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[山口二郎コラム] 安倍政治の終わりと戦後の行方

2022-09-25 14:46:15 | 日記
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[山口二郎コラム] 安倍政治の終わりと戦後の行方

登録:2022-08-08 06:35 修正:2022-08-08 08:06
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岸田文雄首相が東京自民党本部で今回の選挙を振り返り、今後の政策方向を示す記者会見を行っている=東京/ロイター・聯合ニュース

 7月に行われた参議院選挙は、いくつかのシステムの終わりを意味する重要なものだった。
 第1は、1989年(この年は冷戦が終わった年でもあり、日本では昭和が終わった年であった)の参院選で始まった政治改革と政党再編の試みが失敗に終わったことである。90年前後に続発した自民党政権の大規模な腐敗事件は政治改革の世論を沸騰させ、冷戦以後の国家路線、バブル経済崩壊と人口減少社会への移行など巨大な政策課題にこたえるための政党政治を求める挑戦が繰り返された。それは2009年の政権交代という成果をもたらしたが、民主党政権が崩壊した後、自民党に挑戦する政党を作る作業は混迷を続けた。今回の参院選では、野党陣営の中で政権獲得を目指さない政党がいくつも現れ、日本の政会はガリバーと小人たちのような状況に陥った。
 第2は、戦後続いてきた平和主義の終わりである。平和国家の象徴である憲法9条について、保守勢力は改正を主張してきた。これに対して、かつての社会党(今の社会民主党)が中心になって憲法擁護を主張し、常に国会で3分の1程度の勢力を維持してきた。今回の選挙に当たって自民党だけでなく一部の野党も憲法改正を主張し、広い意味での改憲勢力は発議に必要な3分の2を大きく上回る議席を得た。護憲の旗頭だった社民党は比例代表で1議席を得ただけで、その衰弱は決定的である。ウクライナでの戦争という危機の中で、防衛力の強化と日米軍事同盟を支持する声は圧倒的多数となった。
 第3は、安倍政治の終わりである。安倍晋三元首相が選挙運動中に暗殺されたことは、日本中に衝撃を与えた。安倍氏は首相在任中に、集団的自衛権の行使を可能にする安保法制を成立させ、退任後も中国を念頭に置いた積極的な防衛政策を主張し、自民党に大きな影響を与えてきた。第2の点で指摘したように戦後の平和主義は崩れているが、他方で平和主義を終わらせようとした安倍氏の死去は憲法改正の動きの推進力が失われることを意味する。
 さらに、安倍氏暗殺の背景にある統一教会と保守政治家の強い結びつきは日本政治の暗部を明るみに出している。容疑者は、母親が統一教会に家財すべてを献納して破産に追い込まれ、人生を破壊されたことを恨み、この教団と親密な関係にある安倍氏を殺害したと供述している。統一教会が日本に進出した時には安倍氏の祖父、岸信介元首相が支援したこと、この教会が日本人信者から莫大な資金を巻き上げ、多くの被害者を出したこと、自民党の多くの政治家が統一教会信者の支援を得ていたことなどが次々と明らかにされている。
 多くの日本人女性が洗脳によって入信させられ、集団結婚式で見知らぬ男性と結婚させられ行方知れずになっていることは、拉致事件と同様の重大な人権侵害である。そうした問題の報道は30年前からあったが、多くの政治家はそれを無視して、統一教会を利用し、また利用された。政治家による統一教会の犯罪的活動への加担について、この機会に全貌を明らかにしなければならない。
 参院選の結果、自民党一強体制はいっそう強化され、岸田文雄政権は自民党内の権力バランスに注意しなければならないにしても、自らが望む政策を実現する好機を得ている。しかし、安倍氏が望んだような憲法改正には困難が付きまとう。改憲派の政治家は統一教会と近い者が多い。人権侵害を繰り返してきた統一教会のために、信用を与えるような宣伝活動を行ったような政治家に憲法改正を言う資格があるのかという議論が当然出てくるだろう。
 岸田首相は安倍氏死去の直後に、国葬を行うと決定した。しかし、安倍氏の首相としての功罪についてもいろいろ議論が続いている。また、統一教会との関係が明らかになるにつれて、政治家としての資質を疑う声も出ている。いくつかの世論調査では国葬への反対論が過半数となっている。岸田首相にとって、自民党の過去の膿を出すことが、未来に向けた政策展開の前提条件となる。
//ハンギョレ新聞社

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)




