Dr.Poffilioさんにメキシコ湾におけるUNIDO(国連工業開発機関United Nations Industrial Development Organization)の取り組みを紹介していただいた。
メキシコ湾では,UNIDO主導による二国間連携によるTDA(Transboundary Diagnostic Analysis)が実施されている。
TDAは国境をまたいで共通の目的を持って取り組むプロジェクトで,メキシコ湾の多面的な持続可能な利用・開発と協調を目指している。TDAのテーマは
1) 海洋の生産性
2)生態系の健全性と汚染
3)魚類と漁業
4) 社会経済学
5) 海洋ガバナンスであり
3つのパイロット実証プロジェクトとして
i)生態系の健全性の監視
ii) マングローブ林の復元
iii) 漁業資源の回復
を実施している。
アメリカとメキシコのそれぞれの研究者が協力してメキシコ湾全体を管理する理由は,海洋生態系は複数の国々に関連があるからで,領海のように国の都合によって線を引いても,海洋生態系は分けることができない。地球上には64カ所に大規模な海洋生態系が存在するが,どの海洋生態系でも同様である。
もちろん海洋生態系は海だけの問題ではなく,私たちの生活する陸域にも関連がある。水圏環境に対する意識の向上が最も重要なのである。現在では,研究者だけでなく二国間の教育関係者が毎年集い,お互いに教育に関する情報交換を行っている。また,ジュゴンを守るためのプログラムを立ち上げるなど小学校にも出向いて授業を行うこともある。持続的な開発のためには教育が欠かせない。もちろん研究者の情報は大変役に立つが,政策決定するためには研究者の情報をわかりやすく伝えていく役割が必要である。Dr.Poffilioさんはそうした役割を果たすための統合的な機能を持ったエクセレンスセンターを設置することを望んでいる。
多国間による海洋生態系マネジメントの一事例として,メキシコ湾における取組を紹介してもらった。我が国でも沿岸域の総合管理に取り組もうとしているが,幅広い専門家による研究,教育,アウトリーチ,インリーチによる生態系マネジメントが実現することを願いたい。