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文在寅排除を狙い、米国がお墨付き? 韓国軍はクーデターに動くか

2020-10-30 18:23:55 | 日記

文在寅排除を狙い、米国がお墨付き? 韓国軍はクーデターに動くか

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年10月27日掲載

 

朴正煕少将(左端)が主導した 1961年の「5・16軍事クーデター」は国民の支持を集めた (Wikimedia Commonsより)

「離米従中」が止まらない韓国。軍はクーデターを起こさないのか――。韓国観察者の鈴置高史氏がその可能性を読み解く。

欧州からも「韓国は大丈夫か」

鈴置:「韓国軍はクーデターで文在寅(ムン・ジェイン)政権を倒すのか」――。こんな質問をあちこちから受けています。

 デイリー新潮の「文在寅が国連で『同盟破棄』を匂わせ 激怒した米政府は『最後通牒』を突きつける」で紹介したように、米国の安保専門家、G・ニューシャム(Grant Newsham)退役海兵隊大佐が9月24日、『Center for Security Policy』に「Fraud in South Korea’s April 2020 Elections」という論文を書いたからです。

ニューシャム大佐はクーデターなどとは一言も書いていません。

しかし、「文在寅政権は離米従中政権」と断じたうえ、与党が勝った2020年4月の国会議員選挙に関し「不正選挙の疑いがある」と指摘したのです。

ニューシャム大佐は知る人ぞ知る、ペンタゴン(国防総省)を背に北東アジアの安全保障を論じる専門家。ことに、トランプ(Donald Trump)政権下ではホワイトハウスに極めて近い人と見られています。

そんな人が文在寅政権の正統性に堂々と疑問符を付けたのですから、米国が韓国軍に対し「クーデターで政権を倒しても支持する」とサインを送ったのではないか――との見方が広がったのです。

韓国、日本などアジアだけではありません。欧州の専門家からも「韓国は今後、要注意だね」と連絡が来ました。

トルコもイランもベネズエラも

ニューシャム大佐は10月8日にも「he United States and South Korea: Best friends Forever?-Some Troubling Revelations & AnalysisT」を発表、追い打ちをかけました。

見出しの「韓国は永遠の親友か?――いくつかの厄介な兆候と分析」で分かる通り、このままでは米韓同盟は持たない、との悲痛な警告です。要約します。

・血を流して(同じ側で)戦争を戦った2つの国の間には確かな絆が生まれる。とはいえ、米国人が望むほどに長続きするとは限らない。絆が崩れ、米国人が「こうなるとは思ってもいなかった」とこぼすこともしばしばある。


・文在寅とその側近は朝鮮半島の分割の張本人は北朝鮮ではなく、米国と見ている。彼らは(北朝鮮の)金一家の主体思想を崇め、韓国は米国とではなく、中国と手を結ぶべきだと考えている。
・文は米国との大規模な合同演習を拒んできた。さらに、北朝鮮の体制に批判的な韓国市民を弾圧している。


・新型コロナが流行した際、韓国は中国とともに痛みを分かつ、と文は語った。

2017年には文は中国に対し「3NO」――(1)米国にはこれ以上THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を認めない

(2)米国のミサイル防衛網に参加しない

(3)米・日との三角同盟は結ばない――を申し出た。


・米韓同盟の解体は、世界に多大の悪影響を及ぼす災いである。

トルコ、イラン、ベネズエラ、フィリピンなどで同盟が解体した時、米政府の当局者は「こうなるとは思ってもいなかった」と驚き慌てた。その日が再び来ないことを望む。

 そして、この記事でも4月の総選挙は中国により集計を操作された疑いがある、と書いています。

韓国の民主主義は壊れ始めた

――本当に不正があったのでしょうか。

鈴置:分かりません。韓国の保守の中でも意見が割れています。最大手紙で保守系の朝鮮日報の崔普植(チェ・ボシク)先任記者は疑惑を提議した統計学者にインタビューしました。

“期日前投票の結果は理解不能…選挙管理委員会は疑いを晴らす必要がある”」(5月4日、韓国語版)です。

しかし、この記事では統計学者の主張を紹介すると同時に、それに対する反論も試み、結論は出していません。

行動保守の指導的立場にある、趙甲済(チョ・カプチェ)氏は「不正はなかった」と考え、「負けた原因を直視しない保守」を批判しました。

――韓国では「不正選挙」が大問題にならなかったのですね。

鈴置:しかし、不正だったと主張する人もまだいます。それに焦点は「不正かどうか」を超え「米国から疑いの声が上がった」――つまり「米国がクーデターをそそのかしているかどうか」に移っています。

