2018/3/19 月曜日 18:58
F君の修士論文がついに完成の日を迎えた。3月には修了証書を手に取った。2年間、O町をテーマとして,アンケート調査,聞き取り調査,論文の執筆に当たった。私たちは,メールや直接の対話によって何度もやりとりを繰り返した。朝研究室に来ると帰りは夜10時を回るのが常だった。
彼は,横浜出身であるがご両親は札幌出身。北海道への愛着を持っていたが,閉伊川流域に何度も滞在し,強い愛着を持っている。懸命にこの2年間取り組んだことは,沿岸部の高校生の森川海の思い出と将来の想いの特徴とそれらとの関係を明らかにすることだった。
最終的に行き着いたところは人間の心とは何かと言うところであった。高校生が持つ将来の希望や想いは,その人の持つ思い出に関連が強い。人間の心は思い出によって形成されているのである。思い出は,その人の体験から基づくものでありそして人と人との関係が大きな要素を占める。人の関係は重要であるが,人間を取り囲む自然環境も殊の外重要なのである。
中でも,主体的な体験活動は,将来の想いの形成になくてはならないものだ。特に狩猟採集体験は,思い出に残り,将来の環境保全や地元を大切に思う気持ちを育んでいるようだ。この調査を基にして,70才以上の年配方々にも思い出を尋ねるとはやり森川海での狩猟採集の思い出が強いようであった。自然環境が未だ破壊されず維持できているからこそ可能なことである。この様な自然環境は,市場原理主義によって荒廃した自然環境とは異なり,人類の健全な精神性を維持させる最後の砦といっていいかもしれない。
これらの結論は,水圏環境教育の今後のあり方について,示唆を与えてくれた。つまり,豊かな自然環境の中での体験が重要だということ。本当にご苦労様。
しかしながら,私たちの日常生活は,人間同士の関係に焦点を当てがちだ。それは都市化が進めば進むほど人間と人間との関わりが重要であり,そして大きな問題が起きてくるのだ。都市化が進むことによって人と人との関連性がよくなることもあるし,また逆に悪くなることもある。人間はゼロから新しいものを見出していく力を持っている。しかしながら新しいものを生み出す反面その弊害が生じることを理解しなければいけない。都市化が進めば進むほど,環境問題,エネルギー問題が進行することはこれまでの歴史が示すとおりだ。自然と人間との分断化,遠逃(えんとう)現象が起きるからだ。確かに,自然環境での体験は,市場価値がないように思うかも知れないが,エコツーリズムの企画を立てるなどこのあたりはしっかりと公共サービスとして充実させる必要がある。公共機関やそこで働く人財の役割は大きい。
F君,4月からは海外青年協力隊として近々ペルーに赴任する。対等に対話して学び合う「水圏環境教育」の理念を携えて。地球の反対側から新天地での活躍を祈る。