Hello、皆さんーー故あっていま、僕、リチャードさんの小説「魔界」を読み返しています。
何年かまえにこれ読んだときには、正直、僕はこの小説世界に衝撃を受けたものです。
いま読み返してみても、これは、なかなかよくできた作品に仕上がってると思う。
リチャードさんの創作作品としては、まあ断トツでしょう。
「推理モノ」としてのアングルから見たのみでは、そりゃあプロの歴々作家のレベルより劣った点はいくつもある。
しかし、素人作家RKの筆の生んだこの小説「魔界」には、それを補って余りあるものがある。
そう、この小説は「推理モノ」じゃあないんだなーーどちらかといえば「純文學」に近い地点から書かれたものだ、と感じられてなりません。
見かけと体裁はなるほど「クライムストーリー」や「倒叙推理モノ」の形式ですーーしかし、肝心要の目的がちがう。
この小説は、ぶっきらぼうな、ある意味投げやりなくらい感情移入を拒否したハードボイルドな文体で綴られ、
入念に組み立てられてはいますが、その実「客観性」のかけらもない…。
あらやる叙述、細かい表現の裏から、リチャードコシミズという男の素地が煮立ったようにごぼごぼと吹きこぼれてきてるさまは、
ほとんど暴力的であるといっちゃってもいい。
これほど主観のみで綴られた小説ってちょっとない、と僕は思います。
この作品、見事なまでに一元論ですよ。
西洋的思考の根本たる二元論のしもべたる弁証法の入りうる隙間はどこにもない。
何に似てるかというと、構造的にはいわゆる「オバケ屋敷」にいちばん似てる。
気を使って精緻に叙述された最初の部分の舞台設定の現実性は、このカオス状の内面世界に読者を導くための戦略であり、
伏線であり、また、一種の撒き餌でもあります。
どこからどこまでが現実で、どこから幻想世界に入っていっているのかが、何遍読んでも分からない。
たぶん、作者自身もよく分かってないんじゃないのかな?
そういった意味で、これはとても怖い小説です。
狂気と正気とのはっきりした国境線がいくら探っても見つからないって意味で。
僕は、この小説、有名な発狂小説よりよっぽど狂ってるって受けとめてるんだけどね。
発狂小説というと、バロウズだとかホセ・ドノソの「夜のみだらな鳥」だとか「ドグラマグラ」なんかの存在ががつい思いうかんでもできますが、
彼等の「発狂」が小説のために練られた必然、もしくは計画的な発狂であるのに対し、
リチャードさんのそれは、練られていない、もっと作者の内面深くに根ざした、自然発生的な発狂です。
うん、僕はね、この小説、リチャードコシミズって男の告白文学として再読させてもらったの。
あえて太宰的な比喩を使わせてもらうなら、うん、僕はこれ、リチャード版の「人間失格」じゃないのかな、と皆に強く訴えいたいんですよ。
既読の読者には煩わしい説明かと思いますが、未読の方のため「魔界」の簡単なあらすじをここで紹介しておきましょう。
(あらすじ)とある杉並の機械メーカーの社長・加東は、中途採用した年下の愛人・桧垣登志子の経理不正を黙認していた。
しかし、やがて社内の技術部の係長・高椙がこの不正に気づく。経理不正のストレスで疲れ果てていた桧垣登志子は、ストレス発散のため、会社近辺にあったオヲムのヨガ道場に通いはじめる。ある週末、この道場で「リラックスドリンク」なるものを飲まされた登志子は、自分が主導していた経理不正が現在ある社員から追及されていることをつい喋ってしまう。すると数日後、この阿佐ヶ谷のオヲム道場より一本の電話が入る。
「あ。桧垣さん、例の高椙さん、当方で始末しておきましたから…」
これを機に、加東の会社はオヲムの企業舎弟傘下に組みこまれ、多大な上納金の義務を負わされることになる。
このノルマをこなすためには定期的な保険金殺人が是非にも必要だ。加東らはオヲムから教授されたマニュアル通りに、この保険金殺人事業を次々と展開していく。最初は発覚を恐れて生きた心地もしなかったが、莫大な保険金が次々と下りてくるのを経験してしまうと欲のほうが勝つ。なに、大丈夫だ、誰にもばれてないじゃないか。
そんなとき、加東の会社の海外営業を担当するKなる社員が、経理の不正に気づき、加東らを追及しはじめた……。
で、ここまでお読みになった方はすでにお気づきでしょうが、
これさあ、いまRKブログで連載中の超・短編小説「猫角家の人々」にすべてクリソツではないですかーー!?
