Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

第11回日本水圏環境教育研究会要旨集です

2022-03-26 | 水圏環境教育

御挨拶

東京海洋大学 水圏環境教育研究室

(一社)日本水圏環境教育研究会 

佐々木剛

t-sasaki@kaiyodai.ac.jp

本日,ご参会の皆様におかれましては,ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃,本研究室並びに本研究会の活動に際しまして,多大なるご支援とご協力を賜り誠にありがとうございます。

水圏環境教育は,水圏環境リテラシーの普及を目指し,2006年にスタートしました。水圏環境リテラシーとは,水圏環境と人間との相互作用を理解し活用する能力です。2007年には,文部科学省現代GPに採択され,水圏環境リテラシー教育を推進するリーダー養成科目が設置されました。2012年,水圏環境教育研究会は,東京海洋大学の取り組みのみならず,各地域の自治体,各種学校,教育関連施設,民間企業等において活躍する水圏環境教育推進リーダーを支援し,水圏環境リテラシーを普及推進によって,一人ひとりの内発的な伸長をはかり持続可能な社会の実現を目指し設立されました。2017年には,ユネスコIOCより取り組みが評価され,海洋リテラシー教育の世界的なテキストブックである「Ocean Literacy for All」に先進的事例として紹介され,また2021年には,国連持続可能な海洋科学のための10年のプログラムの一つである「Ocean Literacy with All」のプログラム委員,同プロジェクトの一つである「ブルーエコノミーのための循環型養殖と水質改善に向けた教育」に選定されています。これも,多くの皆様のご支援の賜であると感謝しております。この場をお借りいたしまして感謝申し上げる次第です。

コロナ禍ではあり,残念ながらリモート開催となりますが,水圏環境教育の理念に基づき,対等で対話して学び合う有意義な時間となりますことを心から願っております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

「地理総合」での展開が期待される水圏環境教育

 

文部科学省初等中等教育局

教科書調査官 髙橋洋子

yoko-o-t@mext.go.jp

2018(平成30)年に全面改定が行われた高等学校の学習指導要領では、地理歴史科に必履修科目「地理総合」が新たに設置された。持続可能な社会づくりを目指し、環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する科目である。そのなかで「C 持続可能な地域づくりと私たち」の中項目「生活圏の調査と地域の展望」は、地理的諸課題を見出して生徒自ら主題設定し、具体的な追究の問いを立てながら課題解決を構想する探究学習の単元である。水圏環境から地域の課題を見出した探究学習に取組むことが期待される。さらに指導要領の要点を踏まえると、たとえば「B 国際理解と国際協力」においても、世界の人々の特色ある生活文化を扱う中で、水圏環境に特色ある生活や文化の事例を扱い、課題追究の視点を取り入れた探究的な学習展開として、現代世界の水圏環境の課題と取り組む学習活動が考えられる。

 

 

福井県立若狭高等学校における国際連携の取組について 

International Microplastic Youth Conferenceの取組を通して

 

福井県立若狭高等学校

教諭 高橋 慧

s.takahashi.mo@gmail.com

 若狭高校では、多様な物的・人的地域資源を有効活用し、地域の抱える課題や家庭や学校生活など身近な課題をテーマに地域資源活用型探究学習の実践を通して、地域・国際社会の発展に貢献し、地域と世界を結ぶことができる科学技術人材の育成に取り組んでいる。そのために研究機関や地元の行政・企業と連携し、International Microplastic Youth Conference等の取組で海外連携校とも共同課題研究・成果発表会を行っている。今回3回目となるInternational Microplastic Youth Conferenceは2018年に台湾で行われた環太平洋海洋教育者会議(IPMEN)で手配していただいたプレ大会から始まった。このような文化の異なる他者との交流により、生徒は地域・国際社会の発展に貢献しようとする使命感や国際性を育んでいる。本発表ではInternational Microplastic Youth Conferenceや台湾との連携を題材に、若狭高校の国際連携の在り方、成果と課題について発表する。

 

 

総合的な学習の時間「ごみゼロプロジェクト」から考える地域探究

 

港区立港南小学校

教諭 小島 雄貴

koji.bozu@gmail.com

小学校の総合的な学習の時間は、身の回りから課題を見付けて、主体的に探究し、よりよく課題を解決する資質・能力を育むことを目的としている教科です。
答えのない複雑多様な現代において、地域に目を向け、課題を見出し、地域人材との交流を通して探究的に学び、自分達にできることを考える資質・能力は必要不可欠です。
本校は、都心部に位置し、運河に囲まれ、目の前が東京湾という立地にあります。その地理的環境を生かすとともに、隣接する東京海洋大学や魅力的な地域人材と交流することを大切にしてきました。また、体験や交流を通して、身近な環境に起きている問題を知り、自分達の課題として捉え、協働的に話し合い、地域清掃活動や運河水質改善作戦に取り組んできました。地域の一員として、児童が身近な環境保全のため取り組んできた活動記録を報告させていただきます。

 

 

