レナート・ダルベッコ氏(ノーベル生理学・医学賞受賞者)が死去(読売新聞) - goo ニュース
腫瘍ウィルスの発見者ダルベッコ博士が亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。
腫瘍ウィルスはそのウィルスゲノムにコードされている逆転写酵素によってRNAゲノムをDNAへ逆転写し、我々の染色体中に入り込みます。そのウィルスの持つ遺伝子の中に宿主細胞を癌化させるものがあり、それを証明しました。弟子のティミン博士とバルチモア博士とのこの仕事は現代癌研究の基礎となりました。
彼の業績や人となりはWikipediaでもいいですけど、NY Timesの記事がなかなか読み応えがあると思います。第二次世界大戦中、イタリア陸軍に徴用されロシア戦線にいた頃に奴隷のように働かされ仕事が終われば殺されていくユダヤ人達の姿を見て、軍を離れレジスタンスに参加しパルチザンの傷病者を助ける活動を終戦までしていたエピソードが紹介されていました。16歳で高校を卒業した英才の人生を変え、医学分野へ進ませたのが戦争でした。
戦後、トリノ大を出て米国インディアナ大学ブルーミング校でバクテリオファージの研究に取り組みますが、そこで実験室をシェアしてたのが、後のノーベル賞学者ジェームズ・ワトソン博士。そもそも彼をインディアナ大に引っ張ったトリノ大時代の師匠ルリア博士もノーベル賞をとっています。また、ダルベッコ博士がSalk研究所時代に指導した日本人利根川進博士も後のノーベル賞学者・・・まあ、そういう人の周りにはそういう才能が自然と集まるのでしょう。
ところで、「ダルベッコ」って培養細胞用の培地の名前ですよね。もちろん、この博士の名前からきています。ちなみに、大腸菌の培地LBの「L」は彼の師匠ルリアの頭文字からきているはずです(Luria-Bertani培地と先輩から習った)。彼の系譜に連なる先人達の仕事によって、我々の飼う細胞はすくすく育ち、我々自身も今飯喰えてるんだなぁって、彼の業績を調べながら思いました。
国立がん研究センターなど、新しい肺がん治療標的遺伝子を発見(マイナビニュース) - goo ニュース
さて、現代ゲノム科学が見つけた新しい癌遺伝子のお話。高速シークエンサを用いて肺腺がん30症例の全RNA解読を行ない新しい遺伝子融合を同定したというから、人間業ではありません。w もちろん、見つけたのはコンピューターくんですよ。「サイエンス・ゼネコン」のお仕事ですな。
もちろん見つけてからの方が本当の科学者の勝負でして、見つけた異常融合遺伝子KIF5B-RETがNIH3T3マウス線維芽細胞を形質転換し、その形質転換細胞の増殖をRETチロシンキナーゼ活性の阻害効果を持つ米国FDA承認薬「vandetanib(ZD6474)」で抑制できることを示したのでーす。細胞が癌化して行く過程で、染色体が異常に不安定化してあっちこっちで組み換えや大きな欠失や重複、染色体間融合等、シッチャカメッチャカになります。それらの過程で本来あるはずのない遺伝子融合が起こります。そのひとつKIF5B-RETは細胞を癌へどーんとドライブさせてくれるわけですな。
日本人の肺癌の1~2%で見つかっている遺伝子融合ですが、こういう癌の原因になる遺伝子変異を見つけていくことが癌治療に重要になっていきます。肺には大きな血管がたくさん走っていて簡単に切れない臓器なので、イレッサのような抗がん剤に頼ることになります。癌の原因遺伝子を知ることが出来れば、より効果的に抗がん剤を選択する判断材料になるはずです。
本日のお酒:立山 本醸造 + SARTORI CABERNET DELLE VENEZIE 2010
腫瘍ウィルスの発見者ダルベッコ博士が亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。
腫瘍ウィルスはそのウィルスゲノムにコードされている逆転写酵素によってRNAゲノムをDNAへ逆転写し、我々の染色体中に入り込みます。そのウィルスの持つ遺伝子の中に宿主細胞を癌化させるものがあり、それを証明しました。弟子のティミン博士とバルチモア博士とのこの仕事は現代癌研究の基礎となりました。
彼の業績や人となりはWikipediaでもいいですけど、NY Timesの記事がなかなか読み応えがあると思います。第二次世界大戦中、イタリア陸軍に徴用されロシア戦線にいた頃に奴隷のように働かされ仕事が終われば殺されていくユダヤ人達の姿を見て、軍を離れレジスタンスに参加しパルチザンの傷病者を助ける活動を終戦までしていたエピソードが紹介されていました。16歳で高校を卒業した英才の人生を変え、医学分野へ進ませたのが戦争でした。
戦後、トリノ大を出て米国インディアナ大学ブルーミング校でバクテリオファージの研究に取り組みますが、そこで実験室をシェアしてたのが、後のノーベル賞学者ジェームズ・ワトソン博士。そもそも彼をインディアナ大に引っ張ったトリノ大時代の師匠ルリア博士もノーベル賞をとっています。また、ダルベッコ博士がSalk研究所時代に指導した日本人利根川進博士も後のノーベル賞学者・・・まあ、そういう人の周りにはそういう才能が自然と集まるのでしょう。
ところで、「ダルベッコ」って培養細胞用の培地の名前ですよね。もちろん、この博士の名前からきています。ちなみに、大腸菌の培地LBの「L」は彼の師匠ルリアの頭文字からきているはずです(Luria-Bertani培地と先輩から習った)。彼の系譜に連なる先人達の仕事によって、我々の飼う細胞はすくすく育ち、我々自身も今飯喰えてるんだなぁって、彼の業績を調べながら思いました。
国立がん研究センターなど、新しい肺がん治療標的遺伝子を発見(マイナビニュース) - goo ニュース
さて、現代ゲノム科学が見つけた新しい癌遺伝子のお話。高速シークエンサを用いて肺腺がん30症例の全RNA解読を行ない新しい遺伝子融合を同定したというから、人間業ではありません。w もちろん、見つけたのはコンピューターくんですよ。「サイエンス・ゼネコン」のお仕事ですな。
もちろん見つけてからの方が本当の科学者の勝負でして、見つけた異常融合遺伝子KIF5B-RETがNIH3T3マウス線維芽細胞を形質転換し、その形質転換細胞の増殖をRETチロシンキナーゼ活性の阻害効果を持つ米国FDA承認薬「vandetanib(ZD6474)」で抑制できることを示したのでーす。細胞が癌化して行く過程で、染色体が異常に不安定化してあっちこっちで組み換えや大きな欠失や重複、染色体間融合等、シッチャカメッチャカになります。それらの過程で本来あるはずのない遺伝子融合が起こります。そのひとつKIF5B-RETは細胞を癌へどーんとドライブさせてくれるわけですな。
日本人の肺癌の1~2%で見つかっている遺伝子融合ですが、こういう癌の原因になる遺伝子変異を見つけていくことが癌治療に重要になっていきます。肺には大きな血管がたくさん走っていて簡単に切れない臓器なので、イレッサのような抗がん剤に頼ることになります。癌の原因遺伝子を知ることが出来れば、より効果的に抗がん剤を選択する判断材料になるはずです。
本日のお酒:立山 本醸造 + SARTORI CABERNET DELLE VENEZIE 2010
わたしは今一般外科をやっています。