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IMF世代、88万ウォン世代、N放世代、そしてコロナ世代-韓国の新たな「失われた世代」は救われるか-

2020-10-25 15:44:15 | 日記
 
コラム
 
2020年10月20日

IMF世代、88万ウォン世代、N放世代、そしてコロナ世代-韓国の新たな「失われた世代」は救われるか-

 

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

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【若者は韓い雇用市場を嫌い、日本を含む海外で就職する傾向にあったが、新型コロナはその機さえ奪ってしまった】

 
新型コロナウイルスによる不景気により、「コロナ世代」という新しいロストジェネレーション(失われた世代)が現れた。
 
韓国社会は今までも不景気の影響からIMF世代、88万ウォン世代、N放世代のようなロストジェネレーションなどが何度も登場してきた。
 
IMF世代とは、1997年に発生したアジア経済危機の影響で、就職難にあえいだ若者世代を称する。
 
その後、景気はある程度回復したものの、大きな経済危機を経験した企業は正規職より非正規職の雇用を選好するようになった。
 
その結果、若者の多くは不安定な雇用を強いられることとなり、低い収入で生活せざるを得なくなった。
 
禹晳熏1と朴権一2は20代が非正規職として働いた場合に得られる1ヶ月の平均予想月収を約88万ウォンと推計し、『88万ウォン世代』というタイトルの書物を出版した。
 
その後、88万ウォン世代は厳しい状況に置かれている若者を代表する代名詞となった。
 
その後も若者をめぐる雇用環境はあまり改善されず、多くの若者がパートやアルバイトのような非正規職として労働市場に参加するか、失業者になり、N放世代が登場することになった。
 
1 韓国の聖公会大学の外来教授
2 作家

「三放世代」から「七放世代」へ

N放世代とは、すべてをあきらめて生きる世代という意味で、2011年に、恋愛、結婚、出産をあきらめる「三放世代」が登場してから、
 
三放に加えて就職やマイホームもあきらめる「五放世代」が、さらに人間関係や夢までもあきらめる「七放世代」が現れた。そして、最近はすべてを諦める「N放世代」に含まれる若者が増えている。

多くの人は「N放世代」が最後のロストジェネレーションだと思ったかも知れない。
これ以上に状況が悪化することはないと思ったからである。しかしながら、新型コロナウイルスは「N放世代」の状況を更に厳しくすることとなった。そして、その結果「コロナ世代」が現れた。コロナ世代は、新型コロナウイルスの影響を受けた新しい就職氷河期世代と言える。
 
新型コロナウイルスの影響により若者の就職環境は更に厳しくなった。
 
多くの企業で新卒採用の規模を縮小し、来年の新規採用を一時中断する企業まで現れている。
 
コロナ禍の前には韓国の狭い労働市場を離れて、海外の労働市場にチャレンジする若者が毎年増加していた。
 
韓国産業人力公団の資料によると、海外就業者数は2013年の1,607人から2019年には6,816人まで増加した。
 
史上最悪とも言われた2019年の日韓関係の中でも日本への就職者は増え、海外就業者の3割以上(36.2%)が海外の就職先として日本を選択した。
 
しかしながら、新型コロナウイルスはこのような選択肢さえ奪ってしまった。
国別海外就業者の推移(単位:人)

多くの若者が公務員を志望

このような厳しい状況の中で若者の多くは「公務員志望」する傾向が強まっている。
 
しかしながら、公務員になるのも簡単ではない。
 
2020年に総計で4,985人を採用する9級国家公務員採用試験には185,203人が志願した。
 
実に志願倍率は37.2培に達している。
 
多くの若者が公務員浪人をしながら公務員を目指しているものの、公務員になれる保障はない。
 
新型コロナウイルスは今後の韓国の社会、経済を更に暗くする可能性が高い。
 
より多くの若者が恋愛、結婚、出産、就職、マイホーム、人間関係、夢等をあきらめざるを得ない立場に置かれてしまうからである。
 
文在寅政府は若者の雇用を増やすために数多くの雇用対策を発表しているものの、多くの仕事は臨時的・短期的仕事に偏っているのが現状だ
 
若者の間でこのような臨時的・短期的仕事は「ティッシュインターン」と呼ばれている。ティッシュのように使い捨てされるからである。
 
韓国政府はコロナ世代が恋愛、結婚、出産、就職、マイホームの購入ができるように、また、人間関係を維持し夢を実現できるように、「ティッシュインターン」を量産するより安定的で良質の雇用を創出するための政策を実施するために知恵を絞るべきである3

