達増拓也知事講演 2011年12月18日 in 岩手県立大学宮古短期大学部
いわて三陸 復興の架け橋 ~新しき明日へ向かって~
講演のタイトルと
未来づくり機構のテーマは一緒である。大震災が起こり,新しい年を迎えようとしている。新しい見通しを持って行くことが,新年を迎えることができるのは大きな意義がある。
3・11の大津波,津波の常習地帯である。明治三陸大津波23309人,昭和三陸大津波2671人,チリ地震津波62人の後に,今回6048人の犠牲者が出たことは大きな衝撃を持って受け止めた。建物の倒壊数は明治三陸大津波5000棟,昭和三陸大津波4000棟,今回24735棟が倒壊した。豊かな経済社会として大災害を受けたのは住宅の倒壊数にも現れている。先進民主主義国ではなかったといってもいい。そういう意味でアメリカ,ヨーロッパを始め人類史的な大災害だという受け止め方をした。大きな関心と大きな激励の手を差し伸べていただいた。岩手県も海外からの援助は初めてのことであった。80億円の支援金からクエートから来ることになっている。
自衛隊は1万2千人の動員があった。消防,警察も来てくれた。岩手県内から職員が派遣された。岩手県知事として被災地を周り,直接把握し,国の会議にも出席し,世界から来る人々と接した。そういう経験から印象を持っているのは,「思い」である。支援の強さ,大きさがある。しかしまだ,多くの善意が形になっていない,というのを実感している。こうしたことを実感したので,このプロジェクト「岩手未来づくり機構」を通じて形にならないかと思い,善意を形にしたいと思っている。通常の行政のラインによる条例に基づいた復興事業とは別に民間の力ボランティアの力,企業等の団体もある。全国世界にネットワークを持つ一人の人間として動きたいという多くの思いもある。様々な主体と共に行政が動くこととが「新しい公共」であり,意義のある取組であると思う。
人類が初めて経験することであるといったが,世界が経験したことがなかったことであり,復旧復興は複雑なものになっている。軍隊式で街を作るというものではなく,一人ひとりの生活の実態や町や村の経済社会状態にあわせきめ細やかに,生身の体を治療していくような慎重なやり方が成熟した先進国に必要である。これは行政の力だけでは極めて難しいところである。多くの主体の参画が必要とされるところである。
今回の復旧復興で確立されれば,他の国の教訓となっていけばいい。痛みを世界全体の痛みとして受け止める,そうしたことが第一歩になれば,と思っている。
平泉の世界遺産が登録になったのは象徴であると思う。度重なる戦乱の荒廃からの復興として中心に輝いているのが平泉である。今回の復興も平泉を象徴として敵も見方もなく弔う,人と自然との共生,人と人との共生の理念が復興の理念であると思う。世界に開かれた,岩手発のプロジェクト名「いわて三陸 復興の架け橋 ~新しき明日へ向かって~」は新渡戸稲造の架け橋の言葉が込められている。また,啄木の「新しき明日」と叫びながら執筆した思いが込められている。先人の思いを世界に広めていく,復興という大変困難な事業であるが,取り組んでいきたいと思う。