安倍政権の功罪 院長コラム

2022-09-25 14:20:10 | 日記
安倍政権の功罪院長コラム


樋口矯正歯科クリニック


2022/08/01 政治・経済

先月、参議院選挙に関する記事を書いたので今月は政治に関する記事を書くのはやめようと思っていましたが、参議院選挙期間中に安倍元首相が旧統一教会に関する怨恨で射殺されるという大事件が起こってしまいましたので、今月も政治問題を記事にする事になってしました。

政治家が選挙の遊説中に凶弾に斃れたことは本当に痛ましいことですが、死を悼むだけではなく、憲政史上最長の約7年8カ月のも期間、首相を務めた政治家が亡くなったのですから、その政治家としての功罪を総括する事も大切だと思います。

 安倍元首相の功の部分は、テレビのニュース等で盛んに報道されていますが、何と言っても印象に残るのは、2020東京オリンピックの誘致とそれに関連してリオオリンピック閉会式でのマリオに扮したオリンピックの引き継ぎセレモニーでしょう。安倍信奉者は日本の安倍首相を世界に知らしめた一大イベントと捉えているようです。

 それに続くのが「地球儀を俯瞰する外交」の理念の元、延べ176カ国を訪問し、トランプ大統領就任前には世界で一番早く会談を行い、G7サミットでも存在感を示したことから、訃報に際して海外の報道機関は外交において並外れたレガシーを残したと伝えていました。

 安倍元首相の大きな功績は、日本という国の世界の置ける政治的な存在価値を高めた事でしょうが、それが国益に繋がっているのかどうかは、また別の問題だと私は思います。中国とは、一段と対立が激しくなっていますし、三顧の礼を尽くしたと言って良いくらい何度も会談を重ねたロシアのプーチンからは、北方領土問題で何の妥協も得られず、ウクライナにロシアが進行しても、ファーストネームで呼び合う友人と豪語していたにも関わらず、電話一本出来ないのですから、外交の成果とは何なのか?得たものは何なのか?疑問でなりません。

 まあ、それでも海外に対しての活躍は評価される点も多いと思いますが、国内の、あるいは国民生活に直接関係する政策については、疑問ばかりです。

 その第一は何と言ってもアベノミクスです。黒田日銀総裁を手足に使い黒田バズーカと言われた金融緩和と財政出動で経済の好循環を目指しましたが、その結果はどうでしょうか?トリクルダウンという言葉もありました。企業業績が上がれば、労働者の所得も上がってくると言う事でしたが、企業業績は今年も過去最高益を更新し、税収も過去最高となっていますが、国民の所得は下がり続けるばかり。格差は開き、低所得者が社会にあふれているのが現状です。

 アベノミクスが始まる前、民主党政権の2012年の数字を見ると、日本の1人当たりGDP(国内総生産)はアメリカと同程度であり、韓国の約2倍だったですが、この所の急速な円安もあって、現在は台湾にも韓国にも抜かれてしまっているのです。国民の稼ぎであるGDPがその体(てい)たらくですから、当然平均所得も低下の一途をたどっています。日本円で見ると2012年には408万円だったのものが、少しずつ増加して2020年には433万円となっていますが、これをドルベースで見ると驚きの結果になります。2012年当時は1ドル、約80円でしたから、年収は51,000ドルだったのですが、現在はと言えば約140円ですから、31,000ドルになってしまいます。ドルベースの年収は40%も下がってしまっているのです。安倍元首相は「悪夢の民主党政権時代」と言いますが、その民主党政権時代が世界から見れば一番国民が豊かだったとは笑えない話です。

 それもこれも実は、アベノミクスで日銀が金を無尽蔵に供給したことで、世界の於ける円の価値が大幅に下がってしまったことが原因です。アベノミクスは、日本の経済的価値、労働力も資産も日本の持つ者全ての価値を下げて、世界中に大安売りで売り払い、いかにも利益が出たように見せかける詐欺まがいの経済政策だったのです。

 コロナの影響で世界経済が停滞している間は、日本の経済の停滞も目立ちませんでしたが、コロナが収束するに従い日本経済だけが停滞していることが明らかになり、一層の円安が進み、その結果エネルギー価格急上昇がおこり、大安売りで稼ぐはずだった貿易も赤字となり、アベノミクスが失敗だったことにようやく国民も気づき始めている気がします。

