遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

額田女王(ぬかたのおおきみ)

2011-12-02 18:54:06 | 読書
読書カテゴリーでのエントリーは1年半ぶりです。これまで本を読んでなかったわけではないんですが、ブログに書くほどの本ではなかったんで・・・。
井上靖の歴史物です。ジャスコの本屋さんが古本をワゴンで売ってて、その中から選びました。僕はあまりこだわりなく中古のものをよく買います。この作家の作品は以前にチンギス・ハーンを描いた「蒼き狼」を読んだことがありますが、この額田女王も同様、彼の歴史物は淡々と人間の人生を追っている印象があります。読み手としては、もっと波瀾万丈でドラマチックな表現を期待するのですが、偉人の人生とはいえ人間の一生というのは、このように淡々としたものなのかもしれません。タイトルが額田女王となっていますが、主人公はむしろ中大兄皇子(天智天皇)と大海人皇子(天武天皇)といっていいでしょう。額田女王はこの兄弟の間で運命をもてあそばれるというか、もてあそぶというか・・・・まあ、男と女のことですから・・・・。
この物語は、中大兄皇子と中臣鎌足による大化の改新の後からスタートします。歴史的にはものすごく美味しいとこをすっ飛ばしてますな。しかし、難波宮遷都、遣唐使の派遣、白村江での敗戦、そして、近江宮ヘの遷都、壬申の乱と、当時の内政外交における重要イベントは目白押しです。特に朝鮮半島との関係は互いに使者を送り、深い関係があったことが印象的でした。分裂して争う半島の国々とその背後にいる大国唐との覇権争いに巻き込まれ、唐と新羅の連合軍により滅亡する百済と共に白村江で大敗戦を喫するうえに、唐・新羅は強力で高句麗まで滅ぼしちゃう。幸い海を隔ててるので日本本国を侵略されることは免れますが、免れるのは結果論でして、中大兄皇子を中心とする政権は白村江で多くの兵を失ったにもかかわらず、筑紫や対馬に防人を置いたり、城を築いたりして必死で守りを固めます。中国が怖くて怖くてしょうがなかったんですな。
額田女王がヒロインとして魅力を発揮しだすのは、近江宮遷都以降だと思う。僕としては。特に「茜さす紫野ゆきしめ野ゆき・・・」の歌が詠まれたあたりからですな。中大兄皇子が即位して天智天皇となり、額田女王はわりと自由になるわけです。それから大海人皇子との娘、十市皇女(とおちのひめみこ)の嫁入り先を母親として心配したり、結果として娘の望まぬ相手中大兄皇子の息子大友皇子に嫁がせてからの葛藤とか・・・・面白くなるんだけど、物語の本筋になり得てないのがちと残念。

本日のお酒:白菊 純米吟醸
コメント (4)
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