Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

来年度よりユネスコ海洋リテラシー教育がスタート!

2020-07-14 | 森川海に生きる人びと

キャンパスは野生生物の観察場所

このコロナ禍で,世界が様変わりしている。入校禁止から3か月近く経った大学の様子もすっかり変わり果てた。美しい新緑は変わりない。早朝,定期的に手入れをしていただいている庭師の方に挨拶をしながら,空を見上げると大学の看板にカラスが小さい3羽とまっていた。学生が不在をよそに,6月17日にカラスの子供が巣立った。まだ,うまく飛べないぎこちない様子である。誰一人いないグランドには幼いカラスが飛ぶ練習をしている。追いかければ捕まえられそうな幼さがかわいい。それを親鳥はじっと私を観ている【写真①】。

一方,盛岡市上田にある自宅近くの大学構内にはニホンカモシカが現れた。大槌町の家内の実家の庭に15年前ニホンジカの子供が迷い込んだ話を家内として直後だったので驚いた。こちらも大学生は入校禁止の措置が取られている。あまり見慣れない人間に囲まれ「あー,まずにことになったなあー」という焦った顔立ちが印象的だ【写真②】。

ユネスコ海洋リテラシーサミット開催!!

さて,2020年6月8日,世界の歴史始まって以来の記念すべき出来事があった。それはユネスコ海洋リテラシーサミットが開催されたことだ。その時の感動の様子を私の日記から探ってみる。【写真③】。

「今日はユネスコ海洋リテラシーサミットだった。コロナ禍によってバーチャルサミットとなったが,これは世界の海洋教育の歴史に残る記念すべきサミットである。アメリカ合衆国から始まった17年間の海洋リテラシーの歴史の中でこのサミットをきっかけに全世界と地域の活動がつながる第一歩となった。これは画期的なことだ。まず一つは,私が2006年から取り組んできた海洋リテラシーの重要性が証明されたこと。二つ目は,この海洋リテラシーによって,様々な地域や国々の文化や歴史を海洋リテラシーとつなげることができること【写真④】。

そして,三つめは様々な事象をつなげるだけではなく,全世界の人たちがつながるプラットフォームがユネスコを通して全世界に提供されたということ。これらの三つは非常に重要なことを意味している。この 海洋リテラシーの構築は,インターネットを駆使して構築されたと2006年に聞いていたが,今回もインターネットの普及によってなしえた快挙である。そして2020年,オンラインによってさらにその価値が深まった。またこの奇しくもコロナウイルスという人間にとっての強敵がもたらしたもの。コロナ禍は,わたしたち人間に何かを教えてくれているような気がしてならない。それは多くの人達が,インターネットを介した海洋リテラシーによって世界中がつながったということは,海洋リテラシーの誕生には,何らかの深い意味が,自然からの何か伝言としてつたえられているのではないか,そう思うのである。」

 

宮古の漁業者の取り組みがユネスコで紹介される

また,世界中の海洋教育実践家1000名以上が集まったサミットでは,日本の活動の紹介として,宮古湾のカキ養殖に営む漁業者の自然循環型漁業が紹介された。紹介したのは,IPMEN 2020の大会実行委員長を務めるシルビア・スポルディングさん。彼女はハワイ太平洋漁業委員会のコーディネーターを務める。日系二世だ。大変優秀でアメリカ海洋教育学会からも一目を置かれている。彼女とは,2006年にIPMENがスタートして以来の旧知の仲である。第1回目のIPMENがハワイで開催された際の実行委員長でもあった。太平洋諸国の伝統的生態的知識の重要性について共通認識を持っており,私の提案を詳しく知りたいとのことで,「森川海のつながりを大事にしている漁業者が日本にいる」と発表原稿に盛り込んでくれたのだ。【写真⑤】

地球規模の危機を乗り越えるための教育政策の必要性

今や,10億人の動物性たんぱく源を支える水産物,水産業に従事する7億人の経済活動が,近年の気候変動,海洋汚染,乱獲等によって脅かされている。このような状況を解決するためには,世界中の人々が海洋と人類との関わり合いの理解を深め,共に行動することが求められる。2017年,国連はSDGs達成に向け「国連海洋科学の10年」を2021年にスタートさせ海洋リテラシー教育を全世界で行うことを決めた。【写真⑥】いよいよ,来年から海洋リテラシー教育が国連主導で行われるのだ。それだけ海洋の問題は深刻な状況である。代替え措置をすれば済むような問題ではない。海洋は一つしかないのだ。世界の人々が一丸となって取り組まないととんでもないことが起きる。これは2006年からずっと訴え続けていることであるが,ピンとこない人々が多い。それもそのはず。海洋教育の公共政策が,十分ではないからだ。