 アベノミクスの金利の低下は投資を促し、経済を活性化させるためと言われていますが、金利の低下の恩恵を受けるのは実の所企業だけです。庶民も住宅ローンの金利の低下で恩恵があると思われるかも知れませんが、住宅ローンを組んでいる世帯はたかが知れています。実の所、日本では個人は借金よりも貯蓄が多いのです。2021年には日本人の個人の総資産は1992兆円で前年同時期に比べて6.3%増加して過去最高値となりました。日本の人口は1億2000万人ほどですから、1人あたり1000万円ほどの資産を持っている計算になります。貯蓄額の平均1378万円、負債額が平均851万円。貯蓄額から負債額を引いた純貯蓄額は、単純計算、527万円ほどです。つまり金利が低いと言うことは、貰える利息が少ないと言うことですから、個人レベルでは金利が低いことは損をするのです。

 これと反対に多くの企業は借金をして投資をしていますから、金利が低いほど利息の支払いが減り収益が大きくなります。実は国も毎年赤字予算を組んで、その穴埋めに大量の国債を発行して国民から借金をしていますから、金利が安い方が助かります。つまり、国も企業も本来国民が手にするはずだった利息を搾取している状態が低金利であり、アベノミクスのおかげで国民が貧困になったと言うのが本当のところではないでしょうか。

 以上の様な安倍元首相の功罪から、私は安倍元首相の政治姿勢は「見栄とレガシーの政治」だと思います。外国から偉大な国と見られたい、自身の功績を残したいと言う心の奥底の願望(それが政治家の性なのかも知れませんが)をストレートに追求したのが安倍政治だったと思います。そしてその犠牲となったのが、実際の現場、国民生活です。国民生活よりも、世界での日本の評価、自身の評価を優先したのが安倍政治でしょう。

 私は、大学や学会での評価や出世よりも診療現場で患者さん一人一人の幸せを追求することが歯科医としての使命と思っています。ですから、大学勤務も自分の学びたいこと、習得したい技術を身に着けた時点で退職しましたし、開業してからも歯科医師会の活動や学会での活動も極力行わないようにしてきました。それは、私のエネルギーや時間を出来る限り診療の場で患者さんの為に費やしたいからです。大学の教授になるとか、歯科医師会の役員、会長になり、はては勲章をもらうとか、そんな社会的評価は私のとってどうでも良い事なのです。矯正装置を外したときの患者さんの笑顔、矯正治療を受けて良かったと思ってもらえた事、治療現場での患者さんの心が私にとって一番大切なことです。

 根本的に大切な物が安倍元首相と正反対ですから、やはり私は安倍首相の功よりも罪の方が多いと感じてしまうのです。


ニッポンを再び「大国」にした、安倍元首相の功罪とは?

2022-09-25 14:12:36 | 日記
ニッポンを再び「大国」にした、安倍元首相の功罪とは?

8/9(火) 17:56配信

<自分が屈辱的に見えることを犠牲にしてもトランプとうまく付き合い、クアッドやアベノミクスなど功績がある一方で、「ナショナリズムの歴史」とは一線を画すことができなかった。元首相が歴史に残したことは何か?>

【グレン・カール(元CIA諜報員)】

安倍はアメリカやその他のインド太平洋諸国と連携して地域覇権を狙う中国に対抗した KEVIN LAMARQUEーREUTERS

安倍晋三元首相は、第2次大戦後の日本で最も重要な政治指導者として名を残すはずだ。安倍は他国との連携強化を推進したナショナリストであり、日本経済の最も深刻な構造的問題に大胆に切り込んだ。