反日・従北の民族主義が大韓民国を脅かす

2020-10-25 15:01:56 | 日記

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

【寄稿】反日・従北の民族主義が大韓民国を脅かす

作家の趙廷来氏が親日派問題を再び提起、文政権の反日民族主義を援護
感性的民族主義は愚民家の術策にすぎず、反日・従北は共和制の敵
反日・従北を超え、克日・克北で市民民族主義をリードすべき

記事入力 : 2020/10/25 05:57

反日感情の縦糸と従北情緒の横糸が韓国民族主義を歪曲(わいきょく)している。

北朝鮮が日本植民地時代の残滓をなくし、民族史的正統性でリードしたという偽りの歴史観が民族主義を汚染している。

感傷的な民族主義は、厳しい国際政治に対する冷徹な認識を妨げる。

21世紀の新冷戦時代を迎え、朝鮮半島は米中の帝国覇権競争の最前線となっている。

民主主義と市場経済を共有した韓日間の相互協力は、「帝国中国」の無限なる膨張から韓国の主権を守る合従連衡の国家戦略資源だ。

即物的な反日感情を超え、冷静な克日と用日が新たな韓国民族主義のキーワードにならなければならない。

 

北朝鮮は、われわれが思っている韓民族ではない。

自ら「金日成(キム・イルソン)民族」を宣布して久しい。

世界5大核保有国である国連安保理常任理事国に次ぐ核戦略国であることを実証した北朝鮮の軍事崛起(くっき)により、南北体制の競争は全く新しい局面へと突入した。

朝鮮半島の戦略構図の重大な変換期に直面しても、空虚な終戦宣言に執着する文政権の従北民族主義は、国を害する妄想だ

停戦協定と韓米同盟に基づいた停戦体制は、朝鮮半島の「事実的・法的平和」を70年近く支えてきた。

冷酷な国際政治の現実と力の力学に背を向けるとき、南北が共存する朝鮮半島2国体制の樹立は不可能となる。

韓国戦争(朝鮮戦争)は、情熱的民族主義が平和どころか戦争をもたらすといった教訓を与えている。

反日・従北民族主義は、国と市民的自由を脅かす。

反日民族主義は時代錯誤的であり、従北民族主義は歴史の反動だ。

しかし、民族主義がつくり上げた「国民国家」は人類の厳然たる現実であるため、開かれた民族主義を育て上げる以外には代案がない。

血統と習慣に縛られた種族的反日・従北民族感情は、歴史の退行にすぎない。

種族的限界を振り切る市民的民族主義であってこそ、韓国民族主義が復活するのだ。

反日・従北を超えて克日・克北に向かうとき、道が開かれる。

光復75周年に実体もつかめない親日派という言葉を持ち出すのは、自由と正義の共和制の敵にすぎないのだ。

 

ユン・ピョンジュン教授


【コラム】大韓民国の主敵は企業に変わったのか

2020-10-25 14:32:57 | 日記

【コラム】大韓民国の主敵は企業に変わったのか

 

【コラム】大韓民国の主敵は企業に変わったのか

今年4月の韓国総選挙後、民主党議員が提案した企業規制法案は300本に迫る。致命的なポイズン条項を含む法案があまりに多く、大韓民国の主敵が北朝鮮から企業に変わったかように錯覚するほどだ。