不正であろうがなかろうが、文在寅政権の正統性に疑問符を付ける声が米国で出てきたことがポイントなのです。

ニューシャム大佐は2本目の記事で「言論の自由が侵されている」とも訴えました。以下です。

・韓国メディアは文政権から名誉棄損法によって脅され、批判する者は沈黙を余儀なくされるか投獄される(韓国では語ったことが真実だからといって身を守れない)。

米国では、韓国は民主化したことになっている。いくら「離米従中」するからといって、民主国家でクーデターを起こすなんてとんでもない、と普通の米国人は考えるでしょう。

しかし、韓国の民主主義は壊れている、と米国のアジア専門家が言い出したのです。この見方が米国で広まれば、クーデターへの嫌悪感もぐんと弱まるだろう――と韓国人なら考えます。

1952年、米国がクーデターを指示

――民主主義が衰えたからといって、米国が韓国軍にクーデターをそそのかすとは考えにくい。

鈴置:米国にはその実績があります。朝鮮戦争のさなかの1952年のことです。

先ほど言及した趙甲済氏は著名なジャーナリストでして、『朴正煕伝記 私の墓に唾を吐け』第1巻で、結局は実行されなかった「米国主導のクーデター計画」を記録しています。

1985年から1990年まで毎日新聞ソウル特派員だった永守良孝氏が『朴正煕 韓国近代革命家の実像』というタイトルで日本語に翻訳しました。第IV章を参考にして説明します。

李承晩(イ・スンマン)大統領は1952年7月の選挙で、再選される自信を失っていました。当時は国会議員による間接選挙制だったのですが、1950年5月の総選挙で大敗を喫していたからです。

李承晩大統領は大衆からの人気に期待し、直接選挙制への改憲を図ったのですが、国会で否決されました。そこで一部地域に戒厳令を敷いたうえ、憲兵隊を動員して反対派の国会議員を連行しました。

これを見た米国は韓国軍にクーデター計画を立案させました。当時は朝鮮戦争のまっさなか。韓国の政治が混乱すれば、戦争の帰趨を左右しかねなかったからです。

結局、このクーデター計画は実行に移されませんでした。

政権側が「政局の混乱が続くと米軍は大統領を監禁して軍政を実施する。それよりは改憲がましだろう」と国会議員を懐柔。反対派の顔も一応は立てる改憲案に仕立て直して通過することに成功したからです。

国益なら韓国の民主主義を犠牲に

――民主主義を破壊する政権を倒すためにクーデターを敢行する、というのも変な気がします。

鈴置:米国は民主主義よりも、円滑な戦争遂行を優先したのです。それにクーデターの成功後は軍ではなく、親米派の政治家に政権を握らせる方針だったようです。軍事独裁政権を作るつもりはなかった。

クーデター計画の立案者の1人が朴正煕(パク・チョンヒ)大佐(当時)でした。9年後の1961年にクーデターを敢行、政権を握った朴正煕氏です。

趙甲済氏は著書『朴正煕 韓国近代革命家の実像』(216頁)で、朴大佐が1952年の未完のクーデターから学んだことは大きかった、と書いています。学んだ内容が以下です。

・米国が自国の利益のためには民主主義の原則も犠牲にする、と言うこと、韓国に権力の実態が確立されている限り米国もこれを認めざるを得ず、武力で既存の体制をひっくり返す意思はない、と言う点…(後略)…。

――なにやら「今」に似ていますね。

鈴置:そうなのです。中国との戦争に全力をあげたい米国と、民主主義の衰微が目立つ韓国。その韓国が米国の戦争を邪魔する――という構図はそっくりです。だから、ニューシャム大佐の記事を読んだ人が――ことに、1952年の未完のクーデターを覚えている韓国人がぎょっとしたのです。

米国防相「盧武鉉は頭がおかしい」

――しかし民主化後の韓国で、軍がクーデターを実行するでしょうか?

