中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

“天宮1号”打ち上げについて: “擇机”とは?

2011年09月24日 | 中国ニュース

 中国は宇宙探査の面にも近年力を入れており、最近は有人宇宙船の打ち上げが注目されました。次に目指しているのは、中国自前の宇宙ステーションの打ち上げです。ただ、これには多くの解決しなければならない課題があります。その第一歩となるのが、“天宮1号”の打ち上げです。

■[1]
 ( ↓ クリックしてください。中国語原文が表示されます。)


 先ず、タイトルの“天宮一号将于9月27日至30日擇机発射”ですが、“擇机”ze2ji1の意味は何でしょうか?あまり聞き慣れない使い方ですが、“選擇机遇”xuan3ze2 ji1yu4、つまり「チャンスを選んで」という意味になります。「天宮1号は9月27日から30日の間で条件を見て発射する」というぐらいの意味でしょう。
 本文にもありますが、天宮1号と同じ、長征2号Fロケットを使った実践11号04衛星の打ち上げがロケット故障で失敗したため、その原因究明と、ロケットの再点検に万全を期しているため、現状では正確な発射日時を決められない情況にあるようです。

 次に、天宮1号は何か?ということですが、本文に“目標飛行器”mu4biao1 fei1xing2qi4と書かれています。これについて、9月23日の中国日報網《熱詞聚焦:天宮一号将于近期擇机発射(図)》に英語と対訳の解説がありました。《中国日報》(中国の英字新聞《China Daily》)で、こう報道されているそうです。
  The program spokesman said that Tiangong-1 will serve as
 "a target spacecraft" for rendezvous and docking experiments.
“目標飛行器”は、衛星軌道上のランデブーとドッキングの実験用の"a target spacecraft"であるというのです。「目標宇宙飛行体」とでも訳せばよいでしょうか。

  “交会対接”jiao1hui4 dui4jie1のうち、“交会”は宇宙空間で二つの宇宙船を同じ軌道に乗せ、接近させる「ランデブー」、“対接”は二つの宇宙船を直接「ドッキング」させることです。

 今回打ち上げられる“天宮1号”と、続いて打ち上げられる予定の“神舟8号”は何れも無人で、地上からの遠隔操作によるランデブー、ドッキングの実験が行われます。

 ちなみに、宇宙ステーション、Space Stationは、中国語で“空間站”kong1jian1zhan4といいます。

□      天宮1号最新ニュース:
          天宮1号は9月27日から30日の間で条件を見て発射する
              2011年9月20日 出典:中国新聞網

 中新社酒泉9月20日電(黄従軍、孫自法) 中国有人宇宙プロジェクト・スポークスマンは20日、対外的に次のように発表した:中国有人宇宙プロジェクトは、初の宇宙空間でのランデブー、ドッキングの任務を実施する。任務に当たる“天宮1号”目標宇宙飛行体と“長征2号F”運搬ロケットの結合体は既に酒泉衛星発射センターの垂直総合装備測定試験場から順調に発射エリアに移送された。“天宮1号”は9月27日から30日までの間に、酒泉衛星発射センターから条件を見て宇宙空間へ発射される。

 計画によれば、中国有人宇宙プロジェクトの初のランデブー・ドッキング任務は、先ず“天宮1号”目標宇宙飛行体を発射し、その後“神舟8号”宇宙船が発射され、無人の自動ランデブー・ドッキング試験が実施される。“天宮1号”飛行の主要任務は、宇宙船の宇宙空間でのランデブー・ドッキング飛行試験を実施し、ランデブー・ドッキングの技術的困難を乗り越え、技術を掌握するため、ランデブー・ドッキングの目標となり、長期の無人の衛星軌道運行と、短期の有人監視の有人宇宙空間試験のプラットフォームを初歩的に打ち立て、宇宙ステーション開発のために経験を蓄積し、宇宙空間の科学実験、宇宙医学実験、宇宙空間技術試験を行うことにある。

