四合院というのは、中国の伝統的な建築様式で、家の周りが塀に囲まれ、敷地の四方に建物が建てられ、真ん中に中庭がある建築様式で、灰色のレンガの塀が、北京市内では「故同」(フートン)と呼ばれる横丁に立ち並び、曾ては独特の景観を呈していました。北京オリンピックによる都市再開発で、かなりの部分が取り壊されてしまい、今は一部の景観保存地区に残されているだけです。
しかし、ホテルに改造されたり、或いは新たな快適な四合院様式の高級分譲住宅が設計されたりと、その建築の思想は、今に受け継がれています。
ちょうど、京都の町家の再生プロジェクトとつながるところもあるように思います。
今、私は通訳案内士として、主に中国語圏からのお客様を日本の観光地にご案内するガイドをしていますが、京都の町家や各地の古民家の伝統的な建築群と、四合院は、その地の気候風土に合わせて発展してきた住まいという意味で、その内容を知ることは、人々の暮らしや文化を知るうえで、大きな意義があるように思います。
ちょうど手元に、2003年に出版された、『四合院』という本があります。筆者の高巍氏は1958年生まれ、北京の歴史や民俗学の研究、著作をされています。
この本では、四合院の建物の解説のみならず、四合院とそこで暮らす中国の人々の様々な文化や伝統との関わりなどが紹介されています。
そこで、この本の内容をベースにして、私の理解できる範囲で、四合院の紹介をしていきたいと思います。
間違い等ございましたら、遠慮なくご指摘いただければ助かります。
(1)四合院の建物構成
一般に「四合院」と言う場合、最も代表的なのが、「三進四合院」、つまり三重になった四合院です。
次の図が、「三進四合院」の見取り図です。
三進四合院見取り図
①大門(表門)②影壁(目隠しの壁)③屏門(外庭と内庭を仕切る門)
④垂花門(二の門)、上に短い柱4本で支えられた屋根があり、屋根の下の壁に彫刻や彩色が施されている ⑤廊下 ⑥倒座房(母屋の反対側、南側の棟の部屋)
⑦正房(母屋)⑧耳房(正房の両端に連なる背のやや低い棟の部屋)
⑨廂房(母屋の前方の両側の棟)⑩過庁(前後に入口があり、通り抜けられる部屋)
⑪後罩房(正房の後ろに正房に平行に建てられた棟)
⑫盝顶ルーディン(廂房より少し小さな建物、“盝”頂、小さな箱の意味)
幅は一般に五丈(16.5メートル。一丈は約3.3メートル)、長さは八丈(26.4メートル)。通りの北側に位置し、北側にあって南向きであり、道路側は五間続きで、間口は一間(柱と柱の間の間隔)当たり一丈。
表門から入ると、正面は磨きレンガの目隠し壁で、東側の棟の南側の切妻屋根の壁にすぐ接しています。目隠し壁の前で左に曲がると、円形の「月亮門」、或いは四枚扉の小門があります。入ったところが三間の南側の部屋。東側は月亮門に向かい、西側にも月亮門があり、その中は一丈四方の小さな中庭で、そこには南棟の西端の一間があります。
影壁(目隠し壁)
月亮門
ちょうど南の棟の門に相対しているのが、中庭に通じる「垂花門」(二の門)で、垂花門の左右両方から、両側の月亮門までが一枚の壁で、これにより一つの屋敷を外院(外側の四合院)と内院(内側の四合院)に分け、外院の南棟と内院の北、東、西棟を切り離すと、その外側は、幅一丈あまり、長さ三丈くらいの中庭となります。
垂花門
内院は正方形で、垂花門の門楼が内院の南面のちょうど中心の位置にあり、その他の場所は、北側に三間の正房(母屋)があり、東西に各々三間の廂房があります。
四合院の内院。西側の建屋は夏の午前中は陽光に晒されるので、
すだれや布の日よけが掛けられている。北側の建屋は直接日に晒されず、
しかも前に廊下があるので、より快適である。
垂花門と東、西の廂房、正房の間は、曲尺(かねじゃく)形の回廊で、「鑽(穿)山遊廊」と呼ばれます。正房の東、西両側には各一間の耳房(正房の両端に連なる背のやや低い棟の部屋)があり、耳房の前には各々一丈四方の小さな中庭があります。二間の耳房を三間の正房と比べると、建物の大きさはずっと小さくなっています。
鑽山遊廊(穿山遊廊)
耳房
東、西の廂房と外院を分かつ背の低い壁(或いは渡り廊下)の間にも「耳房」がありますが、耳房とは呼ばず、「盝頂(ルーディン)」と呼ばれます。「“盝”」の字の意味は小さな箱のことで、それからも部屋の面積が小さいことがわかります。そこは一般には召使の住む部屋か便所にします。東側の一間の「盝頂(ルーディン)」は厨房にします。
このような標準の四合院は、大小全部で6つの四合院を含んでいます(外院、内院と、四隅の小院を含む)。部屋は二本の柱と一本の桁による「間」で数えると、全部で17間あります。その中で、表門、垂花門には人が住むことができないので、実際は15間になり、部屋の総面積は200平方メートルを超えることになります。
では、次回は四合院を構成する建物について、詳細を見ていきたいと思います。