近くて遠い”港区港南”と海~「こども・オトナ・大学」が地域でつながり地元愛を育む~

井上寛美

hiromin@tsunagumi.com 

「港区港南」は、駅周辺はビルが多く、住宅エリアには多くの大型マンションがあり、10年で人口2倍以上、1300人超のマンモス小学校があり、多くの子どもたちがいます。 7年前から住民と企業の有志にて、新住民の多いこの街で、子供たちに「地域とのつながり」を提供する「品川ハロウィン」を開催しています。 昨年、地元小学校の子どもたちへの1通の手紙を送りました。 『ハロウィンのお菓子を食べると「プラスチックの袋」は「ごみ」になりま す。そんな「ごみ」が落ちていないか。「ゴミ拾い」をして欲しいのです。』 この活動をきっかけに、海洋大学 佐々木先生との出会いがあり、港区の”実は”身近にある「水辺」の学習や体験の機会を増やしたいと考え「港南海街コミュニティスクール」を立ち上げています。 子どもたちの主体的な活動を促進し、地域全体に「つながり」と「環境意識」を高め、地域の未来を描きます。

 

 

 

2021年度の活動について

専門高校取材チーム 坂本 優

yusakamoto0824@icloud.com

2021年度もまた各地の水産高等学校は新型コロナウイルス影響下での実習を余儀なくされましたが、必要な感染対策が見えてきたこと、ワクチンも普及しはじめたことから教育活動を再開する動きが見られました。実習船による遠洋航海の再開の動きも見られ、実習船の代表的な寄港地である三崎港にも各県の実習船がマグロの水揚げのために寄港するようになりました。本発表は2021年度における実習船の動きについて、私が追うことのできた範囲でご紹介するものです。

 

 

 

多様な主体が協働する海の中の森づくり

 

黒潮実感センター

センター長 神田 優

kanda@kuroshio.asia

 高知県南西端に位置する大月町柏島は、足摺宇和海国立公園内に位置し、古くから漁業の島として栄えた。1990年代に造礁サンゴが発達した島の周りに、日本一の1000種を超える魚類の生息が明らかになり、全国各地から大勢のダイバーが訪れるようになった。2000年頃、漁業者とダイバーとの間に海の利用をめぐる問題が発生した。その頃地元で高値で取引されるアオリイカの漁獲が減少、その原因がダイバーにあると漁民からの苦情が噴出し、ダイバー排除の動きまで出た。そんな中演者は島の周囲で海藻が減少する「磯焼け」が深刻化してきており、アオリイカの減少は産卵床としての藻場の減少が要因ではないかと考え、漁業者とダイビング業者に声かけし、両者が協働してアオリイカの人工産卵床を設置し、イカを増やす取り組みを始めた。その後、この活動を地元小学生の環境教育のプログラムにし、さらに森林組合、行政を巻き込み、流域圏全体で海の中の森づくりを行っている。

 

 

Go Green Groupの活動報告

Go Green Group社長 山下崇

gogreen.8192@gmail.com

使用済み使い捨てカイロをリサイクルして、水圏環境改善の取り組みを行なっているGo Green Groupの活動内容について報告致します。カイロ回収→加工→水圏環境改善の取り組みをまとめました。

 

 

農業用肥料が抱える課題から考える水圏環境教育の可能性

BUIKシステム(株)専務 近藤洋平

y.kondo@buiksystem.jp

水圏環境教育は海洋と森林、森林と人里、人里と海洋といった“つながり”を人々に認識してもらう海洋リテラシー教育が鍵となる。この“つながり”を人々に認識してもらう重要性は、弊社が事業を展開している農業分野が抱えている課題の解決においても同様である。すなわち、なぜいま世界的に化学肥料の使用が抑制されようとしているのかということの背景に、化学肥料の使用が田畑だけでなく、地下水や海洋の汚染につながり、酸性雨や温暖化の原因となり、人類に多大な悪影響をもたらすという事実がある。本発表では、水戸と新宿を拠点とする2つのサッカークラブと計画している選手・サポーター・地域農家による農業体験活動を通して、水圏環境教育に農業からアプローチするという新しい切り口を提案する。

 

 

水圏環境教育学研究室における水圏環境教育実践と関係価値

東京海洋大学 産学・地域連携推進機構

博士研究員 水谷 史門

smizut0@kaiyodai.ac.jp 

現在、海洋環境は大きな危機を迎えており、2020年、国連は2021年から2030年までを「持続可能な開発のための海洋科学の10年」と定め,研究者のみならず、一般市民,民間企業,政府機関などのマルチステークホルダーが一丸となって取り組んでいく方針を決定した。東京海洋大学ならびに当研究会は,これまで関係団体と連携し,地域の内発的活動を支援する水圏環境教育実践並びに研究活動を実施してきた。これまでの取り組みは,国連海洋科学の10年の正式なプロジェクトとして認定,採択された。本実践は、関係価値を向上させる可能性があることが明らかになった。本発表では、これまでの水圏環境教育実践を紹介し、実践を通した関係価値醸成の可能性を示す。