 中国有人宇宙プロジェクト・スポークスマンの紹介によれば、“天宮1号”目標宇宙飛行体、“長征2号F”運搬ロケット等の宇宙飛行機材は今年6月末から次々と現場に搬入されて後、飛行任務に基づき発射のプロセスの測定試験がなされ、それに続いて総合装備の測定試験等の技術エリアの準備作業が行われた。“長征2号F”運搬ロケットは、更に“実践11号04衛星”打ち上げロケットが故障した原因に対して、相応の改善措置が取られた。

  “天宮1号”は推進燃料注入完了後、運搬ロケットに吊り下げてドッキングされ、ロケットと一体となり、20日9時、ロケットの可動発射プラットフォームに載せられて有人宇宙船発射場の垂直総合装備測定試験場を出て、無事発射台に運ばれた。今後数日、発射場では引き続き目標宇宙飛行体、ロケットの機能測定、飛行体・ロケット・地上の総合試験などが行われ、最終の状態検査と確認の後、ロケットに推進燃料が注入され、条件を見て発射が行われる。

 現在、中国の有人宇宙プロジェクト初のランデブー・ドッキング任務のそれぞれの主なシステムは最後の準備段階に入り、各項目の準備作業は順調に進んでいる。


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最近の新聞記事から: “一刀切”、“部署”、“辺角料”、“分揀”

2011年09月23日 | 中国語でどう言うか?

 最近の新聞記事から、気になった表現をピックアップしてみました。

 先ず、“国務院会議部署保障性安居工程建設和管理”9月19日中国政府網から。表題の意味は、「国務院常務会議で、低所得者向け住宅建設プロジェクトの建設と管理に対処」です。

 これは、9月19日、温家宝首相が開催した国務院常務会議で討議された、低所得者向け住宅建設プロジェクトの建設と管理について、実際の事業の中で発生した問題を如何に解決し、プロジェクトをうまく推進するかについての討議ですが、ここで気になったのが、“一刀切”ということばです。

■ 堅持因地制宜,科学編制建設規劃,統筹安排年度建設任務,不搞“一刀切”。

・一刀切 yi1dao1qie1 “一刀斉”yi1dao1qi2ともいい、意味は、「一律に。例外なく。」
・因地制宜 yin1di4 zhi4i2 [成語]その土地の事情に適した措置をとること。

□ 地域の事情に合わせ、科学的に建設計画を立て、年間の建設任務を統一して差配し、何でも「一律に」ということはしない。

 つまり、中央のお仕着せで全国一律などということはしない、ということです。公共の住宅というと、昔の日本の公団住宅のように、全国一律の箱物作りをしがちですが、そうでなくて、地域の特性も配慮しよう、ということです。
 “因地制宜”もよく使うことばです。

 さて、“一刀”というと、“一刀両断”yi1dao1 liang3duan4という成語が連想されます。「ひとたちでまっぷたつに斬ること」という原義から、日本語では「断固たる処置をすること」、決断が速いというニュアンスが強調されます。このことばの出典は《朱子語録》巻44:“観此可見克己者是従根源上一刀両断,便斬絶了,更不復萌。”この意味であれば、上記の意味と完全に一致します。しかし、現在の中国語では、多少異なるニュアンスで、「断固として古い関係を断ち切る」という意味でも使われます。例えば:“跟壊人一刀両断。”(悪人ときっぱり手を切る)このニュアンスは日本語には存在しないように思えます。使われる意味の範囲が、中国語の方が多少広いと言えるでしょう。

 次に、同じく温家宝主催の国務院常務会議に関するもので、21日の記事から。
 “部署建立完整先進的廃旧商品回收体系”(完全で先進的な廃品回収体系の設立を行う)。こういうテーマが国の最高の行政機関で討議されるケースは極めて稀でしょう。通常は、地方の行政機関で処理されるものと思います。或いは、この問題が地方で利権がらみの癒着が生じ、中央として確固たるルール作りが求められているのかもしれません。

 “部署”bu4shu3は最近新聞記事でよく見かけます。日本語と中国語では使い方、意味が異なります。中国語では、「手を打つ、差配する」という意味で用いられます。元々は、戦闘力や労働力を配置、配分するという意味で用いられたことばです。よく似たことばで、“布置”bu4zhi4があり、これは人をあるポジションに配置する、という意味。尚、日本語でいう「部署」は、中国語では、“(工作)崗位”(gong1zuo4) gang3wei4、或いは“職守”zhi2shou3です。