民主党から提出が相次ぐ法案の中身を見ると、結局は企業という少数をたたき、支持層を結集させ、腹をすかせた多数の歓心を買おうとするものだ。

企業と労働者、大株主と少数株主、大企業と中小下請け業者、大企業と消費者を対立させ、少数勢力を崖っぷちに追い込む内容を盛り込んでいる。
 
少数側はどんな過ちを犯したのかも分からないままたたかれる。あえて罪を探すとすれば、彼らの票が少数であることだけだ。

李洛淵(イ・ナギョン)民主党代表は先週、反企業の決定版である「企業規制3法」問題で韓国経営者総協会(経総)を訪れた。

院内代表や広報担当者がマイクを握り、「3法はこのまま行く」と発表すればそれまでなのだが、党代表が直接企業経営者を訪ねて説明する格式を整えた。

このため、もしかすると改善案が示されるのではないかという期待もあった。

しかし、李代表は「3法は先送りできない」と断言した。

企業経営者の面前でくぎを刺すイベントを行った格好だ。政権与党の代表が直接少数をたたく様子を多数に見せつけた。

大企業の利益を下請け企業に強制的に配分する利益共有制1カ月働いただけの労働者にも退職金を支払う制度、大型商業施設と従来型商圏の距離を1キロメートルから20キロメートルに拡大する法案も全て票集めのための少数たたきだ。

企業に取っては怪物のような法案が相次いで国会を通過する勢いだ。

「まさか?」というのは純真な考えだ。過去には想像もできなかったことが過去3年余りで現実になった事実を覚えておく必要がある。

少数を狙った一連の反企業、反市場政策で多くの人が失業と所得現象に苦しんでいるにもかかわらず、政府は全く動じない。

かえって少数をもっと締め付け、税金を無差別にばらまき、多数を権力側に再び引き込もうという「反転」に動いている。

それが与党の総選挙での圧勝につながり、その後の少数たたきはさらに激しさを増した。

あらゆる法規を改正し、企業経営者を監獄に入れられる条項は2600に増えた。この国で企業経営を行う人間は「予備犯罪者」になった

数日前、大手格付け会社のフィッチは韓国経済に関する報告書で「民主党」に言及した。

「4月の総選挙での圧勝により、民主党と衛星政党の共に市民党の議席が60%を占め、他の政党の支援なしでも法案を成立させられる」と指摘した。

その上で、巨大な政権与党による無理な財政赤字拡大を懸念した。既に韓国の政府債務比率はフィッチが警告した46%に迫っている。

この線を超えれば、格付け引き下げの危機を迎える。民主党には大きな悪材料にほかならない。

この状況を避け、多数の歓心を買うばらまき財政を続ける方法はただ一つだ。

巨額の税金を納めてきた少数からもっと税金を取ることだ。

現在政府は企業の内部留保への課税のほか、大株主の基準を保有株式3億ウォンに引き下げ、株式譲渡所得税を課税しようとしている。他の増税も検討しているはずだ。

朴槿恵(パク・クンヘ)政権下で伸びていた経済成長率は文在寅(ムン・ジェイン)政権の3年間で低下傾向だ。

韓国経済の競争力を高めるには、労働改革と規制革新が必須だが、それも無視している。多数が反対するからだ。

現在の危機も過去の危機のように企業が突破するほかない。

ところが文在寅政権は企業をそういう存在とは考えていないようだ。ただ、「積弊としての追及対象」「税金ATM」として利用しているだけだ。少数への寛容は決してないだろう。

 

ユン・ヨンシン論説委員


終わりの見えない扶養が続く「8050問題」

2020-10-25 14:02:05 | 日記

社会との接触を断ち、仕事もせず自分の部屋から一歩も出ない、いわゆる"引きこもり"の若者が増えていることは周知のとおりだと思います。

ところが、引きこもりが長期化すると、若者個人だけではなく家族全体にまで悪影響を及ぼすようになります。

今回は、巷で聞かれる「8050問題」というキーワードとともに、引きこもりという社会問題について触れてみます。

終わりの見えない扶養が続く「8050問題」

「8050問題」は「80代」の親が「50代」の子どもを経済的に支える必要がある状態を指します。

子どもは仕事がなく収入もないため、親の年金が一家の主たる収入源になります。

本来ならば、私たちが80代の高齢期を迎えるころには、仕事はすでにリタイアして年金を収入源とした生活を送り、子どもや孫に支えられながら余生を送るのが一般的でしょう。

