横浜市都筑区耳鼻咽喉科

南山田(センター北と北山田の間)の耳鼻咽喉科院長のブログ。

急性中耳炎あれこれ3 小児急性中耳炎の危険因子

2010-11-17 21:17:28 | 院長ブログ

私は自作の小児急性中耳炎のパンフレットを、お母様たちにお渡ししています。まずそれをご覧下さい。http://home.catv.ne.jp/hh/fukami/AOM.pdf

第一の危険因子は年齢です。急性中耳炎にかかりやすく、かつ治りにくいのは、生後半年から2歳になるまでの1年半の間です。その主な理由のひとつは、この年齢の子は細菌と闘う力が弱いことです。体が中耳炎の原因菌と闘うためには、菌に対する抗体が重要な役割を持ちます。生まれたときには、お母さんから受け継いだ抗体を持っているのですが、それが半年ぐらいで減ってしまい、2歳までは自分でつくることがあまりできないのです。怖い髄膜炎などが懸念されるのも、この時期ですので、昨日話題にしたワクチンも、ふつう2歳未満のお子さんに接種されます。

耐性菌(抗生物質が効きにくい菌)の感染も増えています。普通、風邪や副鼻腔炎など、鼻の炎症が先行して、中耳炎になります。集団保育を受けている子、あるいは兄弟がいると、感染を起こす機会が多くなります。親の喫煙も、子供の中耳炎の危険因子です。最近になって、胃食道逆流症(胃の内容が食道に逆流して吐いてしまい、それが何らかの症状を引き起こす)が、難治性中耳炎の原因になり得ることも報告されています。

中耳炎について、さらに詳しいことをお知りになりたい方は、左上のブックマークの欄にある、"ATOMS乳幼児の耳の発達と病気"をご覧下さい。ATOMSは、和歌山県立医大の山中昇教授を代表とした、中耳炎の研究グループです。”乳幼児の耳の発達と病気”のページの作成とナレーションは、私の大学の同期生の上出洋介先生が担当しています。

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急性中耳炎あれこれ2 ワクチンは有効か

2010-11-16 23:22:23 | 院長ブログ

最近お母さん方によくされる質問に「中耳炎の予防にワクチンは有効ですか?」というのがあります。

急性中耳炎の原因として一番多いのは肺炎球菌、2番目がインフルエンザ菌(インフルエンザの原因ではありません。19世紀まだウイルスが発見されていない頃に、間違ってつけられた名前)、3番目がモレキセラ・カタラリスという菌です。

最近行われるようになった予防接種に、肺炎球菌のワクチンとHibワクチン(ヒブ。インフルエンザ菌のうち重症の髄膜炎の原因となるb型に効く)があります。中耳炎を起こすインフルエンザ菌はb型とは別のタイプなので、Hibワクチンは中耳炎には無効です。肺炎球菌ワクチンについては、答えるのが難しいところがあります。

最近できた7価の肺炎球菌ワクチンは、幼児のためのワクチンで、中耳炎にも有効と謳われています。しかし、7価というのは、7つのタイプのという意味で、他のタイプの肺炎球菌による中耳炎は予防できません。その上、7つのタイプの肺炎球菌だけを予防することによって、他のタイプの肺炎球菌や、肺炎球菌以外の菌による中耳炎が、逆に増えるという報告があります。また中耳炎が減少したという米国の報告でも、その減少はわずかですし、ネイティヴ・アメリカンの中耳炎を対象とした検討では、有効性は認められなかったという報告もあります。

そこで現在のところは、「ワクチンで中耳炎を完全に予防することはできません。中耳炎の予防というよりも、髄膜炎や肺炎の予防のために必要な予防接種と考えます。」とお答えするようにしています。

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急性中耳炎あれこれ1 中耳炎になった耳鼻科医

2010-11-15 21:32:10 | 院長ブログ

冬は中耳炎の季節です。

開業して最初の冬だったでしょうか、自分自身が急性中耳炎になりました。中耳炎の痛みは、本当につらいものです。鎮痛剤では抑えきれず、文字通り七転八倒。夜は、疲れてうつらうつらとはするのですが、痛みですぐ目が覚め、一晩中熟睡することはありませんでした。最初の夜を過ぎると、激痛は収まったのですが、鈍痛と耳閉感、難聴は2週間以上続き、精神的な疲労はかなりのものでした。他の耳鼻科の先生にお願いして、鼓膜切開もしてもらいました。(その節は、ありがとうございました。)

でも、医者が病気になるのには、いいこともあります。

自分の鼓膜を内視鏡で見て、鼓膜が赤くなり、腫れて膿が貯まっていくのを、時間を追って観察できました。普通、患者さんを発症した瞬間から診ることや、その後24時間見続けることなどは不可能です。自分自身が患者だからできたことです。大人が中耳炎になることは珍しいし、耳鼻科医が中耳炎になる確率はもっと少ないでしょうから、こんな経験をした耳鼻科医は、あまりいないと思います。

鼓膜がどういう状態のときにどういう症状が出るのか、正確に知ることができましたし、耳とは離れた下顎まで痛くなること(神経がつながっているのです。これがけっこうつらい)など、あまり知られていないことも体験することができました。自分がその病気になると、百編の論文を読むより多くのことを知ることができるし、その病気の患者さんの気持ちが良く分かるようになります。中耳炎の治療を行う上で、貴重な経験となりました。