■ 暢通生産企業回收大宗廃旧商品和辺角余料渠道。

・暢通 chang4tong1 滞りなく通じる。開通する。
・大宗 da4zong1 大口。大量。数量が大きいことをいう。
 最近は、経済統計に関する記事で、石油や大豆、小麦など、国際相場が立つような商品について、“大宗商品”とう言い方をします。
・辺角料 bian1jiao3liao4 端くれ、切れ端。
  “大宗”に対し、“辺角料”と言ったものです。主力商品でない、その他の過去売った商品、ということです。
・渠道 qu2dao4 経路。チャンネル。

□ 生産企業が大口の廃棄商品とそれ以外の様々な廃品を回収する経路が滞りなく通じるようにする。

 つまり、メーカーが、自社の主要製品の廃棄品を回収するだけでなく、主要製品以外の様々な自社製品もちゃんと回収するようにするという訳です。

■ 要強化科技支撑。加強廃旧商品回收、分揀和処理技術攻関,提高装備水平。開展国際合作与交流,借鑑管理経験,引進先進技術。

・支撑 zhi1cheng 支える。
・分揀 fen1jian3 分別する。
 “揀”は選ぶ、より分けること。“分揀”とは、最近使われるようになった新しいことばで、主に荷物の仕分けをする、という意味に使われています。似たような意味の語に、“挑揀”tiao1jian3があります。例えば、スーパーで、果物を選んで買うような時に使います。
・攻関 gong1guan1 学問や技術上の難関に取り組む。
・借鑑 jie4jian4 参考にする。手本にする。

□ 科学技術による支援を強化しなければならない。廃品の回収、分別、処理技術の向上取組みを強化し、装備のレベルを向上させる。国際協力と交流を展開し、管理経験を手本にし、先進技術を導入する。

 こうして見ると、“分揀”というのは、単なるごみの分別のような意味でなく、回収された廃品の中身を分別し、再利用できるもの、或いは最近の携帯電話やハイテク機器のように、中に使われている貴金属類を分別し、再利用する、という意味で使われていることが分かります。


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“分”硬貨の行方

2011年09月15日 | 中国生活

  そういえば、最近、中国へ行って両替をしても、“分”硬貨をもらわなくなりました。1分は1元の1/100。以前から、分の単位のアルミ硬貨は、もらってもほとんど使うことがなく、たまにまとめて角の単位の補充に使うくらいでしたが、今ではもっと肩身が狭くなって、受け取りすら拒否されるようになったようです。
 この話、平易な文章で書かれています。是非中国語で読んでみてください。市場を歩いていて、店でのやり取りが聞こえてくるような、そんな親しみが感じられます。

■[1]
 ( ↓ クリックしてください。中国語原文が表示されます)



・尲尬 gan1ga4 ばつが悪い。気まずい。 このことばは比較的良く使われます。例えば:“偏偏跟昨晩吵架chao3jia4的人坐在一起,未免有些~”(あいにく昨夜口論した人と同席したので、ちょっと気まずい思いをした)というような使い方をします。ここでは、“分”貨幣の立場を、このことばを使ってうまく表現しています。

□      気まずい“分”貨幣は次第に消え去ろうとしているのか?
              人民網記者 曾高飛
       2011年9月8日 人民網-「物の見方チャンネル」より

 現在、市場で流通している“分”貨幣は、一分、二分、五分の三種類である。分貨幣は、嘗ては人々の経済的生活の中で重要な役割を演じてきた。しかし経済発展と物価の上昇に伴い、分貨幣の貨幣価値は急激に低下し、現在はたとえ一本の針の価格でも、“角”を用いてようやく釣り合うのである。
 こうした情況は、分貨幣を気まずい位置に押しやった。実際の生活の中で、分貨幣は自ら進んで消え去ろうとしている。分貨幣が実際の生活の中で次第に消え去ろうとしている事実を調査するため、記者はそれぞれいくつかの場所に行ってその事実を証明した。