鈴置:民主化は1987年。でもその後の盧武鉉(ノ・ムヒョン)時代(2003年2月―2008年2月)にも韓国軍はクーデターを計画した模様です。

厳密に言えば、「クーデターを実施したら支持してくれるか」と米軍幹部に持ちかけた韓国軍の高級将校がいたのです。米軍から自衛隊に非公式な通報があって、日本の関係者にもその話が広まりました。

盧武鉉氏は「反米」を掲げ当選しました。

2007年11月、米国のR・ゲーツ(Robert Gates)国防長官とソウルで会談した際「アジアの安全保障上の最大の脅威は米国と日本である」と語りもしました。

「米帝国主義が諸悪の根源」と考える人たちにとって、当然の発想ではありますが、普通の米国人は驚愕します。

ゲーツ長官は著書『Duty』の416ページで「盧武鉉大統領は反米主義者であり、たぶん少し頭がおかしい(a little crazy)と私は判断した」と書いています

 米国にとっても困った存在だから、クーデターに賛成するだろう、と考える人が韓国軍の中に出たのです。

――米軍幹部は何と答えたのでしょうか?

鈴置:「前の2回は追認せざるを得なかったが今度はもう、許さない」と韓国軍将校に返答したと自衛隊には説明したそうです。「前の2回」とは1961年の朴正煕少将の「5・16軍事クーデター」と、1979年の全斗煥(チョン・ドファン)少将らによる「12・12粛軍クーデター」を指します。

「言うだけ番長」はどやしつける

――この時、米国がクーデターを許さなかったのはなぜでしょうか?

鈴置:盧武鉉氏は「言うだけ番長」でした。大声で反米を唱えても米国から圧力をかけられれば容易に屈しました。米韓FTAを締結しましたし、イラクに韓国軍も派兵しました。いずれも支持層の左派から強い反対のあった案件です。「言うだけ番長」を見切った米国に、クーデターは不要だったのです。

「韓国軍のクーデター相談説」も、圧力の一端だったかもしれません。日本にまで広めることで盧武鉉政権の耳に入るように仕向けた。つまり、「米国が計画の発動を抑えた」ことにしつつ「言うことを聞かないと、韓国軍の手綱を放すぞ」と脅しもしたわけです。

1952年も同じ構図だったのかもしれません。韓国の政界に「米軍主導のクーデター説」を流す。すると李承晩政権も米国の顔色を見ざるを得なくなり強権ぶりにブレーキがかかる、という筋書きです。

――それなら、ニューシャム大佐の論文も「威嚇」に過ぎない?

鈴置:そうかもしれません。ただ15年前と比べ、現在の米国の懸念が比べものにならないほど大きいことを見落としてはなりません。

 当時は中国が今ほど台頭しておらず、盧武鉉政権が中国側に鞍替えするなど想像もできなかった。それに今や、米中は本格的な覇権争いに突入しました。韓国の裏切りは絶対に許せません。

キーセンもデモした1960年

――だんだん、クーデター使嗾(しそう)説が本当に見えてきました。

鈴置:ただ、それと韓国軍が実行するかは別問題です。武力で政権を倒しても、国民の支持を集めないとクーデター政権は長続きしません。

朴正煕氏のクーデターはそれなりに支持を集めました。1960年、不正選挙が原因で李承晩政権が崩壊した後、韓国は政治的にも社会的にも混乱に陥った。

混乱を収拾できない政党政治に人々が嫌気した瞬間、朴正煕少将はクーデターを起こしたのです。もちろん、知識人からは批判されました。しかし、普通の人は必ずしもそうでもなかった。

当時を知る人から「あらゆる階層の要求が噴出し、街は毎日デモであふれかえった。キーセンまでがデモをした」と聞かされたことがあります。あまりの混乱に多くの人が困惑していたというのです。

朴正煕氏が1963年、1967年、1971年の大統領選挙で――直接選挙でしたが――野党候補を破ったのも、普通の人々の支持がなければ不可能だったでしょう。

半面、全斗煥少将らの「粛軍クーデター」は不人気でした。

1979年に朴正煕大統領が暗殺された後の混乱を収拾するとの名分を掲げましたが、多くの国民からは「権力の簒奪(さんだつ)」と見なされました。

全斗煥氏は1980年に大統領に選ばれました。が、立候補者は1人で、自分の子飼いが選挙人を務める間接選挙でした。直接選挙を実施する自信がなかったのです。

1987年には国民の間から直接選挙を求める声が噴出。全土で大規模なデモが発生し、警察の弾圧による死者も出ました。結局、6月29日、政権側はいわゆる「民主化宣言」を発表して直接選挙制を受け入れたのです。