1960年代初め以降、経済大国だが政治的には弱腰だった日本を再び世界的な外交・軍事・経済大国に押し上げたのも安倍の功績だ。「ジャパン・イズ・バック(日本が帰ってきた)!」と、安倍は何度も繰り返した。ほとんどの面で安倍が正しかったことは、反対派も認めざるを得ないだろう。 安倍は「保守」の政治家と思われていたが、その外交・軍事・経済政策は世界における日本の役割と野心に関する古い固定観念や非公式のタブーに挑戦するものだった。 安倍は日本を、安全保障面で依存するアメリカに唯々諾々と従う同盟国から、アメリカの重要なパートナーでありながら、必要に応じてより積極的で独立した政策を追求する国に変えようとしたのだ。 安倍の狙いは、中国の台頭と地域覇権を狙う野心に対抗することだった。そのため2007年には、アメリカ、オーストラリア、インドとのクアッド(日米豪印戦略対話)の創設を主導した。クアッドの表向きの目的は「自由で開かれたインド太平洋」を守ることだったが、実態は攻勢を強める中国への対抗措置だ。 中国の王毅(ワン・イー)外相は当初、「太平洋やインド洋に浮かぶ泡のようなものだ。すぐに消える」と酷評した。だがその後、中国の(そしてロシアの)侮蔑は警戒に変わった。そのこと自体、クアッドの地政学的重要性と成功の証左だ。王は現在、クアッドを「インド太平洋のNATO」と位置付け、「地政学的対立をあおるものだ」と批判している。 安倍は以前から、攻撃的姿勢を強める中国の国際秩序への挑戦に警鐘を鳴らしていた。安倍の最近の発言の1つは、もし中国が台湾に侵攻した場合、日本は台湾を軍事的に防衛すべきと示唆したものだった。 日本の安全保障と外交の要は、もちろん対米関係だった。安倍はドナルド・トランプ前大統領時代のアメリカと特権的かつ緊密な関係を維持するため、大きな、時には屈辱的にも映る努力を払った。 常にこびへつらいや称賛を求める一方、短気で復讐心の強いトランプの性格を安倍は見抜いていたようだ。だから安倍はトランプの粗野な振る舞いや、時には日本の国益に反する政策にも目をつぶった。 さもなければ、トランプ政権は孤立主義を強め、貿易問題で敵対的になり、日本を犠牲にして中国との関係改善を図り、北朝鮮の脅威に対する日本の懸念を無視する事態もあり得た。 全体的に見て、日米同盟がトランプ時代にも生き延びたのは、ある程度まで安倍の努力のたまものだった。

台頭する中国への対抗措置
国際貿易は長年、日本経済にとって必要不可欠な要素だったが、安倍は中国の経済的台頭と、インド太平洋の小さな国々に対する圧力の強化に対抗する地政学的戦略の一環として、国際貿易協定の締結を積極的に推進した。 特に日米のインド太平洋戦略の柱の1つだったTPP(環太平洋経済連携協定)は、史上最も野心的な貿易協定となるはずだった。 だが、孤立主義者のトランプはTPPから離脱。そこで安倍はすぐにアメリカを除くアジア太平洋地域11カ国の貿易協定CPTPPを締結した。世界のGDPの13%を占める同協定は、加盟国にとって中国との交渉で1つの武器になる。 安倍はまた、金融・貿易分野における日本の力を使って中国の「一帯一路」計画に対抗した。特にアフリカ諸国に対しては、2016~19年に200億ドルを投資。 さらに19年には、22年までに追加で200億ドルの投資を約束した。まだ中国のアフリカ投資には遠く及ばないが、安倍はインド、フランス、アメリカと協力して「アフリカ大陸内部でより包括的な開発を促進」しようとした。投融資対象国を借金漬けにする一帯一路とは大違いだ。 積極的な外交と通商政策を戦略的に組み合わせた安倍のおかげで、国際社会における日本の影響力は戦後最も大きくなった。この地域における中国の台頭とアメリカの戦略的撤退を考えれば、いずれも必要な、歓迎すべき対抗措置だった。 軍事面では、安倍は憲法9条を改正し、憲法に自衛隊を明記することを目指していた。東アジアの安全保障環境の変化――具体的には中国と北朝鮮の潜在的脅威の増大――への対応力を強化することが狙いだった。 結局、最後まで憲法改正という目標を達成することはできなかったが、安倍は、アメリカなど日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合に、一定の要件の下で集団的自衛権を限定的に行使できるようにするなど、憲法9条による制約を弱めた。 自衛隊に「多用途運用護衛艦」が導入されたのも安倍政権でのことだ。この「護衛艦」は実質的に、第2次大戦後はじめて日本が保有する「空母」である。F35戦闘機の導入計画も、安倍政権下で拡大された。 主として安倍が推し進めた政策により、憲法9条は変更されていないにもかかわらず、日本の防衛力は着実に強化されてきた。ある有力なランキングによれば、現在、日本の防衛力は世界5位と評価されている。 ■成功とは言えない側面も 経済分野でも、安倍は極めて戦略的に首尾一貫した政策を遂行した。安倍政権の遺産として後の時代に最も記憶されるのは、おそらく「アベノミクス」だろう。 低成長と停滞の日々が20年続いた日本経済を活性化させることを目的とするアベノミクスは、大胆な金融緩和を内容とする金融政策、大規模な財政出動を内容とする財政政策、そして、規制緩和など経済活動を刺激するための成長戦略という「3本の矢」で構成されていた。 アベノミクスには功と罪の両方があった。最初は狙いどおり物価上昇と経済成長が実現したが、その後、物価と成長率は再び落ち込んだ。 日本政府が経済を活性化させるためにつぎ込んだ資金の多くは株価の上昇をもたらしただけだったため、日本社会で経済的格差が拡大する結果を招いたことも否定できない。 規制緩和に関しては、電力市場の自由化には成功したし、外国人労働者の受け入れを拡大させたり、女性の労働参加を増やしたりするなど、労働市場の自由化にもある程度成功した。しかし、それ以外の領域で自由化が大きく進展したとは言い難い。 それでも、アベノミクスは、日本の経済政策当局が大胆な行動を取る道を開き、それまでの経済政策の常識を変えたという点で、歴史に名を残すだろう。

