細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『リンカーン』で描かれる不運な大統領の孤独な論争。

2013年01月11日 | Weblog

●1月10日(木)12−30 汐留<FSホール>試写
M−003『リンカーン』Lincoln (2012) 20th century fox / dreamworks . amblin entertainment
監督/スティーブン・スピルバーグ 主演/ダニエル・デイ=ルイス <150分> サンダンス・カンパニー ★★★★
1865年、第16代アメリカ大統領リンカーンは、長引く南北戦争を集結させるべく黒人奴隷解放法案を議会に提出。
しかし南部の有識者による反対で、なかなか賛同は得られない。
もともと戦争は、奴隷制度の撤廃と、黒人の人権承認の是非でアメリカ南北が対立していた。
これまでのエブラハム・リンカーン映画というのは、彼の劇的な暗殺をドラマの焦点にしていた。
ロバート・レッドフォード監督の近作「声をかくす人」なども、その陰謀を描いた。
しかしこの作品の原作は、あくまで議会政治の中で民主主義を貫こうとした不屈の大統領の苦悩を描く。
でも「スミス氏都へ行く」ほどの楽天性はない。
従って、かなりダークな議論ドラマになっていて、政治好きのペイトリアンには受けるだろう。
たしかに悲惨なゲティスバーグの南北の戦闘シーンは壮絶で、スピルバーグ映画の本領は見せる。
それは勝利へのアクション・シーンではなく、残酷な殺し合いの実態だ。
アカデミー賞のノミネートも多数予想されるが、これは本質的に歴史の残酷な再現ドラマ。
だから娯楽映画でも戦争映画でもなく、不運な決済を迫られた大統領の人間を見つめる人間ドラマなのだ。
ダニエルは、またしても、オスカー当確の名演で、巨人の孤独感が漂い、壮絶だ。
悪妻サリー・フィールズも、頑固な議員トミー・リー・ジョーンズも、ここぞと白熱する。
保守的なアカデミーのメンバーは、オスカーに投票するだろうが、これはいかにも硬派な歴史映画。
ラストの暗殺シーンは、まったく蛇足で、減点材料になったのが惜しまれる。

■左中間の大飛球だが、高く上がりすぎて、フェンスに当たる長打。
●4月19日より、有楽町日劇などでロードショー