「政策」とは「問題解決のための基本方針と,その方針に沿って採用される解決手段の体系」。公共政策とは,「社会の公的な問題に関して策定され,社会に対して広く適用される政策で,不特定多数ないしは多くの人々(組織・集団)が直接,間接の影響を受けるような政策,政府(国と地方自治体の双方を含む)が策定し実施する「政府政策」がその代表例だ(真山 1999)。

 

 

東アジアの国々の教育政策

中国では,次の3つの課題を掲げ海洋強国を目指している。1つは,海洋権益の確保である。2つ目は,海洋産業の維持発展のための人材育成である。3つ目は,海洋環境問題の改善である。経済発展に伴い,沿岸域では富栄養化の問題が多発し水質悪化が著しく,海洋環境の改善は急務である。こうした中で,青島市では中国海洋大学が中心となり市内の全小学校,中学校,高等学校で海洋教育が行われ,また中国100箇所に海洋教育センターが設置されるなど海洋教育に力を注いでいる(馬 2019)。今後も,中国における海洋教育は重要性を高めていくものと考えられる(全人大 2020)。【写真⑦】

次に,韓国。2017年4月に国家レベルの体系的な海洋教育を実施するため,5カ年計画の海洋教育ロードマップを発表し,「未来資源の宝庫であり,次世代の食料である海洋に対する教育は先進海洋強国へ跳躍するための必須要件である」という考えから,体系的な海洋教育を実施するための法整備をはじめ,国家海洋教育センターなどの専門機関の設立に力を注いでおり,国家プロジェクトとしての海洋教育が全国で行われている。韓国シーグラントは,全国に韓国シーグラント大学ネットワークを有し,自治体と連携を図りながら海洋研究,アウトリーチ,教育活動に力を注いでいる(田中 2020)。【写真⑧】

最後に台湾。2008年に小中学校海洋教育課程綱要が発効され,教育カリキュラムに海洋教育が導入され,すべての小中学生は海洋教育を実施することとなった。さらに,20の行政区に海洋資源教育センターを設置し,全小中高生の海洋教育の推進を後押しするとともに,台湾海洋大学と台湾海洋科技博物館が主宰し,全国の海洋教育の教師トレーニングを実施するなど統括した教育管理体制を整えている(韓・佐々木 2011,田中 2020)。近年の国際調査で高校生の海洋リテラシー調査で上位に位置している。【写真⑨】

では,最後に日本。日本での海洋教育の公共政策としては,次の通り,平成10年小学校学習指導要領における「海」の記載はゼロ。平成20年で1か所。平成29年で3か所に増えた。海洋基本法第28条には国民の海洋理解促進が謳われているものの,十分といえるのだろうか。一つ言えることは,東アジアにおいて,海洋教育の公共政策において,後塵を拝しているという事実だ。

しかし,東アジア3ヶ国はどちらかというと外発的な取り組みに近いのに対し,日本の場合きめ細かい海洋教育が全国各地で自発的に行われていること。その活動内容は世界屈指と言っても言い過ぎでは無い。

だが,自発的な取り組みだけでおさまって良いのだろうか。南アフリカのTWO OCEANS 水族館の教育部長であるラッセル・スティーブンス氏とサミット後今後の協力について話し合ったが,南アフリカでは海洋リテラシー教育はおろか,一般教育におけるリテラシーもままならない状態という。おそらく,海洋リテラシー教育どころでない国々が世界中あちこちにあるのだろう。世界が危機的な状況にある中で,海洋国である日本政府として,国際的なネットワークの下で海洋リテラシー教育を先導していく重要な役割が求められているのではないか。その意味で,ユネスコ海洋リテラシー教育の先行事例として紹介され,国際交流の拠点ともなっている「閉伊川サクラマスMANABIプロジェクト」の動向は,今後のユネスコ海洋リテラシー教育の方向性を占う重要な羅針盤となるだろう。【写真⑩】



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