韓国政策も失敗だった
もちろん、安倍の政治が全て成功だったわけではない。人種差別的なナショナリズムの歴史とは一線を画しながら愛国心と活力と自立を取り戻すことも可能だったはずなのに、安倍はそのことを理解できなかった。あるいは、理解しようとしなかった。 戦争犯罪者たちを暗黙に、あるいは明示的にたたえることなく、靖国神社に祀(まつ)られた人々に敬意を表することはできたはずだ。 この両者の区別をはっきりさせて行動していれば、日本は未来に向けて進むことができ、国際的な非難を浴びずに済んだだろう。しかし、安倍は自身の支持層である極右ナショナリスト勢力と決別しようとはしなかった。 韓国政策も失敗だったと言わざるを得ない。安倍は野党政治家だった2010年、韓国併合に関して日本の責任を認めた菅直人首相(当時)を激しく批判したことがあった。 しかし、日本が韓国を併合したことは事実であり、安倍は韓国でくすぶり続けている怒りを(それに同意しなくても)認識すべきだった。 確かに戦後80年近くたつのに、韓国はいささか被害者として振る舞いすぎる傾向がある。しかし、日本はこの何十年もの間、自国が過去に韓国で行った行為について責任を認める努力を怠ってきた。そうした態度は、韓国やほかの国々(アメリカも含まれる)の怒りを買っている。 安倍は日本の国益を優先させるべく、自身のナショナリズムを乗り越えて行動することができなかったように見える。この点は戦略上のミスと言うほかない。中国が台頭するなか、日本は戦略的同盟国として韓国を必要としているからだ。 しかし、業績全体を見れば、こうしたことは比較的小さな問題にすぎない。安倍は日本のリーダーとして、歴史上類のない大きな成果を残した。 安倍晋三は、日本の未来を形づくるために積極的に行動し、その取り組みの多くで成功を収めた政治指導者だった。

グレン・カール(元CIA諜報員)




安倍最長内閣、選挙至上主義の功罪

2022-09-25 14:08:49 | 日記
安倍最長内閣、選挙至上主義の功罪

明治大学教授 田中秀明

2020/09/09

 
安倍首相は8月28日、持病である潰瘍性大腸炎の再発を理由に辞任する意向を表明した。連続在職日数歴代1位の政治的安定は、日米を始めとする首脳外交に貢献したが、内政の成果は乏しい。安倍首相が長期政権を維持できたのはなぜか。その問いに対するシンプルな答えは、衆参の国政選挙に勝ち続けたことにある。2012年9月、自民党総裁に就任してから19年7月の参院選まで6連勝。この間の勝因はガバナンスと政策の2つの面から説明できる。
 ガバナンスは、政策調整や危機管理である。国会議員は、特定分野の利益を代表する「族議員」にもなり、同じ党に所属しても考え方が異なる。また、1府13省庁の官庁もそれぞれの既得権を守ろうとする。政治家と官庁の背後には、利益団体も存在する。政策立案にあたり、利害関係者の調整は簡単ではない。議院内閣制の本質は、与党と内閣が一体になっていることであり、与党と内閣を一体的に統治することが政権運営のカギになる。

