EBMとは、evidence-based medicineつまり、明確な証拠に基づいた医療ということです。証拠とは、統計です。統計の数字に基づいて治療を行うということで、限られた経験から得られた印象に基づいた診断や、根拠なく習慣的に行われている治療を検証するという意味で、重要な考え方です。急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインなども、この考え方で作成されます。
EBMもそれ一辺倒ではいけないという考え方もあります。統計というのは、そのDATAに偏りがないように、細心の注意を払ってとられるのですが、人間のやることですから、完全はありません。必要な要素を抜かしてしまったり、排除すべき偏りを残してしまうことが、多かれ少なかれ起こり、したがって得られる結論も完全とは言えません。そのためにときとして、経験豊富な専門家の意見の方が、統計の結果から得られた結論よりも正しいことがあるとも、言われています。
一方、セイバーメトリクスとは、野球の采配に統計学的根拠を与えようとするもので、EBMと共通点があります。アメリカではかなり浸透しているそうですが、日本では、まだ昔からの、打率、打点あるいは勝ち星、防御率が重視されています。しかし、これらは本人の力だけでなくチームメートの力によって左右される数値なので、新しいセイバーメトリクスの指標の方が、選手個人の実力を的確に表しているとされています。
セイバーメトリクスでは、いろいろな指標が使われますが、ひとつの大きな考え方として、四球の重要性があります。打率より出塁率(安打と四球を同等に扱う)が重要視されます。出塁率と長打率を足したのがOPSですが、これは最も重要な指標とされています。
今期のセリーグでは、打率はヤクルトの青木選手、打点と本塁打数では巨人のラミレス選手、そして安打数で記録をつくった阪神のマートン選手が表彰されましたが、OPSを指標にすると、違う選手の名前が挙がってきます。中日の和田選手です。和田選手のOPSは1.061で両リーグでただ一人1を越えています。2位3位は巨人の阿部選手、小笠原選手でした(ラミレス、青木選手は、そのあとに続きます)。昨年のベスト3も同じ3人でしたので、セ・リーグの打者では、この3人が図抜けているようです。それほどたくさん試合を見ているわけではないのですが、今年ラミレス選手が大事なところで凡退したことが多々あったのに対し、和田選手は自ら点を入れるだけでなくチャンスを広げる役割を果たす場面も多く、OPSの値と印象としての活躍度は一致しています。
投手においては、与四死球と被本塁打と奪三振を指標にしたDIPSや、三振と四球の比であるK/BBが用いられます。昨年、広島のルイス投手は、昔からある防御率や勝ち星では、7、8番手だったのが、DIPSは断然トップ、K/BBに至っては9.79(10三振を奪う間にひとつしか四球を出さない)という驚異的な数字でした。これらの数字を見るまで、広島という比較的弱い(ベイスターズよりは強いです)チームにいたこともあって、あまり印象がなかったのですが。ルイス投手は今年大リーグにもどり大活躍して、これらの数字が示す彼の力が本物であったことを、証明しました。
もちろん、指標は常にその妥当性が研究され改定されていますし、また数字だけですべてを表せるわけではありません。とくに守備を数値で評価するのは、かなり難しいようです。
統計学的な数字は、正しい判断の大きな助けになりますが、同時にその数値が正しい方法で出されたものか、常に検証していく必要があるというのは、EBMもセイバーメトリクスも同じだと思います。