「米軍撤収」がクーデターの導火線

――現在は、国民の間にそこまでの不満はない……。

鈴置:ええ、クーデターを支持するほどに不満は高まっていません。文在寅大統領に対する支持率は40%台を保っています。韓国の世論調査の結果は政権にかなり甘く出るので、そのまま信じるわけにはいきませんが「クーデターに拍手喝采」とのムードにはありません。

ただ、米国には文在寅政権を追い詰める手があります。在韓米軍の撤収に動けば、政権への不信感をかきたてるからです。

反米で親北・従中の文在寅政権には歓迎すべき動きです。が、7―8割の韓国人は米韓同盟を支持しています。同盟解体につながる米軍撤収を、大いなる不安感を持って見るのは間違いありません。

そんな恐れ、不安が社会に広まった時、軍が決起して文在寅政権を倒しても、決定的な反発は買わないと思います。クーデターの後、すぐに選挙を実施するなど民政維持の姿勢を示せば、ですが。

注目すべき動きがありました。10月14日、米韓両国の国防相がペンタゴンで定例安保協議SCM)を開きました。

その際の共同声明から、2008年以降ずうっと盛り込まれてきた「在韓米軍の現行の兵力水準を維持する」とのくだりが消えたのです。

保守系紙の朝鮮日報はさっそく「米、12年ぶりに『在韓米軍維持』の文言を落とした」(10月16日、韓国語版)と報じました。

ある読者はこの記事のコメント欄に「2つに1つを選べ、ということだ。

数万の自国民を犠牲にして韓国を守った国か、統一を阻害した国か、と」と書き込みました。米国か中国かの踏み絵を突き付けられたことを韓国人も理解したのです。

「トランプ退任」待ちの文在寅

――文在寅政権はどう考えたのでしょうか?

鈴置:さすがに「反米を続けると、米国から何をされるか分からない」と思ったようです。異例の共同声明の8日後、10月22日に韓国は在韓米軍のTHAADに関し譲歩しました。

譲歩と言っても同盟国として当然の義務の一部を果たしたに過ぎませんが、慶尚北道・星州(ソンジュ)のTHAAD基地を取り巻いて封鎖してきた反米団体を警察が排除したのです。

米軍がTHAADのレーダーや発射台、管制装置を基地に設置したのは2017年4月。その後、韓国の警察は封鎖中の反米団体を放置してきました。もちろん、THAAD配備に憤った中国にゴマをするためです。

反米団体は米軍の機材・燃料・食糧の搬入を阻止し続けたため、米軍はヘリコプターで空輸してきましたが、それにも限界があり、兵士の日常生活にも支障をきたしていたといいます。

――文在寅政権は反米を軌道修正するのでしょうか?

鈴置:単に、目先を誤魔化す作戦でしょう。反米路線を本当に放擲(ほうてき)したら政権の存在意味を失います。

米大統領選挙は11月3日。トランプ大統領が落選すれば、米中対立も和らいで、米国からの圧力も減るかもしれない――。そう読んでの時間稼ぎと思われます。

もっとも、北朝鮮はクギを刺しておく必要があると判断したようです。

10月26日、宣伝媒体「メアリ」で「ご主人さまの怒りを解くために、南の当局が外交・安保関係者を米国に送っている」「米国はさらに南を見下し、THAAD基地の永久化など重い負担を課すだろう」と揶揄しました。

朝鮮日報の「終戦宣言を議論しようと米国に行ったら…北『外勢に仕える卑屈な行い』」(10月26日、韓国語版)で読めます。

韓国国防相を唐突に招待した中国

――中国はどう反応したのですか?

鈴置: 10月21日、中国は突然に韓国の国防相を招待しました。聯合ニュースの「韓中の国防相が電話会談 協力継続で一致」(10月21日、日本語版)によると、中国側の要請で実施した電話協議で魏鳳和・国防相は徐旭(ソ・ウク)国防部長官に訪中を呼びかけたのです。

THAAD配備問題もあって、韓国の国防相の訪中は2011年7月以降、途絶えていました。そこに、この唐突な訪中要請。米韓関係の改善に歯止めをかけるのが中国の狙いでしょう。

