映画『男はつらいよ』は、全部で48作品が作られました。うち4作品が長野県の木曽で撮影されました。
木曽といえば江戸時代、江戸と京都を結ぶ中山道が走っていました。特に、木曽を走った中山道は木曽路といわれ、贄川(にえかわ)宿から馬籠宿まで11の宿場町が設けられました。
明治に入ると、ほぼこのルートに沿って中央西線が敷かれ、現在では塩尻駅から田立(ただち)駅まで、18駅が木曽にあります。そのうち9駅の近くで、『男はつらいよ』のロケが行われました。では9駅を北から見ていきましょう。
( たびネット信州 伊那路・木曽路 地図 )
日出塩駅
第10作「寅次郎夢枕」(1972/12公開) の冒頭場面が撮影されました。駅舎から出てきた寅さんが、駅前で柿に手を伸ばし柿を食べます。ところが渋柿だったのか、柿を吐き出します。
奈良井駅
第3作「フーテンの寅」(1970/1公開)で、寅さんが泊った旅館ゑちごやです。この旅館は、奈良井駅から少し離れた奈良井宿内にありました。旅館の向こうをSLがけん引した客車が通り過ぎます。また第10作で、寅さんと舎弟の登が泊ったかぎや旅館も、奈良井駅の近くにあります。
宮ノ越駅
第22作「噂の寅次郎」(1978/12公開)の冒頭場面。宮ノ越宿の徳恩寺で、居眠りをしていた寅さんは、住職に「風邪をひくよ」と起こされました。寅さんは賽銭をあげて立ち去ろうとしますが、間違って100円を賽銭箱に入れてしまい、あわてます。
原野駅
原野駅付近で撮影されました。第22作で、博の父颷一郎と庭田屋旅館に泊まった寅さんは、『今昔物語』を借り、ここを後にします。ここで映画の場面が木曽から柴又にかわりますが、その間にこの風景が挿入されています。山深い木曽らしい映像です。
木曽福島駅
木曽福島駅西方の御嶽(おんたけ)山です。木曽路は深い谷(木曽谷)を走っているため、御嶽山を見ることは難しいです。これは福島宿から300メート以上も高い開田高原から撮影したものです。第22作で、颷一郎と寅さんが乗ったタクシーが、妙覚寺から定勝寺に移動しますが、その間に挿入されています。これも木曽らしい映像です。
上松駅
第44作「寅次郎の告白」(1991/12公開)の冒頭場面です。中央西線の上松(あげまつ)駅近くの鉄橋を渡る電車です。上松宿から南にはずれた寝覚の床近くから撮影しています。
倉本駅
第22作で木曽の紅葉館に泊った颷一郎と寅さんが、翌日、タクシーに乗って寺巡りに行く途中の場面です。撮影は倉本駅の北の、木曽川沿いの国道19号で行われました。
須原駅
須原駅近くの須原宿内にある定勝寺の山門です。第22作で寺巡りをする颷一郎はこの寺で、古文書を見せてもらいます。
野尻駅
第22作で寺巡りをする颷一郎と寅さんが寄った妙覚寺です。タクシーの中で眠り込んだ寅さんを残し、颷一郎は山門をくぐって寺に入っていきます。また2人が泊った庭田屋旅館も、駅近くの野尻宿内にあります。さらに第44作の冒頭にでてくる阿寺川も、駅近くを流れています。
木曽路が舞台になったこの4作品には、共通点があります。それは、いずれも冬に公開されているということです。ということは、撮影時期は秋です。季節が深まり、空気が澄んでくると、山深い木曽路では、紅葉が色を増してきます。 素朴な景観をとどめ、秋らしい風景を撮影できる、これが、木曽路が4回も選ばれた理由ではないでしょうか。