室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

スーパーマン

2006-05-30 13:13:27 | Weblog
”うぇるかむBob Greene”と銘打ったライブを昨日やった。
日本に着いて8日、その前の渡航時間も合わせると少なくとも10日はピアノに触っていないので、Bob のピアノを楽しみにしていて下さる方々の手前、私の方が心配した。早めに行っても良いかライブハウスに電話をしたら「5時半まで買い物などで開けられない」と云われ、付近の貸しスタジオに電話してみたが空きが無く困った。と思ったら、当の本人は「今更、少しくらいやったって大して変わりはないよ」と平然としている。5時半に現地についても「今の内に・・」なんて思わないのか悠然としている。その内にメンバーがやって来ると、再会を喜び合う挨拶をしている。業を煮やして「新しいピアノが入ったのよ」と私がピアノに近づくと寄って来た。「カワイか?アメリカではカワイの方が良い場合が多い」「ヤマハよ」やっと椅子に座ると、かる~く鼻歌風に弾き始めた。すかさずベースが入り、ブルースが始まった。ギターも急いでチューニングしてコードを追いかける。「Abe,」指名されてギターがアドリブを始める。クラリネットもやっと組み立て終わり、参加する。ゆったりと自分たちだけの愉しみの時間を3曲分過ごして、近くの蕎麦屋に行った。
 純和風を意識した中庭付きの蕎麦屋での会食をBob は喜んだ。てんぷらと豆腐ともろみ味噌を特に気に入った様子だった。他のメンバーは7時半のスタートに合わせて先に行ったが、Bob と二人だけになって、いざ靴を履く段になると、一度床に腰掛けるのに時間がかかる。「これだから歳を取るのはイヤだ。80までは何をするのも、何でもなかった。80過ぎてからだ!だから歳を取るのはイヤだ!」と怒っている。「誰でも、それは平等でしょう?貴方はとても幸福な方。貴方みたいにラッキーな方は滅多にいないでしょう?」本当にそう思ったのでそう言った。
 気を取り直して店に行った。ドアを開けるといきなり拍手で迎えられた。時間的には2曲位終わったところだった。あと2曲位3人が演奏している間に、ポケットからレパートリーが書いてある古そうなメモ書きを取り出し、曲を選んで、私があげた紙に書いた。「そろそろ~」という感じになってピアノに向かった。マニアにはたまらない3曲を次々、タイトルも言わずにどんどん始めてしまう。それに付いて行けるメンバーも大したもので、Bob に刺激され、一音も聴き逃すまいと聴き入る聞き手達の前で、普段以上に素晴らしいソロとバッキングを展開していた。中でも圧巻は2セット目にやった"Tiger Rag"だった。ジェリー・ロール・モートンがやっていたのと同じように左の肘でトラの咆哮を連発する部分を、聞き手の方はイントロが始まった時から期待しているのだが、その期待を裏切ることなく、トラは吼えまくった。そして美しいピアニッシモで弾かれた"Sweet Substitute"に観客はため息をついた。10日以上もピアノに触らないでいて、こんなに人々を魅了するなんて、ある種の”スーパーマン”だと思った。
 そのスーパーマンがあと1セットを残したところで「帰る」と言い出した。何かお気に障りましたか?店の方が一瞬慌てたが、ご本人は至極ご満悦だったのだ。後で気がついたのだが、帰り道を途中まで送って行くと言っていた私への配慮も幾分あったかもしれない。引き際を判断し、周りの人への思いやりも見せる、83歳の”スーパーマン”である。

”ナベプロ”

2006-05-28 13:13:38 | Weblog
 フジテレビの渡部プロダクションのドラマ「ザ・ヒットパレード」を見た。
「ひっぱれ~、ひっぱれ~」小学校時代、綱引きの格好をしながら歌う同級生がいたなぁ。2夜に分けての放送だったが、特に前編のクレイジー・キャッツがスターになって行くあたりまでは、「へ~、そうだったのか・・」という話ばかりで面白かった。どうして"Bei Mir Bist Du Scheun" を自分が知っていたのかも分かった。ザ・ピーナッツが歌っていたからだったのだ。"Petite Fleur" もそうだ。有名な先輩達の役を今の人がやっているのがそれなりに面白かった。演奏シーンは、当然吹き替えだが、ふかわりょう(中村八大役)がワンフレーズ音に合わせてピアノの鍵盤を弾いていたように、ドラマの製作側の”ノリ”を感じられた。エンディングの「ノン・フィクションに基づくがドラマ的脚色をした」というテロップはいかにもフジテレビらしい。
 通称”ナベプロ”はお正月の「かくし芸大会」に代表されるように、ある時期まで芸能界の大半を牛耳っていた。TV業界の発達は”ナベプロ”と共にあったと云っても過言ではないだろう。その後、業界が多様化して健全な方向に行っているのかもしれないが、全体として云える”バカ騒ぎ体質”は変わらない。所詮、TVはその程度で良いのだ。飽き足りない人が大勢いるレベルで。