韓国軍が文在寅政権をどう見ているのかも、国防相に直接に会って探りたいところです。軍はひと昔前は完全な親米でしたからね。

――韓国軍がクーデターを起こしたら、中国とすれば元も子もなくなりますね。

鈴置:そうとは限りません。軍が親米クーデターを起こしても、反中にはなりません。むしろ「親米で従中」政権が誕生する可能性が大きい。

韓国軍だって、米国だけを頼りにするよりは、中国も後ろ盾にした方がいい。軍が本当の敵と考える北朝鮮と対するのにも、それは不可欠です。

それに軍人も韓国人。従中のDNAは持っているのです。韓国軍がクーデターを起こすというなら、中国はそのスポンサーになる手があります。

「李氏朝鮮」のデジャブ

――クーデター政権が中国側に寝返るとは!

鈴置:歴史的に前例があります。李氏朝鮮を建てた李成桂(イ・ソンゲ)は、その前の王朝、高麗の武将でした。おりしも中国大陸は元明交代期。新たに興った明は高麗に領土の割譲を要求。怒った高麗王は李成桂を明との戦いに送り出しました。

李成桂は現在の中朝国境である鴨緑江まで進軍しましたが、勝ち目がないと悟ると軍を翻し、高麗王朝を倒したのです。1388年のことでした。軍事クーデターに成功したのです。

明は李成桂に「朝鮮」という国号を名乗るよう、申し渡しました。

冊封体制に組み込んだわけです。李成桂がクーデターを敢行した際、明に了解を取り付けていたことを示す資料はないようです。が、地政学的に見て、政権奪取後に明に仕えるのは自明のことでした。

今後、朝鮮半島や中国大陸で何が起きるかは予測がつきません。盤石と信じていた国際政治の地殻構造がひっくり返ってしまうことも覚悟すべきと思います。

ニューシャム大佐の言葉を借りれば、日本人も「こうなるとは思ってもいなかった」と驚き慌ててはならないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集


韓国の高齢者貧困率が日本を超える理由

2020-10-30 17:52:04 | 日記

韓国の高齢者貧困率が日本を超える理由

配信

 

ニューズウィーク日本版

韓国の高齢化率は今でこそ日本を大きく下回るが、少子高齢化のスピードが速く、2045年には日本を上回る。これまでも自分の子供や親戚からの仕送りに頼ってきた高齢者のために、公的年金の拡充が急務だ>

 

ソウルの公園に集まり中国将棋を楽しむ高齢者たち Kim Hong-Ji-REUTERS

韓国では少子・高齢化の急速な進展に伴い、社会保障に対する韓国政府の支出が継続的に増加している。

【金 明中(ニッセイ基礎研究所)】

 

日韓における高齢化率の推移

2019年3月28日)より筆者作成 韓国の高齢化率は2019年現在15.5%で同時点の日本の28.4%を大きく下回るものの、少子高齢化のスピードが速く、2045年になると日本の高齢化率を上回ることが予想されている。このまま少子高齢化が続くと、2065年の高齢化率は48.8%で、日本の38.4%を大きく上回ることになる。

 

OECD加盟国の年齢階層別相対的貧困率

<準備不足で迎えた少子高齢化>

日本より社会保障制度の歴史が浅い韓国は、少子高齢化に対する対策や将来の財政運営を準備する期間が十分ではない状態で急速な少子高齢化の波に直面している。

2017年における韓国の65歳以上高齢者の相対的貧困率(所得が中央値の半分を下回っている人の割合)は43.8%と、2017年のデータが利用できるOECD加盟国の中で最も高い。

高齢者の貧困状態を認識した韓国政府は2014年に65 歳以上で所得下位 70%の高齢者を対象とした基礎年金制度を導入し、その後給付額を最大10万ウォンから30万ウォンに引き上げるなど所得改善のための政策を行っているものの、いまだに高齢者貧困率は改善されていない。

OECD加盟国の年齢階層別相対的貧困率 相対的貧困率:OECDでは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)が全人口の中央値の半分未満の世帯員を相対的貧困者として定義している。

韓国の高齢者貧困率が他の国と比べて高い理由としては、制度をスタートする際に対象から外れた人や年金の受給資格期間を満たしていない人がまだ多く、公的年金(国民年金、公務員年金、軍人年金、私学年金)が給付面においてまだ成熟していないことが挙げられる。

