室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

ミス・ニューオリンズ

2006-08-03 22:33:54 | Weblog
 映画”ニューオリンズ”をDVDで見た。
1947年製作の白黒の映画で、まだジャズが世間に浸透していない時代の1917年が舞台になっている。ルイ・アームストロング自身がサッチモ役で出てくるし、キッド・オリー(トロンボーン)バーニー・ビガード(クラリネット)ウッディ・ハーマン(クラリネット)等、私でも名前を知っているプレイヤーも登場する。しかし、何と云ってもビリー・ホリデーの歌う”ミス・ニューオリンズ”がこの映画のテーマになっている。
 この"miss New Orleans"は私の周辺のプレイヤー達もよく演奏しているので、曲は知っていた。「ミス・ニューオリンズてどういう事か知ってる?」という意味かと思っていたら、全くの間違いで、正しいタイトル "Do You Know What It Means To Miss New Orleans?" は「どうしてニューオリンズを懐かしく思うかわかる?」という意味だったのだ
 しかし物語の主役はジャズ・プレイヤーではない。サッチモ達が演奏している店は賭博などの遊興場で、そこの経営者と、富豪のオペラ歌手のラブストーリーだ。でもこのオペラ歌手が、ビリー・ホリデーの歌う”ミス・ニューオリンズ”に魅せられ、自分の演奏会のアンコールで歌ったりしてしまう。初めは、クラシック愛好者達から、「あんなダークサイドの音楽を歌うなんて!」と眉をひそめられ、白い目で見られるのだが、ジャズが世間に広まっていくと、やがて気取った人々の中にも、身体を揺すって”ミス・ニューオリンズ”に聴き入る人が増えてくる。最後はオペラのアリアを伴奏していたオーケストラと、ジャズのビッグバンドが大編成で共演して、ジャズがアメリカ社会に受け入れられていく様子を象徴的に表していた。
 まだ若いビリー・ホリデーが、さらっと歌っているのにコクのある雰囲気なのは、流石なのだが、オペラ歌手役のドロシー・パトリック(本人が歌っているのか分からないが)がくったくなく、幸せそうに歌う”ミス・ニューオリンズ”は、音楽そのものが持つ”不思議が力”を見せてくれている。この曲のイメージが、すっかり変わってしまった。