3つのルール

2006-05-24 12:49:05 | Weblog
 現役最高齢(?) のジャズ・ピアニストBob Greene 氏にお会いした。
去年は持っていたステッキも無く、レーザー手術で何でもクリアに見えるようになったという明るい青い眼は、眼球そのものが老人のものではない。昔のミュージシャンとの思い出ばかりでなく、つい近年知り合った人々との出来事や、最近私がメールで伝えた事など、なんでも良く把握して覚えている。「今回はこの小さいコンピューターを持って来た」とメーカーは分からないが、シャープのザウルスをもっと薄く軽量化したようなモバイルを嬉しそうに見せられた。無線ランのあるエリアで通信できるらしい。日本で会うべき人々の名前、電話、アドレス等が入っていてカレンダー別に予定を打ち込める。携帯とe-mailが楽にできる。気負うことなく、新しい物を愉しめる人生の達人だ。
 その達人の格言、座右の銘か、3つのルールを教わった。其の一「着いたらまずドリンク。」片づけなんかは後で良い。到着を愉しんでまずは一杯。其の二「良いパーティならそこに居ろ。」良くなかったら去ればいい。良かったならその場を愉しむべきだ。其の三「旅は自分が行くものではなく、旅の方からやって来るものだ。by スタインベック」様々な事象を受け止め、受け入れながらポジティブに人生を愉しむ”達人”らしい。

メッセージ帳

2006-05-21 12:59:38 | Weblog
 3月の卒園式で歌う歌の作曲を毎年依頼してくださる保育園から、保育士さん、給食士さん等、職員の皆さんからの歌へのメッセージ帳が、今日届いた。ひとりひとりが直径7センチ程の丸い色紙に思い思いの感想を書いて下さって貼ってある手作りのメッセージ帳だ。
 毎年創っているのを見られていて「らしい」と言われる事が多い。自分では良く分からないが、同じアプローチで創るから、どこか似た傾向になるのかな。職員全員の目で見た子供達の姿が詩に書かれているので、一語一語に子供への愛情、応援、幸せの願いなどがこめられ、思い入れの強さがある。音符を付ける側との共同作業だから、メロディへの強い期待感があるだろうと思う。その”作詞者の皆さん”から「イメージぴったり」「歌っていて気持ちがいい」「泣きそうになる」と言って頂くと、こちらこそ、励まされ、元気が湧いてくる。中に貼ってある卒園式の晴れ着を着た子供達の顔を見ると、どうか事故や災難に遭う事なく、幸せに育って欲しい、と願わずにいられない。

23種類の"HOME"

2006-05-18 13:51:17 | Weblog
 1931年のヒット曲で"HOME" という曲がある。この"HOME"1曲だけの23種類の演奏録音を1枚にまとめたCDがある。友人がカセットにダビングをしてくれた。ディーン・マーチン、ナット・キング・コール、サッチモ、ジャック・ティーガーデン、ボブ・ホープ等、1931年から1994年までの録音が年代別ではなくて、アトランダムに入っている。このCDに入りきらなかった録音が14種類もまだあるそうで、大変人気のある曲だったことがうかがえる。
 片づけなどしながら聞いていると、カセット・デッキにナンバーが出ないので、そのうちに何番かわからなくなり、誰の演奏か付いていけなくなった。それでも演奏のスタイルで「これは1930年代だろうなあ。さっきの録音は大分新しそうだから、この番号かな?」と推理して「ああ、やっぱり。当たった。」等と別の愉しみ方もあった。
 それにしても色んなスタイルの演奏があるのが面白い。フル・オーケストラ版からアコーデオン伴奏編までバラエティに富んだ編成があり、ルイ・アームストロングだけでも1932年の録音と1957年のと録音状態も演奏スタイルもかなり違う。テンポも編曲もさまざまで、さながら編曲見本集だ。スタイルの歴史を辿るのも面白い。良く見るとインデックスのコピーの一番下に非売品、ライブラリー用と書いてある。
「黄昏時になると懐かしい我が家を思い出すが夢で帰るのみ」と歌う切なさは向かないのか、モダン・ジャズは1つも含まれていない。