2019年現在、公的年金の老齢年金の受給率は約53.2%で、まだ多くの高齢者が公的年金の恩恵を受けていないことが分かる。

※老齢年金の受給率:65歳以上人口の中で少しでも老齢年金を受給している人の割合、保険料ではなく一般会計を財源とする基礎年金のみの受給者、障害年金や遺族年金の受給者を除外して計算

<年金受給開始年齢の引き上げも>

今後年金が給付面において成熟すると、高齢者の経済的状況は現在よりはよくなると思われるが、大きな改善を期待することは難しい。

なぜならば韓国政府が年金の持続可能性を高めるために所得代替率(平均標準報酬に対するモデル年金額の割合)を引き下げる政策を実施しているからである。

導入当時70%であった所得代替率は、2028年までに40%までに引き下がることが決まっている。

所得代替率は40年間保険料を納め続けた被保険者を基準に設計されているので、非正規労働者の増加など雇用形態の多様化が進んでいる現状を考慮すると、実際多くの被保険者の所得代替率は政府が発表した基準を大きく下回ることになる。

また、国民年金の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっており、実際の退職年齢との間に差が発生している。

韓国政府は長い間60歳定年を奨励していたものの、多くの労働者は50代半ばから後半で会社から押し出された。

ようやく2013年に「定年60歳延長法」が国会で成立し、2016年から段階的に(2017年からはすべての事業所に)60歳定年が適用されることになったものの、今後国民年金の支給開始年齢が65歳になると、また、所得が減少する期間が発生することになる(年金を60歳から受け取る繰上げ受給制度があるので所得の空白期間は発生しない)。

<現役世代1人で高齢者1人を支える日が来る?>

従って、今後高齢者の貧困を解決するためには、国民年金の支給開始年齢と定年を同じ年齢にし、所得が減少する期間をなくす必要がある。

一方では、公的年金制度の持続可能性を高めるための対策が求められる。

2003年に100兆ウォンを超えた国民年金基金の積立金は、2019年には737兆ウォンまで増加しており、2041年には1778兆ウォンになることが予想されている。

しかしながら、その後は年金を受給する高齢者が増加することにより積立金は減り続け、2060年になる前に積立金が枯渇すると予想される。

公的年金の受給資格がないあるいは給付額少ない高齢者が多いので、韓国では多くの高齢者が自分の子供や親戚からの仕送りなど私的な所得移転に依存して生活を維持してきた。

しかしながら過去と比べて子供の数が減り、長期間に渡る景気低迷により若年層の就職も厳しくなっており、子供から私的な所得移転を期待することは段々難しくなっている。

韓国統計庁のデータを参考にすると、高齢者一人を支える現役世代の数は、1960年の20.5人から、2017年には5.3人まで急速に低下しており、さらに2060年には1.0人になることが予想されている。

つまり、今後は公的年金などの公的な所得移転にも家族や親戚からの私的な所得移転にも頼ることが難しく、自分の老後は自らが準備する必要性が高まっている。

しかしながら、2015年の調査では、回答者の53.1%が老後の生活のために何も準備していないと答えている。

韓国の高齢者の老後が心配されるところである。


韓国で「5G」離れ 64万人がLTE回帰

2020-10-30 17:47:38 | 日記

韓国で「5G」離れ 64万人がLTE回帰
ソウル支局長 鈴木壮太郎

2020/10/30 0:00
日本経済新聞 電子版
 
 
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世界に先駆けて高速通信規格「5G」を商用化した韓国で5Gの解約が増えている。サービス開始から1年半がたつのに、今もつながるエリアが限られ、売り物の「超高速」をなかなか体感できない。期待を裏切られた消費者がLTEに回帰しているのだ。

 

ソウル市中心部の携帯電話販売店

ソウル市中心部の携帯電話販売店

■「超高速」体感できず

「5GからLTEに切り替えた人は56万2656人に上る」――。10月7日。与党「共に民主党」の洪貞敏(ホン・ジョンミン)議員が韓国国会の科学技術情報放送通信委員会の国政監査で明らかにした数字が話題になった。SKテレコム、KT、LGユープラスの通信3社の5G加入者は8月末時点で865万8222人なので、6.5%に相当する。

洪氏は「契約の切り替えは手続きが面倒なのに、それでも5Gを解約するのは低品質と不十分なカバー率、高い料金体系に消費者がうんざりしているためだ」と指摘。「通信事業者は5Gの品質と顧客満足度の向上に努力すべきだ」と注文を付けた。