ところが8050問題を抱える家族の場合、定職に就かない子どもをいつまでも親が扶養しなくてはなりません。

世の中資産を多く抱えている裕福な家庭ばかりではありません。

わずかな年金だけで夫婦、そして子どもの生活費を賄っていくのは限界があります。

質素な生活を心がけていても、高齢になるほど医療や介護での支出も多くなるため、家計が破綻するのはもはや時間の問題なのです。

引きこもりを放置し続けた結果、問題はより深刻に

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8050問題の原因は、1980~1990年代にかけて顕在化した若者の"引きこもり"を放置したことにあると多くの専門家は指摘しています。

つまり、当時10~20代だった若者が数十年間も引きこもり生活を続け、50代を迎えてしまったことになります。

親が現役世代ならば収入もある程度は見込めるため、引きこもりの子どもを養っていくのはそう難しくはないでしょう。

しかし定年を迎え、経済的にも体力的にも衰えた状態で昔と同じような生活レベルを子どもに提供し続けていくのは、どう考えても現実的ではありません。

子どもからしても、「(自分が)働かなくても生活していける」という現実を一度味わってしまったため、社会に出る必要性を理解し、働くことへのモチベーションを持つことはそう簡単ではありません。

一緒に生活していると自分の両親が衰えていく姿には気づきにくいもので、何の危機感も持たず、この生活が未来永劫続いていくという幻想から逃れることができなくなります。

8050問題が起こる、その背景とは

8050問題の最たる原因である引きこもりの人がなぜ増えてしまったのか考えてみたいと思います。

もっともありがちなケースは、仕事を失ったことを機に引きこもりになるパターンです。

2000年以降、非正規雇用や派遣社員が多くなり、急な雇い止めが増えてきました。

また正社員で働いていても、長引く不況によりリストラや会社の倒産で職を失った人も大勢います。

突然仕事が無くなってしまったショックで現実を受け入れられず、そればかりか人間不信に陥り、社会との接触を自ら断ってしまうのです。

次に、病気やケガ、精神疾患により社会復帰が難しくなり引きこもってしまうケースです。

事故や疾患は不可抗力のため仕方ない面もありますが、今まで元気だった手前、体が不自由になった姿を他人に見せたくないという思いから、子どもを社会から隔離しようとする親もいます。

初めはこれでよいかもしれませんが、親も子どもも高齢化していきます。

親が死亡したあと、障がいや病気を抱えた子どもの世話を誰が見ていくのか、その資金をどう捻出していくのかといった問題も出てきます。

特に若い世代に多いのは、働くことや社会に出ることの必要性を初めから持てないケースです。

現在はインターネットの普及により、部屋にパソコンさえあればチャットツールやオンラインゲームなどを介して他人と接触することが可能です。

この結果、バーチャル空間に完全に依存してしまい、部屋にこもって一日中インターネットに没頭する若者が増えてきました。

同時に、職や技能を持たず、それに対する習練なども一切おこなわない「ニート」と呼ばれる若者も増えてきました。

親の介護を機に、引きこもりになるケースもあります。

「介護離職」という言葉がありますが、無事に親を看取ったにもかかわらず、仕事をしていなかったブランクが影響して再就職先が見つからず、絶望感からそのまま引きこもってしまうのです。

介護休暇や介護離職に対する世間の理解がまだまだ低く、このあたりの意識改革も社会に求められます。

多くのケースに共通して言えることですが、何かのきっかけで自信をなくし、自分は世間から必要とされていないと思い込む孤独感が、引きこもりや8050問題に拍車をかけているのではないでしょうか。

「家庭の問題」で片づけるのではなく、周囲の助けを借りる勇気が大事

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いったん引きこもり状態になった人が、再び社会と接点を持つようになることはそう簡単ではありませんが、解決できる道はあるはずです。

