中国語圏からのお客様に、日本の日常のごくありふれたものをどのように説明すれば、うまく理解していただけるか。前回は、かき氷とみたらし団子を取り上げましたが、今回は、明太子といなりずしです。
【明太子】
皆さんご承知のように、明太子やたらこは、スケトウダラの子で、鱈の子ではありません。スケトウダラのことを、中国語では “明太魚 ming2tai4yu2” と言います。そこで、明太子の説明ですが、次のように考えました。
上でも言いましたように、スケトウダラは“明太魚”と言いますが、タラは “鱈魚 xue3yu2” です。明太子はスケトウダラの卵巣を唐辛子粉と塩の中に漬けますが、「塩で漬ける」という動作は です。例えば、梅干し( 梅干mei2gan1 、或いは 酸梅suan1mei2 )も梅を塩漬けにするので、説明としては、以下のようになります。
ちなみに、水や液体に浸けるのであれば、発音は同じですが “淹yan1” となります。
【いなり寿司】
いなり寿司は、漢字で書くと、「稲荷寿司」となるでしょうが、これでは何のことか分かりませんので、説明を加える必要があります。
油揚げのことは、 “炸豆腐 zha2 dou4fu” 、これを袋にして中に酢飯を詰める、という説明にしました。後は、これをどうして「稲荷」というのか、という説明が要るので、稲荷神社とキツネの関係を説明しました。
ところで、神様と動物の関係、ということで思い出しましたが、中国の人が日本に来ると、日本はどうして烏が多いのか、と質問されるそうです。都市では、烏が暮らしやすい環境にあるからでしょうが、でも中国の都市ではあまり烏を見かけないのが不思議です。そこで、ある通訳の方は、日本人は烏を神のお使いとして、大切にしているからだ、と説明すると言われていました。その例として、日本サッカー協会のマスコットは烏(八咫烏=ヤタガラス)だと。確かに、京都の熊野神社のお使いは八咫烏ですし、奈良の榛原にはその名も八咫烏神社という神社がありますね。もっとも、この神様のお使いの烏は、元を辿ると中国神話の太陽に住む三本脚の烏のようで、そういえば中国湖南省長沙、馬王堆漢墓出土の帛画にも確か烏が描かれていましたね。
今回は、これで終わります。
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先日、通訳案内士の研修会に参加し、町歩きをしてきました。改めて、日本の風物を、如何にして海外から来たお客様にご説明してご理解いただくか、その難しさを痛感しました。
そこで、今日は、忘れないよう、研修会の時にうまく説明できなかった言葉の説明を、整理しておきたいと思います。
もし、こう説明した方が、より理解していただける、という翻訳例がございましたら、お教えいただけるとありがたいです。また、他にこういう言葉の訳し方で苦労した、という言葉の例がございましたら、お教えください。
【かき氷(宇治金時)】
先ず、かき氷。暑い中歩いていると、喫茶店の店先に、サンプルが置いてあったり、「氷」の幟が立っていたりします。ちょうど、宇治金時のサンプルが置いてあるのを見ましたが、これをどう説明したらよいでしょうか。
には2種類の発音があり、“bao4”はカンナで薄く削ること。“pao2”はクワで土を掘ることです。氷の塊を、カンナで削るように薄く削ったものをイメージし、 という訳ができたようです。発音は、 “bao4bing1” 。中国では、かき氷をあまり見たことがありませんが、台湾では、珍珠奶茶(タピオカの大きな粒の入ったアイス・ミルクティー)などを売る店のメニューの中に“刨氷”とあるのを見ることがあります。日本の露店で売っている、スノーボールと同じものが、紙コップに、いちごやレモンのシロップがかかって出てきます。
氷の上にシロップをかける動作ですが、少ない量を振り掛けるのであれば、 “洒sa3”でしょう。庭に水を撒くイメージです。でも、ある程度の量を注ぎかけるのであれば、 “澆jiao1”がよいのではないかと思います。ここでは、 “澆jiao1”としました。
抹茶は、本来の意味では“粉茶fen3cha2”とすべきでしょうが、京都でよく見かける抹茶を使ったお菓子で、「抹茶」の字をよく見かけますので、ここはそれをそのまま使い、 “末茶mo4cha2”としました。
中国でも、小豆を使った甜品といえば、広東の“紅豆沙”、これはいわばお汁粉ですが、“豆沙餡包子”など、小豆餡はたいへんポピュラーです。
【みたらし団子】
これも、説明の難しいお菓子です。「みたらし」は正しくは「御手洗」と書き、京都は下鴨神社の糺(ただす)の森にある、御手洗池が由来とのことです。5月の葵祭りで、斎王代に選ばれた女性が、手を清めるのが御手洗池ですね。「御手洗」を中国語で発音すると、yu4shou3xi3 、舌を噛みそうです。