 自民党を与党とする「55年体制」では、一部例外はあったものの、官庁が政策の原案をつくり、党がそれを事前審査した。たとえ首相や閣僚が政策の必要性を訴えても、党が「ノー」を突き付ければ、政策は実現できなかった。そして、党は政策の原案にしばしば拒否権を発動した。1つの選挙区で自民党公認候補が競合する中選挙区制のもと、自民党内の派閥の均衡、牽制も働き、首相や内閣の権限は相対的に弱かった。
 そこで、1990年代以降、1つの選挙区から1人の当選者を出す小選挙区制に改める選挙制度改革や中央省庁の再編統合などにより、首相と内閣の権限が制度的に強化された。そうした仕組みを活用し、政治主導の政権運営に成功したのが小泉純一郎内閣(2001~06年)だった。ただし、制度が整備されても、それを使いこなすことができるかどうかは別問題であり、第1次安倍内閣や民主党政権では機能しなかった。
 第2次安倍内閣は、第1次内閣の失敗を学習し、首相官邸や内閣官房に党と省庁を掌握できる人材を配置した。その代表が正副の官房長官であり、首相秘書官や首相補佐官に登用された「官邸官僚」だった。彼らがチームとして機能したことが、安倍内閣のガバナンス強化につながった。具体的には、自衛隊の在外邦人の保護措置を規定した平和安全法制や太平洋地域の経済自由化を目指すTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の取りまとめにおいては、ガバナンスが有効に機能したと言えるだろう。
 首相秘書官や首相補佐官はあくまでも首相に助言し、補佐する立場であるにもかかわらず、首相の威光を背景に省庁を直接、指揮命令するといった問題もあったが、こうしたアプローチ自体は問題ではなく、細かな違いを捨象すれば、議会制民主主義の伝統が根付いたイギリス型のガバナンスに近いと言える。問題は、そうしたガバナンスがより良い政策を実現するために活用されるのではなく、もっぱら政権維持のために使われたことである。
 次に、政策面について考える。安倍内閣には、「3本の矢」「成長戦略」「地方創生」「人生100年時代構想」「1億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」「全世代型社会保障」などのスローガンがあった。これらを取りまとめたのは、日本経済再生本部、未来投資会議などの会議体で『日本再興戦略』を始めとする報告書が数多く作成された。スローガンは1年間にいくつも登場し、しばしば「やってる感の演出」と言われた。
 安倍政権は発足当初から経済成長重視を打ち出した。日本経済がデフレの罠に陥り、長く低成長時代が続いたからである。低成長が問題だとするのであれば、まず日本経済がなぜ成長できないのか、その足かせは何かを分析する必要がある。しかし、『骨太の方針』を始めとする政府の報告書には、こうした分析がほとんどない。「海外から投資を呼び込む」「東京一極集中を是正する」「女性が活躍する環境をつくる」といったお題目が並ぶだけだ。
 問題の分析がないことと裏腹に、しばしば議論の結論が官邸主導で先に決まっていた。その典型が幼児教育・保育の無償化である。政府は2017年9月、幼児教育・保育の無償化の是非を議論する人生100年時代構想会議を設置したが、衆院選を10月22日に実施することに決めたことから、その選挙公約として幼児教育・保育の無償化が官邸主導で決まった。そして、選挙公約を引き写して、人生100年時代構想会議の報告書『人づくり革命基本構想』が作成されたのである。
 現在、幼児教育や保育の現場において何が問題になっているのか、無償化が社会にどのようなインパクトを与えるのか、費用対効果はどうなっているのかーーなどについては、ほとんど分析や議論がなかった。そもそも、自民党が野党だった時代は、幼児教育や保育の無償化は「予算のバラマキ」「合理性がない」と言って反対していたにも関わらず、幼児教育・保育の無償化を推し進めたのである。要するに、選挙対策なのだ。
 幼児教育・保育を無償化することの理念は否定しないが、現状において費用対効果の高い政策とは言えない。すでに低所得層の保育料負担は少なくなっていることから、無償化は中高所得層に恩恵を与えることになる。中高所得層は、無償化で浮いたお金を塾やお稽古事に使う。そうすると、無償化は、社会の格差を拡大させることになる。また、保育料負担を考えて利用が控えられていた保育需要を顕在化させ、待機児童を増やすことにもつながるだろう。
 女性活躍の推進や働き方改革、1億総活躍社会、全世代型社会保障の実現など、安倍政権では有権者を意識した「やさしい」政策が少なくない。本来、成長戦略や働き方改革には、市場改革や規制緩和が必要になるが、そうした市場改革や規制緩和を進めると、利害関係者の反対が強くなり、選挙のマイナスになる。安倍政権は、有権者を意識した改革の姿勢は示しても、本気になって改革を進めることはなく、政策の一貫性もなかった。
 選挙重視は安倍政権に限ったことではないが、安倍政権は政権維持を過度に意識し、政策が極端に短期志向になる。『骨太の方針』では、「エビデンス(科学的な証拠)に基づく政策形成」も提唱するが、安倍政権が政治的に重視する政策については、エビデンスに基づく政策形成のプロセスは全く適用されない。消費増税延期などの重要政策についても、事前の議論はほとんどなく、首相の政治判断だとして、税制を担当する財務大臣でさえ意志決定の蚊帳の外におかれた。
 経済財政諮問会議などで議論し、最後に首相が決断するのであればよいが、新型コロナウイルス対策で小中学校の一斉休校、アベノマスクの全世帯配布がそうだったように、安倍政権では、「誰が」「いつ」「どこで」「どのような理由」で意志決定したのかが、全くわからない。従来ならば、首相の指示だからといって官僚もそれに従うとは限らなかったが、安倍政権では違う。首相官邸が幹部人事に従来以上に介入するので、問題があっても異論を唱えず、むしろ忖度に走る。
 公務員制度改革により、中央省庁の幹部人事が内閣人事局に集約され、首相官邸の評価が官僚の出世に直結するようになった。【1】 安倍首相や菅義偉官房長官は、官僚の抜擢人事をしばしば「適材適所の人事」と説明するが、その基準は明確ではなく、官僚たちは政治家の顔色をうかがう。7年半にわたる安倍政権のもと、首相官邸主導の裏側で政策形成のプロセスは著しく劣化した。筆者は、これこそが安倍政権の最大の問題と考える。
 安倍政権の発足直後は、異次元金融緩和で行き過ぎた円高が是正され、円安と株高を背景に国内景気は上向いた。しかし、持続しなかった。金融緩和ではデフレから脱却できないし、「やってる感の演出」では、経済は成長しないのである。安倍政権7年半の国内総生産(GDP)の実質成長率は年平均1.03%にすぎず、2009~12年の民主党政権の実質成長率の年平均1.84%を下回る。【2】 政権発足時の経済状態が異なるため、単純な比較はできないが、これがアベノミクスの成果なのだ。
 低金利でゾンビ企業が生き残り、選挙対策で財政規律は失われた。アベノミクスの成果を急ぐあまり、政府がプレーヤーとなる官民ファンドは14に膨れ上がり、一部のファンドは損失を拡大させている。安倍政権は連続在職日数歴代第1位を達成したものの、負の遺産は大きい。内閣の業績は、首相の在職日数で評価するのではなく、政策の中身と結果で評価すべきである。安倍政権の7年半を冷徹に分析することが、日本経済、そして、日本の民主主義を発展させるために求められている。
 