まずは住まいのある市区町村の福祉課に相談してみましょう。

ソーシャルワーカーが社会復帰への後押しをしてくれるはずです。

また就労に関しては、ダイバーシティ(多様性)を認める社会へと変革しつつある現在、一定規模の企業は障がい者雇用も積極的におこなっています。

しかし、8050問題が長期化する理由に、外部はおろか家族にさえも固く心を閉ざしてしまっている人の多さがあります。

こういった人たちが簡単に説得に応じてくれることは難しく、就労はおろか部屋の外に出てきてくれることさえ困難を極めるでしょう。

こういった場合、急に「仕事に就く」という目標を課すのではなく、まずは人と目を合わせて話を聞くことから始める。

徐々に信頼関係を築いていき、部屋の外から一歩出て、最低限のコミュニケーションが図れるように持っていくことが望まれます。

長きにわたり引きこもり支援を専門におこなうNPO団体も数多くあります。

こういった人たちの知恵や経験を生かし、人と触れ合うことの意義や楽しさを少しずつ思い出してもらうことが重要となるでしょう。

最後に

財産が底を尽き、誰にも助けを求めることができないばかりか、助けを求める意欲さえもなくしてしまう。

これが8050問題の行き着く先です。

挫折や失敗は長く生きていれば誰でも経験すること。親子で共倒れという最悪の事態を防ぐためにも、いつでも再チャレンジできる、生きることをあきらめない社会を形成していくことが重要です。


70歳以上の年金「繰り下げ」に待った! 専門家「元が取れずハードルも高い」

2020-10-25 13:20:50 | 日記

70歳以上の年金「繰り下げ」に待った! 専門家「元が取れずハードルも高い」

※週刊朝日  2020年10月30日号
 
 
※写真はイメージです (GettyImages)
© AERA dot. 提供 ※写真はイメージです (GettyImages)

受け取る時期を遅らせれば、自然と額が増える年金の「繰り下げ」制度。

長寿化を見据え、今年の改正で遅らせる期間が「75歳まで」に拡大されたが、夫婦で話し合って繰り下げに成功した社会保険労務士をはじめ年金専門家の間で評判が悪い。「一般の人には使いにくい」というのだ。

*  *  *

「大きな安心を得ることができました」

ホッとした表情でこう話すのは、東京都内に住む澤木明さん。この8月に70歳になった澤木さんは、見事、5年間の年金繰り下げ“待機生活”を満了した。

老齢基礎年金と老齢厚生年金をともに繰り下げたので、私の年金額は年間300万円に迫る水準まで増えました。

1歳下の妻も話し合って老齢基礎年金を繰り下げていて、来春、満了します。年金だけで生活費を賄えるようになれそうです」

澤木さんは大手精密機器メーカーの人事マンだった。

社会保険労務士とファイナンシャルプランナー(FP)の資格をとって51歳で独立し、いまやセミナー講師やマネー相談で各地を飛び回る日々だ。

いわば、年金とマネーの専門家が、私生活でも「勝ち組老後」を実践した格好。

「最低80歳までは現役を続けたい」と思っているだけに、繰り下げ制度の広がりを歓迎する。

もし私が拡大された制度を使えるのなら、当然、75歳までの繰り下げに挑戦しますよ」と、自らのチャレンジには意欲満々だ。

ところが、「普通の相談者にはどうアドバイスしますか」と問うと、正反対のことを言い始めた。

そうですね……繰り下げするにしても70歳までがいいところですよ、と言うでしょうね」

拡大された部分は勧めない!? いったい、どういうことなのか……。

生きていくためにはお金がいる。

働ける間はいいが、高齢で働けなくなっても生活費はかかる。

総務省の家計調査(2019年)によると、高齢夫婦無職世帯の毎月の支出約27万円に対し収入は約23万7千円で、このうち大半の約21万7千円を年金が占める。

収入と支出の差は貯蓄を取り崩すしかなく、つまり年金だけでは暮らしていけない家計が大半だ。

そこで注目されるのが、高齢になってもお金を増やせる年金の繰り下げ制度である。

年金の受給開始は「65歳から」が基本だが、開始時期を遅らせれば遅らせるほど年金額が増えていく。

しかも、増え方が半端ではない。

1カ月遅らせるごとに「0.7%」ずつ増えるのだ。

1年で8.4%増。かりに年金額が年100万円だと、1年繰り下げれば108.4万円になる。

年金は金融商品ではないものの、メガバンクのスーパー定期の預金金利「年0.002%」と比べると、実に4200倍である。

年金は夫婦で考える時代。澤木さんのように、2人そろって繰り下げれば効果はダブルだ。

折しも超高齢化が進むなか、国は「長く働いて、年金は遅くもらう」生き方を奨励し始めている。

実際、高齢で働く人が増えているため、国は繰り下げ制度の拡大でこうした人たちに選択肢を増やした。上限年齢を「70歳まで」から「75歳まで」に引き上げたのだ(施行は22年4月予定)。