■[2]


□ 新聞スタンドは分硬貨の受け取りを拒んだ

 記者は朝陽区紅廟路交差点の北側の新聞スタンドで一部8角(=0.8元。約10円)の《参考消息》を買い、店主に5角硬貨一枚、1角硬貨二枚、5分硬貨二枚を渡した。
 スタンドの主人は20歳代の若い男で、彼は金を受け取り、それを見ると、スタンドを離れて行こうとした記者を呼び止め、「うちでは硬貨を受け取らないよ」と言って、彼は二枚の5分硬貨を記者に返した。
 「小銭が無いんですよ」私は財布を開くと、それをひっくり返し、その男に見せた。「それじゃあ100元でおつりをもらえますか。」
 「わかりました、今度新聞を買いに来た時に1角返してくれたらいいですよ。」
 男は二枚の5分硬貨を私に返してよこした。彼はたとえ1角もらえなくても、その二枚の5分硬貨を受け取らなかった。

■[3]


 ・嗓門 sang3men2 声

□ 市場の店主:今でもまだ分硬貨を使っている人間がいるのかしら?

  朝陽区定福庄西街市場。
 記者は一把2元5角のほうれん草を買った。店の主人に2元3角の紙幣と2分硬貨十枚を渡した。
 店の主人は40歳過ぎの中年の婦人であった。彼女の声はやさしく、また大きかった。
「他に小銭は無いの?換えてちょうだい。」
彼女は分硬貨を記者に返した。
「他に小銭が無いんです。分硬貨ではだめですか?」
私は更に財布を取り出して、ひっくり返して見せた。
「今誰がまだ分硬貨を使うというの。面倒くさい。その50元を出しなさい。おつりをあげますから。」
 広渠門市場で、記者は食品売り場で15元3角のおかずを買って、記者は100元を出した。店主は、端数は要らない、とはっきり言い、15元しか受け取らなかった。この店の主人は30過ぎの若い夫婦で、笑って記者の言った:「普通の端数は、まけてあげられるものはまけてあげます。硬貨を受け取るのも面倒くさい。お客さんに硬貨のおつりをあげても喜んでもらえないから。」
 多くの食品を売る人からみて、1角2角は、まけられるならできるだけお客にまけてあげれば、気持が通じて、また買いに来てもらえる。分硬貨のことは言うまでもない。市場ではほとんど「姿を消して」しまった。

■[4]


・熟視無睹 shu2shi4 wu2du3 よく見ていながら無視する。
・起 qi3 [量詞]ひと群れ。ひと組(の人)。
・鶏肋 ji1lei4 ニワトリの肋骨。大して役に立たないが、捨てるには惜しいものの喩えに使われる。
・派用場 pai4 yong4chang3 使い道を決める。(否定形で、使い道がない、の意味)

□ 十里堡華堂商場(イトーヨーカ堂):分のおつりを出しても、要らないという客がいる

 多くの商店、とりわけやや高級な商品の価格には、分の単位は含まれていない。
 サービス・娯楽業では、尚更料金に分の単位は見られない。
 イトーヨーカ堂、カールフール、ウォルマート、天客隆といったスーパーやショッピングセンターには、少数の依然“分”硬貨の流通を認めている民間のチャンネルがある。けれども、これらの場所でも、分硬貨は気まずい境遇にある。朝陽区十里堡華堂のレジ係の王さんの紹介によれば、お客に分のおつりを出しても、何人かは面倒くさがり、受け取ろうとしないという。
 記者はイトーヨーカドーの現場で30分立ち止まっていたが、観察したところ、7人の客がレジ係が出した分硬貨を見て見ぬふりをし、おつりの紙幣と額面の大きい硬貨だけ受け取り、財布に入れ、その場を離れた。けれども4組のお客は分硬貨を受け取り、傍に置かれた善意の募金箱の中に入れた。
 記者は分硬貨を受け取ろうとしなかった蔡さんという名のお客をつかまえて、どうして分硬貨を受け取りたくないのか尋ねた。
 蔡さんはこう言った:「分硬貨は今では「鶏の肋骨」のようになって、持っていても、使う所がほとんどありませんから。」