 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。
 

「就職先が見つからない」と言って失踪した韓国の若者に見る韓国社会の呪縛

2022-09-25 12:52:33 | 日記
「就職先が見つからない」と言って失踪した韓国の若者に見る韓国社会の呪縛

田中 美蘭

 2022/09/25 06:00

(田中 美蘭:韓国ライター)

 先日、韓国中部の地方都市で、20代の男性が「就職先が見つからない」と家族に悩みを打ち明けた後、自宅から失踪。その後、死亡しているのが見つかり、警察は自殺と見て死因を含め捜査をしているとのニュースがあった。

韓国では、こうした学生や20代の若者が学業や就職を苦に命を絶つケースが後を絶たない。

 日本でも若者の自殺は深刻な社会問題になっているが、日本ではいじめやパワハラなど人間関係の悩みによる原因が多いという印象だが、韓国の場合は進学(学業)や就職といった進路に関する悩みによって命を絶つケースが多い。

 韓国では、時として学歴や家柄を「黄金チケット」や「金の匙」などと称する。そして、「名門大学を出て優良企業に就職すること」を意味する「黄金チケット」こそが現在の韓国を衰退させているという指摘がある。

「韓国の学歴至上主義は儒教時代の科挙試験の名残だ」とも言われるが、学歴、ひいては進学、就職先のネームバリューにこだわるがあまり、労働力の減少にもつながっているのだ。

