に加えて就職先が大きなステータスになることから、労働条件が劣悪で賃金も低く、離職率が高い中小企業への就職を敬遠しがちだ。
実際、韓国政府が公表している賃金格差の資料をみるとその差は歴然としている。
大企業の正社員の賃金を100とした場合、中小企業の正規労働者の賃金はその約半分程度でしかない。これは大企業の非正規労働者の賃金よりも低い水準である。
こうなると、学生は就職浪人をしてでも大企業や公務員を目指そうとするし、親もそれを支援する。一方で、日本で言うところの3Kの職場は激しい人手不足が起きている。
韓国の大学も、就職率の高さが学生へのアピール材料になるため中小企業であっても学生を就職させたいと考えるが、現実との乖離がある。
韓国ではこうした雇用のミスマッチが根強く存在しているため、若者の就職状況はなかなか改善されない。
――文政権は公約として「81万人の雇用創出」など野心的な政策を掲げた。ここまでの進捗をどう評価するか?
文在寅政権における雇用政策の特徴は、公共部門における積極的な雇用創出を通じて民間部門の雇用創出を牽引しようとする点だ。
そのため、公務員など公共性の高い社会サービス部門における雇用創出はある程度効果が出ている。
例えば、韓国には公共機関に対し一定の比率で若者を雇用することを義務付ける法律(青年雇用促進特別法)があるが、文政権は従来の比率(3%)か5%に引き上げることを検討している。
韓国雇用労働部によると、昨年は若者の新規雇用率が約7%になっており、さらにこの義務を履行した公共機関の割合も8割を超えるなど、保守政権時代の数字(2012年は5割弱)と比べて成果が出ている。
ただ社会全体でみると、実際に雇用が増えたのは社会福祉産業であり、特に高齢層の雇用拡大が進んでいる。
一方で、若者が就職する際の大きな受け皿として製造業があるが、ここでの雇用状況は改善されていない。
今年の失業率は8月まで低下傾向が見られるが、中長期的にみると、今の政策では若者の失業率改善に好影響を与える要因にはならないのではないかと考える。
――その理由は?
公共部門の雇用拡大は財政負担を拡げるため、雇用創出の規模には制約があり、効果も短期的だからだ。
また、そうした手法を民間部門に強要することはできず、景気低迷などにより採用拡大が困難な環境にあることを考えると、民間への波及効果は極めて限定的と言わざるを得ない。
――非正規職の若者を正社員化することも公約に掲げていた。
現政権が発足した際に文大統領が最初に言及したのがこの分野で、労働政策における重要課題として位置づけられている。
そのため、まず手を付けやすい公共部門において積極的に「正社員化」を進めている。
政府資料によると、2019年の転換計画予定者の95%の正社員化*が決定している(非正規労働者の正規労働者転換率、2019年8月末)。
ただ、ここでも公共部門では順調に進捗している半面、民間部門では低迷しており、波及効果が限定的だ。
韓国雇用労働部によると、全産業における勤続期間1年6か月以上の契約期間満了者が正社員化された割合は約16%(2018年下半期)と、非常に低く厳しい数字といえる。
さらに正社員化されても課題が残っている。正社員化された労働者の大半は、既存の正社員とは別枠の正社員として採用される。
また、非正規として働いていた企業本体ではなく、新たに設立された子会社での採用になるケースも多い。
雇用は安定するが、待遇面などの労働条件では格差が存在する。そのため、「低賃金正社員」「無期雇用非正規職」などと表現して正社員化の現状を批判する者も多い。
――最低賃金の引き上げについて
公約では2020年までに1万ウォン(約1000円)へ引き上げるとしていたが、政府は断念した。文政権発足後、昨年まではかなりの引き上げを実現したが、今年から引き上げ幅が縮小している。
それでも、政府統計を見ると賃金格差は縮小しており一定の効果はあったと言える。例えば賃金の上位20%と下位20%の差を表した数値は、過去5年で低下している(=格差が縮小している)。
さらに低賃金労働者に該当する人の割合も、昨年は2割を切るなど縮小している。
つまり、職を持っている低賃金労働者に関しては、最低賃金引き上げの恩恵を受けているといえる。
だが同時に、低賃金労働者が多い中小企業や自営業においては経営難に陥るケースが増加した。
最低賃金の大幅な引き上げだけが経営難の原因ではないかもしれないが、概して大幅な賃上げには限界がある。
税制面での優遇措置などを使いながら、経営側に負担にならない政策が課題になるだろう。
――朴教授はどのような雇用対策が必要だと考えるか?