■[5]


・熙熙攘攘 xi1xi1 rang3rang3 [成語]人の往来が盛んでにぎやかなさま。
・躺 tang3 (人や動物が)横になる。寝そべる。(物が)倒れている。
・不認帳 bu4 ren4zhang4 [比喩]言ったことや、したことを認めない。

□ 大学構内: 分硬貨が落ちていても、誰も拾わない

 記者は北京第二外国語学院に居た。大学構内は人の行き来が盛んで、たいへんにぎやかであった。
 構内にスーパーマーケットがあり、レジ係はいつも学生に分のおつりを渡している。スーパーの周辺で、たまたま分硬貨が地面に落ちていたが、誰も拾おうとしなかった。記者はスーパーの横で1時間あまり立ち止まっていると、一人の若者がスーパーから出てきて、わざとか、無意識か分からないが、二枚の1分硬貨が、彼が財布の中に小銭を入れる時に、すべって、地面に落ちた。けれども若者は立ち止まらず、まっすぐ前に行ってしまい、振り返ろうとしなかった。
 私は彼を呼んで言った:「そこの学生さん、お金を落としましたよ。」
 若者はそれでも立ち止まらなかった。私は二枚の分硬貨を拾い上げると、彼を追いかけて行って、彼に行った:「お金を落としましたよ。」
 若者は立ち止まり、私の手のひらに横たわっている二枚の分硬貨を見ると、顔にちょっとばつの悪い表情を浮かべた。けれども彼はそれでも私の手から二枚の分硬貨を受け取らず、頑なに認めようとしなかった。「私のじゃありません。」彼はそう言いながら、私をひと目見ると、背を向けて行ってしまった。

■[6]
 

・名存実亡 ming2cun2 shi2wang2 [成語]名ばかりで実質が無い。有名無実である。
・黙契 mo4qi4 暗黙の了解。以心伝心。
・資深 zi1shen1 “老資格”lao3 zi1ge2の意味で、古参の。先輩の。

□ 「名ばかりで実が無い」、次第に遠い存在になろうとしている“分”硬貨

  “分”が消えようとしているのは、既に経済、或いは社会現象となっている。“分”の単位まで必要な取引でも、売方はおつりを渡さない、買方は受け取らない、というのが売買双方の暗黙の了解事になっている。
 あるベテランの金融界の人物が記者に語ったところでは、“分”の使用価値が見つけられないことは、“分”が正に消えようとしている根拠であり、多くの民衆の生活の中で、実際、分硬貨は名ばかりとなり、分硬貨が経済に与えるマイナスの作用が、そのプラスの作用を越えようとしている。彼が言うには、「分硬貨の製造コストと社会での管理コストは、分硬貨自身の価値を既に上回っている」そうだ。

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《紅楼夢》の中の節句行事(5) 中秋節[その2]

2011年09月12日 | 紅楼夢

 ※ 口絵は、凸碧堂中秋賞月図

 今回は、中秋節の続きです。過年、元宵節もそうですが、娯楽の少なかった当時に於いて、これらの節句は夜通しはめをはずして騒げる数少ない機会であったことから、宴会が終わっても、すぐに寝てしまうのでなく、ゲームをしたり、詩を作って競い合ったり、という場面が描かれています。

■[1]
 ( ↓ クリックしてください。中国語原文が表示されます)


・壁廂 bi4xiang1 このあたり。あのへん。
・煩心 fan2xin1 心を悩ます。心配する。
・古往今来 gu3wang3 jin1lai2 [成語]昔から今まで。古今を通じて。
・后半夜 hou4ban4ye4 夜の12時から夜明けまでの時間。
・鳴咽 wu1ye4 むせび泣く声。
・嫋嫋 niao3niao3(簡体字では“鳥”の下に“衣”)音声が長く響いて絶えないさま。
・聯詩 lian2shi1 日本の連歌のように、一人が五言や七言の句を発すると、次の人がそれに和して、韻を踏むなどの体裁を取って、それに続く五言或いは七言の対句を返すこと。

