細沼園のお茶飲み話

お茶の時間のひとときに、思いつくまま書きました。

桜島・日の果て  著者 梅崎春生

2008-09-28 11:40:15 | 読書メモ あ行



《内容》
米軍上陸に備える桜島へ転勤と決まった暗号員村上兵曹は、その前夜、妓楼で片耳のない妓を抱く。どうやって死ぬの。おしえてよ―――――。
目前に迫った死の運命、青春のさなかにあって、断ち切られようとしている自らの生に対する諦念と絶望感の相剋を、みずみずしい青春の情感を根底として記録風に描く『桜島』。ほかに『日の果て』『崖』『蜆』『黄色い日々』。
            (紹介文より)


「耳がなければ、横向きに寝るとき便利だね」
 このような言葉を、荒々しい口調で投げてみたくてしようがなかった。言わば、頭をかきむしるような絶望の気持ちで――――妓を侮辱したかったのではない。この言葉を出せば、言葉のひとつひとつが皆するどい剣のようにはねかえって、私の胸に突き刺さって来るにきまっていた。口に出さずとも、もはや私の胸は傷ついているのではないか。私は、私自身を侮辱したかったのだ。生涯、女の暖かい愛情も知らず、青春を荒廃させ尽くしたまま、異土に死んでいかねばならぬ自身に対し、このような侮辱がもっともふさわしいはなむけではないのか。私は窓に腰かけたまま、じっと女の端麗な横顔に見入っていた。     (本文より)