夏の朝、気温がぐんぐん上がる前のデンパサールの街を、山内鳥郎は歩いていた。南国特有の短い影を従え、日本では影の薄い彼も、赤道直下ではくっきりとした濃い影ができる。「人生は光と影の両面印刷」20世紀の哲学者ドナルドフェイガンもそんな事を言っていた。今回バリに来たのは、クローブの買い付けのためだった。上司の平塚マネージャーから「バリに行ってくれ」と言われた時は、てっきりフランスのパリだと思っていたので、これもパソコン画面のバとパが見にくいせいである。うちのばあちゃんはデパートをデバートと言っていたが、それも、あの時代はパソコン画面が13インチだったからだ。