韓国で5Gの商用サービスが始まったのは2019年4月3日。「世界初」の称号を米国と争い「米ベライゾンより1時間以上早く始めた」(関係者)ほどのこだわりようだった。5Gを戦略産業に育成したい韓国政府の強い後押しもあった。

■しぼむ期待

それから1年半。消費者の5Gへの期待はしぼんでいる。

 

ソウル中心部で測定した伝送速度 時間や場所によって大きなばらつきがある

ソウル中心部で測定した伝送速度 時間や場所によって大きなばらつきがある

「5Gで何が変わったかって? 電池の持ちが悪くなったことですかね」。ある男性は苦笑いする。端末の不具合かと思いメーカーのサービスセンターに持ち込んだところ「5GとLTEの切り替えにバッテリーを消耗するためで故障ではありません」と説明された。最大の売り物であるスピードも「なかなかつながらないし、そもそもスマホでは大容量データをやりとりしないので、正直いってLTEで事足りますね」と冷めている。

「伝送速度はLTEの20倍」「2時間の映画のダウンロードが5分から3秒に」――。韓国政府や通信会社は当初、こんなうたい文句を掲げた。実際はどうか。

科学技術情報通信省が公表した5Gサービスの実態調査結果によると、伝送速度は3社平均で下りが毎秒656メガビット、上りが同64メガビット。LTEの平均速度は下り同158メガビット、上り同43メガビットで、下りの速度差は4倍にとどまる。カバー率もまだ低い。現状は首都圏や6大広域都市が中心で、地方への本格展開はこれからだ。

記者が普段使っているサムスン電子の「ギャラクシーノート10」に通信速度を測定するアプリを入れ、ソウル中心部の光化門、ソウル市庁前で調べてみた。時間帯や立ち位置によって速度には大きなばらつきがあり、5Gの電波がつかめないこともしばしばだった。別の通信会社で最新機種「ギャラクシーノート20」を使う同僚が測ってみると5Gで下り毎秒700メガビット前後の速度が出た。通信会社や機種によっても違いがある。

■政治問題に発展

「遅くてつながらない」5Gは政治問題化しつつある。

韓国メディアによると、放送通信委員会の通信紛争調停委員会に寄せられる5G関連の調停申請は昨年末の5件から今年8月は82件に増えた。市民団体の参与連帯は通信会社が調停委に問題提起した一部の加入者だけに補償金を支払うのではなく、加入者が広く補償を受けられるよう、政府が乗り出して対策をまとめるべきだと主張した。

 

「LTEの20倍」の速度にはほど遠い

「LTEの20倍」の速度にはほど遠い

「5Gの速度について国民に正しく説明すべきだ」。民主党の卞在一(ビョン・ジェイル)議員は政府にこう注文をつけた。「LTEの20倍」となる毎秒20ギガビットの速度が出せるのは周波数28ギガヘルツの5Gだ。電波の特性上、大量の基地局設置が必要なため、韓国の通信3社はそれより基地局が少なくて済む3.5ギガヘルツ帯を採用した。その場合の最高速度は毎秒1.9ギガビットにとどまる。「20倍速い5Gが登場すると国民に誤解を与えてはいけない」と強調した。

通信会社は消費者の不満にどう答えるのか。SKテレコムは「LTEの普及期も同じだった。全国の通信網を次世代に切り替えるには2~3年かかる。初期には不満の声も上がるので、加入者にはその旨告知をしている」と説明する。

■積極投資で不満解消を

各社は屋外の基地局設置を優先し、その後オフィスビルなど屋内の基地局を増やしてカバー率を高める計画だが、新型コロナウイルスの感染拡大もあり投資は計画からやや遅れているようだ。

過去の通信規格の変遷をみれば、LTEから5Gの流れは不可逆だ。韓国の5G離れは長い目でみれば一時的な現象だろう。しかし5Gへの期待値が下がれば、そのプラットフォーム上で動くサービス開発も低調にならざるをえない。通信3社は5G投資を加速し、消費者の不満を一刻も早く解消すべきだろう。

 
鈴木壮太郎(すずき・そうたろう)
1993年日本経済新聞社入社。産業記者として機械、自動車、鉄鋼、情報技術(IT)などの分野を担当。2005年から4年間、ソウルに駐在し韓国経済と産業界を取材した。国際アジア部次長を経て、2018年からソウル支局長。