白玉団子、辞書には“糯米粉団nuo4mi3fen3tuan2”と出ており、これでもよいのですが、聞いて分かり易い表現と思い、 “以糯米做的団子” 、或いは“以糯米粉做的団子”としました。
醤油味系の団子のうまさは、直火で焙って、少し焦げた香ばしさがポイントだと思います。それで、という表現を入れました。
みたらし団子のあの形は、御手洗池の水のあぶくをイメージしたもの、とのことですので、その説明を加えました。
ところで、下鴨神社の「糺(ただす)の森」 、これを中国語でどう発音するかですが、 “糺”は“糾”と同義であり、 “jiu1”と発音します。よって、 “糾森jiu1sen1”となります。
他にも頭を悩ました言葉があるのですが、それは次回にご紹介します。今回はこれまで。
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「車の両輪」という喩えがあります。二つの、互いに欠くことのできない密接な関係にあるものを喩えるのに使います。これを中国語に約す場合、どのように言ったらよいでしょうか。
中国のTVニュースを聞いていて、最近、李克強首相の次のような発言で使った言葉が、意味として近いのではないかと感じました。
中国、ドイツは建国以来、両国の関係は長江、ライン川のように、紆余曲折はあっても、常に前を向いて流れてきた。両国は高度に政治的な相互信頼を保ち、双方の協力は大変強い補完性を備えており、前途はたいへん明るい。私たちは政府と企業という車の両輪を動かし、二本のレールを並んで進み、中国、ドイツの協力にアクセルをかけ、追い越し車線に進み、加速させなければならない。発展途上のMade in Chinaと既に成熟したMade in Germanyはちょうど真珠を連ね璧を並べたようにすばらしい組み合わせである。
この、「双輪駆動」、「双軌並進」という言葉が、文脈にもよりますが、「車の両輪」という意味で使えるのではないかと思います。
尚、青字にした「珠聨璧合」は成語で、これは「珠聨」と「璧合」が結合したもので、「珠聨」とは真珠を連ねる、「璧合」とは、玉でできた璧を並べる、つまり、すばらしいものを並べる、という意味です。
李克強首相はこの「双輪駆動」、「双軌並進」という言葉を好んで使っていて、ついこの間も次のような発言がありました。
李克強は次のように表明した。「中米の企業トップ及び閣僚経験者対話」は政府以外の二番目のレールであり、独自の影響力と優位性を備えており、両国の政財界が意思疎通や交流を深め、実務協力を広く切り開くため、より積極的な役割を発揮することを希望する。「二本のレールが平行」してこそ、両国の関係は、着実に、早く、安定して歩むことができるのである。
ところで、調べてみると、李克強首相はずいぶん以前から、「双輪駆動」という言葉を使っています。次は、彼が中央委員に転じる前の河南省の党トップであった約10年前の発言に、次のようなものがありました。
中原の奮起を実現することは、河南人民の一致した行動であるが、では中原を如何にして奮い立たせるべきか。 党河南省委書記、李克強はこう指摘した。この目標を実現するには、いくつもの政策を同時に取り上げる必要があり、とりわけ「車の両輪を動かす」、つまり構造の調整と体制の改革に大いに取り組む必要がある。
「構造の調整」、「体制の改革」とは何かというと、次のように紹介しています。
いわゆる構造の調整とは、つまり経済構造を戦略的に調整することで、これは中原の奮起を実現させる基本的な道筋であり、略して「三化」と呼ぶ、つまり工業化、都市化、農業近代化の推進を加速させることである。
いわゆる新たな体制を打ち立てるというのは、経済構造の戦略的調整を推進すると同時に、経済発展を縛る体制的障害を、勇気を持って、うまく突破することである。新華ネット河南チャンネルの報道によれば、李克強は次の取り組みを紹介した。つまり今年になって、河南省は「四つの取り組みを同時に行う」、つまり、国有企業改革を深化させ、非公有経済を発展させ、開放型経済の発展、サービス型政府の建設を加速させるという四つの分野で行う対策である。
政府要人の発言を聞いていると、皆さん言葉の使い方に特徴があります。習近平さんは、ことわざを挟むのを好まれますし、李克強さんは、歯切れの良い音韻で、畳み掛けるようにしゃべるのを好まれます。
いずれも、政治家として、人々の心を掴むため、自然と身につけてきた話術でしょう。
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