まず、中小・中堅企業に若者の就業するような支援制度を強化する取り組みが必要だと考える。
もっとも、現行でもそうした支援制度はある。
例えば、中小・中堅企業に就職した若者には、2年間で300万ウォン(約30万円)を貯蓄すれば、政府が900万ウォン(約90万円)、さらに企業が400万ウォン(約40万円)を支援する制度がある。
理論的には、2年間で1600万ウォン(約160万円)の財産が得られる。
――非常に手厚い支援に見える。
数字だけを見ればそうだ。ただ、そもそもこの制度を知らない人が少なくない。
さらに、今の若者は目先の貯蓄よりも安定した雇用先を求める傾向が強いため、こうした支援が必ずしも満足のいく効果を上げていない。そのため、支援制度の広報の強化などの工夫が必要であろう。
私としては、自治体による奨学金返済の支援を検討すべきだと考えている。
韓国では奨学金を借りて大学を卒業した学生が就職後に返済に苦しむケースが見られている。
そうした問題を改善するために、中小・中堅企業に一定期間就業した場合、そして同一地域に居住する場合はその自治体が奨学金の返済を支援する制度があれば、中小・中堅企業に就職する若者が増えるのではないかと考える。
課題としては、自治体の財政負担が増えることと長期的に運営できるかどうか、だ。
――企業としてできることは?
光州型雇用モデルの全国展開が検討できると考えている。これは、(韓国南西部の)光州市と現代自動車による合弁企業(合作法人)のことで、雇用を確保したい自治体とコストを抑えたいメーカーの希望をかなえるモデルだ。
人件費が上昇するなか大手製造業は安い労賃を求めて国外移転を行うことで産業の空洞化の問題が発生する。また、地方においても雇用改善は至急課題となっている。
これらを解決するために、自治体が企業と協同し、他地域よりも適正範囲内で低い賃金を設けて工場誘致をはかり、雇用創出を実現するのがねらいである。
ただ、これは進歩系といわれる左派系の勢力の間でも賛否両論がある。
地域住民にとっては新工場設立による雇用創出というメリットが得られるが、他地域の既存の工場で働く労働組合員にとっては賃上げ抑制の要因になるからだ。
特に強硬派で知られる民主労総は光州モデルに強く反発している。他方、左派系のハンギョレ新聞や京郷新聞は普段は賃金抑制に批判的な記事を書く傾向が見られるが、光州モデルに対しては支持的な論調である。
課題の一つは、賃金水準である。企業誘致に向けた低めの賃金設定はやむを得ないが、ワーキングプアの創出ではなく地域住民の生活水準の向上につながるような配慮が必要である。
また、労組側にも歩み寄りや視点の転換が必要だ。これらの課題が解決できれば、光州以外のエリアにも展開できる。
――企業の採用にも課題がある。
採用慣行を改善させる必要はある。現在の採用プロセスでは、書類選考に大学ランクなど学歴が強く反映されるケースが多い。
公共部門では2017年から学閥、学力、出身地、身体条件などを履歴書に記載しない「ブラインド採用」が義務化されている。総合大学のトップ3といわれるソウル大学・延世大学・高麗大学からの採用が減るなど一定の効果が見られていることから、この採用方式を民間にも広げる努力が必要になるだろう。
雇用の創出そのものは難しいとしても、採用方法をもっと公平にすることで若者の不満を軽減することは必要な措置だろう。