Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

<ワカサギの生活2>ワカサギに学んだこと3

2005-02-28 | ワカサギに学んだこと
 次に私は,ワカサギの自然分布に注目した。図1(前掲)に示すように,ワカサギの分布は日本海側,オホーツク海に広範囲に分布しており,青森県~山口県の沿岸河川に生息している。一方,太平洋側は,青森県小川原湖,茨城県涸沼,北浦などごく限られた場所にしか自然分布しない。それはなぜか?

 今回,岩手県沿岸に注ぐ閉伊川産ワカサギの調査で,遡河回遊魚といわれながらも,実は汽水域周辺に非常に依存した生活をしていることがわかった。産卵場はもちろん淡水であるが,河口域から3kmほどの上流にあり,ふ化した仔魚は上流側から河口へと流下して大きくなるまで河口域で生活し,さらに,稚魚や若魚になっても河口域周辺にとどまっている。つまり,サケのように海を大回遊するのではなく,沿岸の汽水域を中心とした生活をしているのである。
 汽水域は,栄養塩が抱負である反面,塩分や水温などの環境変動が激しく,限られた種類のみが生息できる特別な場所である。ワカサギはこのような厳しい環境を利用できる性質を持っている。そのため,全国の淡水湖に分布を広げたのであろう。

 このように,ワカサギは本来河口域や汽水域を生活圏とし,ある程度の汽水域が保たれた場所を好んで分布しており,太平洋側や日本海側を問わず汽水湖や河口域を中心に自然分布をしている。
 しかし,ここでまた疑問が生じる。ワカサギが好むような汽水域は,太平洋側ではなく,オホーツク海や日本海側に偏っているのである。なぜなのだろうか?

<ワカサギの生活>

2005-02-25 | ワカサギに学んだこと
  ワカサギはキュウリウオ科ワカサギ属に属する日本固有種の魚で(最近では佃煮生産のため中国に発眼卵が輸出されている),サケ目に分類される。
 サケ目魚類は進化的に古い仲間である。サケ目魚類には,生活史の中で淡水域が必要である種が多く,海で生活するも産卵の時に淡水に遡上する仲間(遡河回遊魚)や,成長期を川で過ごし,産卵後海で生活するアユなどの仲間(両側回遊魚)がいる。シロザケ,サクラマス,カラフトマスなどのサケ科魚類の他,キュウリウオ科シシャモなどは海で生活し,産卵の時は川に遡上する仲間である。
 一方で,同じ種でありながら淡水域で一生生活する仲間もいる。例えばサケ科魚類のサクラマス(淡水生活ではヤマメ),ベニザケ(一生淡水で生活するものはヒメマス)などである。これらは,一生淡水域で生活し再生産が可能な種である。同じように,ワカサギも淡水域で再生産が可能だ。おそらく,淡水域で産卵する性質のため,湖を海の代わりとして成長し流入河川を産卵場として利用できるのであろう。ではなぜ,同じサケ目の中でワカサギだけが全国各地のたくさんの淡水湖に分布するようになったのか?その理由として1.富栄養化に強いこと,2.水温の適応範囲が広いこと,3.塩分変化に強いなど環境要因に対する抵抗力が他の魚種に比較して強いこと,4.1年で成熟が可能なこと等が挙げられる。

汽水域を好む魚<はじめに>

2005-02-23 | ワカサギに学んだこと
 みなさんはワカサギという魚をご存じでしょうか?きっと多くの方は,「湖にすんでいて,氷上の穴釣りで有名な,あの小さくてかわいらしい淡水魚でしょ?」と答えるに違いない。しかし,本来は海で生活し川で産卵するため,海から閉ざされた場所には分布しない。サケと同じ遡河回遊魚といわれる仲間である。ところが,今から100年前の1909年に,茨城県の涸沼から福島県の松川浦に移植され繁殖に成功したのが始まりで,各地に発眼卵が移植され,現在では全国の100箇所以上のダム湖,人工湖などの淡水湖で生息が確認されるようになった。図1は全国のワカサギの分布を示したものである。このように,北は北海道から南は鹿児島県の池田湖まで分布を広げており全国的に淡水魚というイメージが強い。
 岩手県沿岸では,チカというワカサギに大変よく似ている魚がいる。あまりに似すぎるので,チカ=ワカサギと取られている釣り人がいるが,実は両者は交雑することのない全くの別種である。

図1国内におけるワカサギの分布(浜田 1986改編)