細かい舞台設定と登場人物こそ違えてありますが、
小説としての形式も、登場人物がすべからく清張ばりの小悪党である点も、
ストーリーの展開に乗じて作者の世界観がするすると侵入してくるあたりの呼吸も、
うん、「魔界」と「猫角家」は一卵性双生児のごとくよく似てる。
ただ、作品のレベルとしては、この過去作品である「魔界」のほうが、やっつけ仕事の「猫角家」よりはるかに上ですね。
「魔界」は、傑作とはいわないまでも、少なくとも佳作の線までは届いてます。
通常の「クライムストーリー」のラインは踏みこえちゃった作品なんですが、娯楽作品として失敗しているとしても、
その領域をこえた、<ふしぎで邪悪な個性派文學作品>として、この「魔界」は成功している、と僕は思います。
そうして、ここからモデル問題への新たな考察がはじまるわけですよ。
リチャードコシミズの謎というか核というか、そういう素性が、僕はこの小説から読み取れると考えているの。
つまりタイプ的にいうと、リチャードさんは、他人への憎しみ、恐怖なんが創作エネルギーの核になってる作家さんなわけ。
いいですか、「魔界」と「猫角家」の共通項をゆっくり指折っていきましょう。
するとーーー
1.まず第一に「色情(いわゆるエロ)」があり、
2.それに続いて「空想の過剰な飛翔ーー妄想の駆け巡り」があり、
3.それらがすべて作品世界内の「保険金殺人」として結晶化していく……。
このリチャードコシミズの定理(笑)は、あらゆるRKシチエーションで使用可能です。
たとえば「工作員認定」の式に、この定理を当てはめてみましょうか。
1.ついこないだまで愛人だったりりぃさんが恋しい。そして、同時に憎らしい。
ちくしょう、あんなま〇なんてヤクザとくっつきやがって…。
ここでリチャードロケットの凝縮された憎悪エネルギーが、まず点火されるわけ。
リチャードコシミズ方式でいうなら、この場合、事実とか現実面との検証作業はあまり重要ではありません。
大事なのは常に「情欲(エロ)」であり「嫉妬」エネルギーの爆発力のほうーー。
2.そう、リチャードコシミズの辞書に「帰納」という文字はないんです。
常に、演繹、演繹(笑)ーーいちいち裏取ったりするのは、彼にとって面倒事なのよ。
どうせあいつらシャブでも喰らって今日もいちゃいちゃやってるんだろう。
しかし、待てよ、シャブってことは裏に組織がいるに決まってる。
それは、いったいどんな組織なんだ?
こうして、リチャードコシミズの想像力は、ぬかるんだ沼の湿った空気のように飛翔(僕は下降だと思うがw)していきます。
3.で、それらの根拠なき憎悪と嫉妬と恐怖の感情が、やがてひとつの新しい現実の相を作りだしていくという構造でしょうかーー。
その代表的な相が、僕は「工作員」であり、「保険金殺人」という形式であったと思います。
ひとことでいっちゃうと、これ、リチャードさん個人の幻覚のようなものでしかないんだけど、
独立党って場においてだけ、この「幻覚」が「現実」にさま変わりするわけよ。
つまりはプロレスだよねえーーリチャードさんは正義の国定忠治芝居で思いきり見栄を切り、
独立党員はそれを賛美し、リチャード理論(なんだそれ?)を理解しうる己が優越に酔うっていうの?
しかし、「オレはいつ死んでもいいんだ!!」といった見栄切りばかりやってるリチャードさんもリチャードさんだけど、
それに喝采を送るばかりの党員も党員ですよねえ…。
そういった意味で、リチャードコシミズと独立党とは、共依存の関係であるといえるかも。
うん、「工作員」&「保険金殺人」っていうあれはねーーー
リチャードさんってキャラが全人生を掛けて編み出した、彼のアリバイというか唯一の落としどころなの。
それが、自分の立ち位置を正当化してくれる、彼の唯一のからくり装置なの。
生きるためには、うん、リチャードさんには「工作員」が必要なんですよ。
陰がないと自己確認ができない彼は、そうやって長いことリチャードコシミズって虚像を紡いできた。
炎上商法のために必要という側面もあるんだろうけど、僕はそれ以上に、もっと実存的な意味合いで、
リチャードさんが「工作員」という観念に自らすがって、あるいは依存して、
それでなんとか今日まで生き延びてこられたようにどうしても見えてしまう……。
ひとことでいって、ものすごく不安定な、病人すれすれのおひとじゃないかって思いますねえ。
通常人として存在していける存在系数みたいなものがあるとしたら、彼は今でもそれのギリギリ・ボーダーライン線上のひとでしょう。
彼の講演におけるあの白熱弁舌も、いってるそばから聴衆を説得してしまうジャニス張りのあの爆裂パワーも、
僕は、アレ、リチャードさんなりのレジスタンスなんだって、いつも感じてました。
「ああ、必死だなあ。痛々しいなあ」と、その説得力に圧倒されつつ、それと裏返しの憐憫の情をいつも感じていた僕の心情機能は、
あながちまちがっていなかったようにも思います……。
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ただし、それと現実世界でのけじめは別モノですからーー。
使用不明金の用途と個人情報晒しの罰と工作員認定で不名誉をなすりつけたけじめは、しっかり取っていただくつもりなのは、改めていうまでもありません。
今回の記事はいささか形而上学的な面に偏っちゃいましたが、ま、たまにはこーゆーのもあっていいんじゃね?
次号、次々号は、ハードなくらい「現実的」なものになる予定ですから。
今日はもう僕たまったDVD観ながら寝ちゃうことにしますねえーーそれでは皆さん、お休みなさい…。(-o-yzzz…。