増額率は変えなかったが、それでも70歳までの「42%増」(0.7%×12カ月×5年)が、75歳だ「84%増」まで増やせる。

しかし、年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏は首を横に振る。

「国は改正で、繰り下げを『より柔軟で使いやすくした』と言っていますが、全然そうなっていないのです。柔軟どころか、使いにくい面が多いと言ってもいい」

広がった「70歳以上75歳未満」の部分に、一般の人を“その気”にさせる魅力が薄いというのだ。

「まず挙げなければならないのは、『追いつくのが遅い』点です。

75歳まで10年繰り下げると、65歳から年金をもらい始めた人と累計受給額で同じになるのは約12年後の87歳。

年金が増えると税金も増えるので、手取りだと、90歳くらいまで生きないと割に合いません」

受給開始時期の違いで、累計受給額がどう変化するかを比べた。

年金を年間100万円受給できる人がいたとして、本来の開始時期「65歳」と、繰り下げ制度の節目となる現行の上限年齢「70歳」改正された上限年齢「75歳」、そして「70~75歳」の中間に近い「73歳」のそれぞれの年齢ごとの累計受給額が計算されている。

増額率が同じなので、どこからもらい始めても、65歳受給開始に追いつくには約12年70歳より遅くもらい始めると70歳受給開始に追いつくのに約17年かかる

確かに拡大された70歳以上の部分は、80歳代半ばにならないと元が取れないイメージだ。

上限の75歳まで遅らせると、「70歳から」に追いつくのが92歳、「73歳から」に追いつくには「95歳」になってしまう。

受給前に万が一のことがあっては元も子もない。

男性の平均寿命が「81歳」、60歳男性の平均余命が「24年」であることを考えると遅い気がする。三宅氏が言う。

「これは、増額率を70歳以前と以後で分けなかったことが大きいと思います。

繰り下げ受給者を増やしたいのなら、70歳以降は0.8%とか思い切って1%などにアップすればよかったのではないでしょうか」

何歳からもらっても平均寿命ぐらいまで生きれば累計受給額は変わらないという意味で、繰り下げ制度は「財政中立」になるように設計されている。

しかし、それでは不十分とする主張である。

「このほか、厚生年金の加入可能年齢を、現行の『70歳まで』から『75歳まで』に延ばさなかったことも、制度を使いにくいものにする一因になると思っています。繰り下げ待機中は、働きながら保険料を納めて年金を増額させていくのが筋だと思いますが、この制度では70歳以降は単に待っているだけの期間になってしまいます」(三宅氏)

 どうやら70歳以上の繰り下げは、制度的に突っ込みどころが多いようだ。

「結果として、制度はつくってみたものの利用者がほとんどいない、ということにならないか、心配しているんです」(同)

 では現実問題として、70歳以上の繰り下げを利用する人はいるのか。

 成功者である冒頭の澤木さんによると、繰り下げは「健康」「仕事」「蓄え」の三拍子がそろって初めてできることだという。

待機生活を問題なく過ごすには、この三つが欠かせません。例えば、健康は毎年の健康診断や普段の運動だけでなく、自分の家が長寿家系かどうかも調べるべきです。私の場合、母が101歳まで生きたことが『長生きできる』という自信につながっています」

そして健康は、三宅氏が指摘した「元が取れるまで生きられるか」に直結する。

(平均寿命などを見ると)男性は元が取れる可能性が高くないのです。だから70歳以上は勧められない。逆に女性は有望ですよ。60歳時点での平均余命が29年もありますから」(澤木さん)

最大の問題は、繰り下げ待機をしている間の「生活費」だろう。]