本場のお友達

2006-05-17 00:38:09 | Weblog
 最年長の友人が間もなく来日する。「ジャズはオレが始めたんだ」と公言したジェリー・ロール・モートンというジャズ黎明期の巨人ピアニストの研究家で、現役最高齢に属するジャズ・ピアニスト、Bob Greene氏だ。2004年の12月に、あるライブで知り合った。「本場から本物のピアニストが来ている」とその日のライブは期待感に溢れていた。本物が来ているなら私はニセジャズを弾いても仕方ないのでショパンの幻想即興曲を弾いた。それが大変気に入られてしまった。「私も弾けるなら貴女のようなピアノが弾きたかった。」と言われ、名刺交換をした。翌日、すぐに電話がかかってきて、横浜のニュー・グランド・ホテルで会った。お互いにフランス語が使える事が分かり、急速に親近感が増した。彼にとって、横浜がご家族やご親類にゆかりの地であった点も大きく作用しているかも知れない。
 せっかくの来日なのに、彼が「日本で出逢った最高のジャズ・プレイヤー」と言うギターの阿部氏のライブが滞在中に無い。それで急に5/29月曜日に、西荻窪のミントンハウスで”後藤雅広Cl.阿部寛Gt.加藤人BassうぇるかむBob Greeneライブ”をやる事になった。 急な話だからお客さん集まらないかもしれないなぁ。まあ、身内感覚でセッションを愉しんで貰おうかな・・。

春の新宿ジャズ祭り、今年も

2006-05-14 14:19:32 | Weblog
 去年始めた、このブログの第一回が”春の新宿ジャズ祭り”だった。あれから一年たったのだ。
正確には、去年は4月の終わりだったので一年と2週間くらいだが。
今年はあいにくの雨天だったが、新宿文化センターまで来てしまえば、あとはずっと館内にいられ、寒さ知らずだ。今年で第3回で、見る側もやる側も慣れてきた気がする。
去年話題にした”全員集合”が4時から大ホールであった。トロンボーン、トランペット、クラリネット、サックス、チューバ、バンジョー・・と楽器ごとに固まって舞台に現れ、整然と並んだ。だだっ広い感じの残響のあるホールなのだが、ステージ前方にマイクが数本立っていて、それに向かって真っ直ぐにトランペットを吹かれると、耳がつんざかれる。誰が一番デカイ音かを競うのは勘弁して欲しい、と思っていたら演奏者全員の行進が客席を廻り始めた。ビリビリ、バリバリ、まさに建造物を揺るがす、ヒビが入るのが目に見えるかの如き大音響。「あ~、今年もか」と思っていたら、今年もやって来ました、あの不思議な”感動”。「付き合いで参加してるんだけどさ~」と見てとれる知り合いの顔もあったのに。いったい、何なんだろう?
 耳がパンクしそうな音の津波がおしよせて来て、大洪水となった時に、”感動中枢”が刺激されるのだろうか?一種の”マヒ”なのだろうか?でも、音ならなんでも、という事はあるまい。やはり、デキシーランド・ジャズの持っている”無邪気な楽しさ”が乗せてくる”ハート”に本当に”感動”しているのかもしれない。
 それにしても、大ホールは良いとしても、小ホールの音響はもう少し改善して欲しい。あんなにPAの音量を上げてしまうと、CDを大音量で聞いているのと変わらない。せっかく目の前でやっている”生”の音が殆ど聞こえない。水準の高い演奏の価値が半減していないだろうか? 「デキシー?あの、やかましい音楽でしょう?」と眉をひそめて云われた事が何度かある。せっかく素晴らしい演奏があるのに見向きもしない人達の言い分に反論ができない。