 また、加速度的に進む少子高齢化などにより、大学受験および大学経営にも変化が出始めている。

時代が変化しているにもかかわらず、学歴至上主義と黄金チケットの柵から抜け出せないでいる韓国の現状とは、いかなるものであろうか。

 筆者は過去に何度も韓国の若者の就職事情について記事を書いたことがある。

その際に毎回指摘しているのが、学歴というプライドがその後の進路選択の邪魔をしているということである。

つまり、「大卒」という肩書があるがゆえに就職先についての理想値が高くなり、選択肢を狭めてしまっている。

 現に、サービス業や肉体労働的な仕事を「大卒なのにこんな仕事はできない」と言って敬遠する、せっかく職を得てもすぐに離職するという話をよく耳にする。

人手不足で人材を求めているのに、応募者が来ないという職場も実は多い。

名の知れた大企業でなければ嫌だ、ホワイトカラーの職でなければ嫌だという選り好みがある。

 そのような話がありふれているために、韓国のドラマや漫画には「就職準備中」と称して公務員試験の勉強を重ねている登場人物がかなりの頻度で登場する。

韓国にはそうした若者が多いことを示している。

韓国の親や若者が抜け出せない呪縛

 筆者と同年代の40代の友人・知人と会って話題になるのはいつも子どもの教育についてである。

友人・知人で集まれば、すぐに評判の良い学院(韓国では塾を総じてこのように呼ぶ)や課外(家庭教師)についての情報交換や大学受験の話になる。

 筆者はそこまではやらないが、教育水準が高いとされる地域のママ友がいる場合、学院などの情報通のママ友から情報を得るために、そのママ友を食事にさそってもてなすこともあるというから驚きである。

 日本で人気となり、ドラマ化もされた中学受験をテーマにした漫画「二月の勝者」には、カリスマ塾講師の「(受験の成功は)父親の経済力と母親の狂気」という名ゼリフが登場する。これは、韓国の高校生の親にも当てはまるセリフと言えよう。

 そして皆、必死になっていることの矛盾を心のどこかで感じながらも、「良い大学、良い就職先」という呪縛から抜け出せずにいる。

 実際に、幼児期から様々な学院に通わせ、子どもに怒涛のごとく勉強をさせてきたものの、思春期になって子どもの方が嫌気が差して勉強を放棄し、親が手に負えなくなってしまったケースも少なくない。

 特にコロナ禍以降に見られるのが、大学受験を経て入学したはいいものの、オンライン授業の長期化によって思い描いていた大学生活を送れず、大学を休学したり、退学してしまったりするケースだ。

 ある地方大学で講師として教壇に立っている友人は、「この大学にも優秀な生徒はたくさんいる。だけど、韓国はソウルに一極集中しているせいで地方大学の評価が思っている以上に低いことが残念だ」と語る。

 ソウルのトップクラスの大学に入ることは「IN SEOUL(インソウル)」と言われステータスになっている。

その一方で、地方大学は少子化の加速によって国立・私立を問わず定員割れが生じている。

 もちろん、すべての高校生が学歴至上主義の中に身を投じているわけではない。

高卒で就職したり、一度、社会に出てから大学に入学したりするケースもある。

そうした中で、自分の道を着実に歩んでいる若者もいる。

 地方大学や自分なりの生き方を進める若者たちにももっとスポットが当たれば韓国のイメージも変化するのではと思うが、日本以上に固定観念が強く、一筋縄ではいかないようである。

閉塞感に包まれている韓国の若者

 今のこの状況が、若い世代の「非婚」や「子どもを持たない」という考えにもつながっている。

 小学生の頃から複数の学院に通い、ひたすら良い大学を目指し、名の知れた企業に就職することが「人生の成功」と刷り込まれてきたことが負担となり、「自分の子どもにも同じような苦労をさせたくない」と考える高校生が増えているという話もある。

 政府はこの少子化を食い止めようと、未就学児の保育園や幼稚園の無償化、月々支給されている日本円で約3万円(1世帯ごと)の手当を来年度より増額することなど発表している。

 ただ、日本でも同様のことが言われているように、いくら支援をしようとも、共働きの家庭でも保育園選びが円滑にできるような環境を整えたり、私教育への負担が軽減されたり、前述のような地方大学にいる優秀な学生や高卒者でも活躍やチャンスの場を得られたりすることができなければ、少子化の根本的な解決は望めないであろう。

 韓国に将来性を見いだせず、日本や英語圏への留学をする若者が多いことも韓国ではよく知られている。

ただ、コロナ禍による海外渡航への停滞が続いたこと、最近では世界的な物価高騰に加え、ウォン安が続いていることもあり、留学へのハードルがさらに高くなっている。

 このように書き記すと、若者にとって現代は生きにくく、閉塞感の強い世の中である。

この状態が進行すれば、教育の質そのものが低下していくことも危惧せざるを得ない。