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EBMとセイバーメトリクス

2010-11-14 13:50:05 | 院長ブログ

EBMとは、evidence-based medicineつまり、明確な証拠に基づいた医療ということです。証拠とは、統計です。統計の数字に基づいて治療を行うということで、限られた経験から得られた印象に基づいた診断や、根拠なく習慣的に行われている治療を検証するという意味で、重要な考え方です。急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインなども、この考え方で作成されます。

EBMもそれ一辺倒ではいけないという考え方もあります。統計というのは、そのDATAに偏りがないように、細心の注意を払ってとられるのですが、人間のやることですから、完全はありません。必要な要素を抜かしてしまったり、排除すべき偏りを残してしまうことが、多かれ少なかれ起こり、したがって得られる結論も完全とは言えません。そのためにときとして、経験豊富な専門家の意見の方が、統計の結果から得られた結論よりも正しいことがあるとも、言われています。

一方、セイバーメトリクスとは、野球の采配に統計学的根拠を与えようとするもので、EBMと共通点があります。アメリカではかなり浸透しているそうですが、日本では、まだ昔からの、打率、打点あるいは勝ち星、防御率が重視されています。しかし、これらは本人の力だけでなくチームメートの力によって左右される数値なので、新しいセイバーメトリクスの指標の方が、選手個人の実力を的確に表しているとされています。

セイバーメトリクスでは、いろいろな指標が使われますが、ひとつの大きな考え方として、四球の重要性があります。打率より出塁率(安打と四球を同等に扱う)が重要視されます。出塁率と長打率を足したのがOPSですが、これは最も重要な指標とされています。

今期のセリーグでは、打率はヤクルトの青木選手、打点と本塁打数では巨人のラミレス選手、そして安打数で記録をつくった阪神のマートン選手が表彰されましたが、OPSを指標にすると、違う選手の名前が挙がってきます。中日の和田選手です。和田選手のOPSは1.061で両リーグでただ一人1を越えています。2位3位は巨人の阿部選手、小笠原選手でした(ラミレス、青木選手は、そのあとに続きます)。昨年のベスト3も同じ3人でしたので、セ・リーグの打者では、この3人が図抜けているようです。それほどたくさん試合を見ているわけではないのですが、今年ラミレス選手が大事なところで凡退したことが多々あったのに対し、和田選手は自ら点を入れるだけでなくチャンスを広げる役割を果たす場面も多く、OPSの値と印象としての活躍度は一致しています。

投手においては、与四死球と被本塁打と奪三振を指標にしたDIPSや、三振と四球の比であるK/BBが用いられます。昨年、広島のルイス投手は、昔からある防御率や勝ち星では、7、8番手だったのが、DIPSは断然トップ、K/BBに至っては9.79(10三振を奪う間にひとつしか四球を出さない)という驚異的な数字でした。これらの数字を見るまで、広島という比較的弱い(ベイスターズよりは強いです)チームにいたこともあって、あまり印象がなかったのですが。ルイス投手は今年大リーグにもどり大活躍して、これらの数字が示す彼の力が本物であったことを、証明しました。

もちろん、指標は常にその妥当性が研究され改定されていますし、また数字だけですべてを表せるわけではありません。とくに守備を数値で評価するのは、かなり難しいようです。

統計学的な数字は、正しい判断の大きな助けになりますが、同時にその数値が正しい方法で出されたものか、常に検証していく必要があるというのは、EBMもセイバーメトリクスも同じだと思います。

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耳鼻科の冬到来

2010-11-12 21:30:37 | 院長ブログ
 あざみ野棒屋先生が以前”皮膚科の夏”ということをおっしゃっていましたが、”耳鼻科の冬”というのも言えそうです。副鼻腔炎や中耳炎などの感染症は、風邪がきっかけで生じることが多く、風邪ひきの多い冬は耳鼻科の患者さんが増えます。
 
 ヘヴンリーブルーという西洋朝顔は、その名の通り清らかな青い花が、秋の終わりまで咲いてくれて、私の好きな花のひとつですが、ついこの間まで咲き誇っていたヘヴンリーブルーも、花が小さくなり、色も紫がかってきました。こうなると、いよいよ冬の到来です。
10月24日
11月10日

 開業して10回目の冬を迎えましたが、昨年だけは”耳鼻科の冬”がありませんでした。新型インフルエンザの影響と思われ、他の耳鼻科の先生方に聞いてみても、昨年の冬は皆患者さんが少なかったということです。理由はいろいろ考えられますが、昨年は皆が風邪をひかないように、色々と予防対策をしていたというのが、大きな要因だと思います。うがい、手洗い、マスク、ひとの集まる場所に不用意に行かないなどなど、多くの方が実践すると、冬季の感染症は確実に減るということが、昨年実証されたのだと思います。

 今年は、一昨年までと同様の”耳鼻科の冬”が始まっています。昨年を思い出して、風邪の予防をしっかりやりましょう。昨年の新型インフルエンザの流行は、予想されたよりも短期間で終息しましたが、それは皆がしっかり予防したことにもよると思います。油断すれば、今季インフルエンザの大きな流行を許す可能性もあります。
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