ある一日の仕事

2006-05-10 23:16:49 | Weblog
 ある一日の仕事。
「今週中に送ります」と約束したフランス歌曲の歌詞の朗読録音を、今日はどうしてもやらなければいけない日。午前中から多少、練習をしながら録音を始めた。
 一方、もうじき来日する友人を交えてのライブの日取りを決定する為に、昨日送ったメールへの返事を待つ。返事が来た。こちらサイドのメンバーが三人とも集まれるのは6月1日だけ、と書いたのに「皆が来れる5月29日がいいだろうなあ」とズレた返事。早速、状況を把握してもらうメールを再送信。その間にもライブのタイトル付けの相談をメンバーと交わす。
 朗読録音を再開していると、オケ事務所から電話。以前に私がフルオケに編曲した歌の「歌パートの譜面ありませんか?」という問い合わせだった。歌パートに前奏・間奏・後奏ガイドを付けて譜面を作り、スキャナーで読み込んでJPEGファイルにしてメールで送った。
 再び、録音再開。一応5曲の歌詞を入れたので、聞いてみる。や、や、4曲目の歌詞の一カ所に要らない"S"がある。これだけをやり直して完成。ビニール袋に入れ、封筒に宛名書きし、セロテープを留め、出すばかりにした時、オケ事務所からインペクを頼まれているバイオリニストから電話。「やった事のない曲が2曲あって、明日のリハーサルに間に合うと思えない。今からキャンセルできないかしら?白ジャケットも、父のを借りられると思っていたらダメだった」と言う。今更、キャンセルされても困る。一応事務所に相談したが、兎に角がんばって貰う事になった。一方、事務所の予備の白ジャケットは、すでに借り手が決まっていた。周辺の友人に相談したが、サイズも平均日本人サイズは無理なので困った。困ったが、日本人離れした伊達者のバンドネオンのマエストロに相談のお電話をかけたら快く貸して下さる事になった。明日のリハ後、はるばる大雄山まで受け取りに行く。まあ、とにかくホッとした。親身に相談に乗ってくれた友人達に報告のメールを送る。
 その間に、タンゴ・バイオリンをやってみたいという友達に明日渡す譜面のコピーと、録音したMDをメール便で送る為にセブン・イレブンへ行った。約束を果たした。もう一つ、先週ドイツに送った譜面のバイオリン・パートが抜けていたとのメールがあって、今週送る約束をしていたのだが、とりあえず、スキャナーで読み込んでJPEGファイル添付メールで送った。すぐに返事が来た。
プリントできたそうだ。でも、近々オリジナルを送らなくてはならない。それにしても、どうして抜けていたのかなあ・・。
 こうして日が暮れた。「ある一日?」今日の出来事でしたぁ!

歌姫

2006-05-10 00:13:58 | Weblog
 去年のザルツブルク音楽祭の「椿姫」を教育TVで放送した。
近頃のオペラ演出に多い、新解釈による、シンプルな舞台仕立てだが、ひところ多かった”奇抜さ”ねらいではなく、とかくストーリーの展開に無理があると云われているこのオペラの愛憎ドラマの心理描写を、丁寧に、なぞっていた。それと、なんと云っても、膝丈のワンピースの似合うソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコの並はずれた魅力が凄かった。”21世紀のマリア・カラス”と云われる程の強烈に印象的な個性だ。彼女こそが"DIVA" 歌姫の名にふさわしく、どうかそこらの、ファッション・リーダーを気取らされているだけの歌手を、そう呼ばないで欲しい。まあ、ひところやたらと安っぽい”カリスマ”が流行ったりもしたけれど・・。
 近頃どーも、新しい名前をなかなか覚えられない私だが、それでも覚えられたアンナ・ネトレプコ。それほどの逸材だ。(覚えられて良かった

仕掛け人

2006-05-05 00:26:33 | Weblog
 パーティの仕事のリクエストで平原綾香の”ジュピター”の譜面を移調する作業をやりました。原曲の作曲者、イギリス人のホルストさんは遺言で「ワシが作曲した”惑星”はオケ版、ブラス版、2台ピアノ版以外に編曲してはいかん!」とおっしゃったそうで、死後50年間、編曲、改編は禁じられていましたが、それが解禁になって、勝手に歌詞をつけたりできるようになりました。何年か前に、すでにトヨタのCMか何かでオペラ歌手の声でスキャットしているのは聞いたことがありましたが、この平原綾香版は、その、しつこくからみつくような響かせ方をする歌唱法と、若さから来る”一途感”が当たったというか、仕掛け人の勝利なんでしょうね。今更ですが、こんな歌が素敵だと思う人は、ぜひオリジナルのオケ版を聴いて下さい。1000倍感動します。
 かく言う私も最初に聴いた”展覧会の絵”はエマーソン、レイク&パーマーのロック版だったので、クラシックを偉そうに言いたい訳ではありません。一番言いたいのは、”当てようとする仕掛け人達”に単純にしてやられるだけで済ませないで!という事です。価値観は色々あって然るべきです。でも、1つの価値観の中に浸るだけで済ませないで、良いアンテナで広く色々な価値観をキャッチして欲しい。