健康を維持したうえで仕事ができるのなら最高だ。

しかし、澤木さんのように資格を持って自営し、70歳になっても安定収入を得ている例は珍しい。

来年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行される。70歳までの就労の機会確保が努力義務化されたが、ようやく65歳以上70歳未満の働く場の確保に向けて手がつき始めた段階にすぎない。

それでも澤木さんはチャンスはあるという。

「新型コロナウイルスが収束すれば、人手不足状態に戻るとみているので、仕事はあると思っていい。男性なら警備や介護、女性なら給食関係や介護が中心ですが……」

元ホワイトカラーでも対応できるのか。

「大企業の元管理職は、現場で働く自分の姿を昔の同僚に見られたくないと思いがちですが、本人に働きたいという気持ちがあれば乗り越えられるはずです。私のかつての同僚には、公園の草花管理の仕事をしている元管理職もいますよ」(同)

もし仕事が見つからないのなら、三つ目の「蓄え」を使って待機生活の費用を賄うことは考えられないのか。

年金に詳しいFPの長尾義弘氏は、老後生活の収入と支出のバランスが取れていれば、それは「あり」だとする。

介護や病気になったときの準備として800万円程度は最低必要なのですが、それだけの資金が残るのなら、65歳までためたお金を待機生活に使ってもいいと思います。収入の範囲内で生活できれば、繰り下げ待機終了後、老後資金を取り崩さなくても済みますから」

例えば、老齢基礎年金と老齢厚生年金で年240万円を受給できる人がいたとしよう。

5年間繰り下げると42%増で、年金は340.8万円に増える

そして夫婦2人の年間生活費が、340.8万円以内なら「よし」とする考え方だ。

ただし、待機中もこの生活費で暮らしていけるとしても、70歳までの5年で約1700万円かかる。

別に800万円が必要だから、65歳までに用意するお金は最低2500万円ほどだ。その先も繰り下げを続けるのなら、さらなる蓄えがいる。

「損得ベースでみれば72歳ごろまでの繰り下げが理論的には可能なのですが、あくまで余裕がある人の話です」(長尾氏)

ちなみに、金融広報中央委員会の最新のアンケート調査によると、世帯主が60歳代の2人以上世帯の平均貯蓄額は1635万円。中央値は650万円で、金融資産を持っていない世帯が4分の1近くある。どうやら、2500万円もの蓄えがある家計は少なそうだ。

夫婦で考える場合、次のような視点も大切だ。

今の60歳以上の女性には専業主婦が多く、「自分の自由になるお金がほしい」などの理由で、繰り下げよりも、むしろ年金を早くもらい始める「繰り上げ」を選ぶケースも多いという。

しかし、社労士でFPの井戸美枝氏は、女性こそ繰り下げを選ぶべきだという。

「妻は夫より長生きすることが多く、夫の死後、一人で暮らす期間が10年以上になることもしばしばだからです。そんなとき、妻が自分の老齢基礎年金を繰り下げで増やしておけば、夫の遺族厚生年金と合わせて月額約14万円の年金収入が期待できます」

目先のお金にとらわれて繰り上げをするのは、なぜダメなのか。

「一人になったときにみじめな思いをしなければならないからです。よくよく、後々のことを考えてほしい」(井戸氏)

とはいえ、70歳以上の繰り下げには、ややためらいを感じるという。

65歳以上になると、『公的年金等控除』として110万円の所得控除が認められています。妻が老齢基礎年金を5年繰り下げると、満額の場合、ほぼぴったりこの金額なんです。年金を考えるときは、支払う税金のことも考えてください」(同)

このように多角的に見ていくと、現状では「70歳以上75歳未満」の繰り下げには、数々のハードルがありそうだ。

しかし、だからといって繰り下げはあきらめたくない。

多くの専門家は選択肢の広がりを歓迎し、長生きリスクには繰り下げが効果的と認めている。

ならば、「できない」ではなく、「できる」ように現状を変えていくことが必要ではないか。

まずは働く場所を確保し、広げていくことだろう。それこそ、高齢者が自然と繰り下げを選べるようになる第一歩である。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2020年10月30日号