□ “撃鼓傳花”の遊びが終わっても、ご隠居様のお気持ちは猶尽きず、「こんなに佳い月なら、笛の音を聴かなくっちゃ」と言われた。しばらくすると、「あのキンモクセイの樹の下あたりから、むせびなくような、抑揚のある、笛の音が聞こえてきた。この、月が輝き風は澄渡り、空は晴れ地面には塵一つ無い時に乗じて、人々の心の悩みをしばし解き放たせ、全ての愁いは除かれ、皆ひっそりと畏まって座り、黙って月を見上げていた。茶を二杯喫するほどの時間、笛の音に聴き入っていたが、それが止まるや、皆は口々にそれを称賛し、止まることがなかった。」笛の音はたいへん美しかったが、もの寂しい美しさで、古今を通じて、あらゆる笛に関する描写、例えば、「山の南の笛の残響は聞くに堪えず」、「旧きを懐い空しく吟じ、笛の賦を聞く」など、ほとんど全てが悲惨で悲しい意味を帯びている。果たして、夜ふけになると、さわやかな風が月夜に吹きぬけ、あたりは灰色に染まり、「ただキンモクセイの蔭に、むせび泣くように、長く絶え間なく、再び笛の音が発せられ、その結果先ほどより一層もの寂しく感じられた。皆静まり返って座っていた。静かな月夜に、笛の音の物悲しさが加わり、ご隠居様のように年老いて酒に酔った人は、このような音を聞くと、心を動かされ、涙が落ちるのを止めることができなかった。人々はお互いにもの寂しい気持ちになるのを禁じ得ず、しばらくして、ご隠居様が泣かれているのを知ると、急いでご隠居様に向かって作り笑いをし、言葉をかけて取り繕った。更に暖かい酒を持ってくるように命じ、笛をやめさせた。」
 このむせび泣くような笛の音の中で、二人の人物がこの場を離れた。それは林黛玉と史湘雲であった。二人は水辺の凹晶渓館に来ると、その風景に感動し、しばらくの間、それを詩に詠み、相手がそれに和して返すというやり取りをしていた。二人の詩才はその詩の中に余すところなく表現され、その中の一句、「寒き池に渡る鶴の影、冷たき月は花の魂を葬る」は尚更に静寂な美しさが絵の中に描き切られ、妙なる玉がそれを聞いても、悲しみに涙するとも、怪しむに足りないほどであった。

■[2]


・闌干 lan2gan1 “欄干”に同じ。五言詩や七言詩は、同じ字数の語句が並んでいるので、その形を欄干に見立てた。
・対仗 dui4zhang4 詩の修辞法の一つで、字音の平仄や字義の虚実を考えて対句を作ること。
・粘対 zhan1dui4 律詩の平仄の規律。平には平がくっつく(“粘”)、仄には仄がくっつく、という意味。
・四声八病 si4sheng1 ba1bing4 南朝斉の永明年間、周顒zhou1yong2が《四声切韻》で“平上去入”の四声を唱え、沈約が四声の区別と伝統的な詩賦の音韻知識を結合させ、五言詩を作る時に避けないといけない音律上の問題を規定し、後の人がこれを“八病”と称した。
・向晩 xiang4wan3 夕方
・闕如 que1ru2 欠如
・懺語 chen4yu3 不吉な予言
・脂硯斎 zhi1yan4zhai1 小説《紅楼夢》の初期の印刷出版の版元で、小説に注釈やコメントを加えた批評家。
・俟 si4 待つ
・江郎才尽 jiang1lang2 cai2jin4 [成語]江郎、才尽く。文筆の才能が衰えることの喩え。南朝の江龍は若いころ才で名を挙げながら、晩年は詩文に佳作が無かったことによる。

□ 林黛玉と史湘雲が“聯詩”のやりとりをする際、先ず韻を選ぶ遊び、“数闌干”(“欄干”を数える)をした。これはどういうことだろうか。実は、嘗ては詩を書く時の要求がたいへん厳格で、押韻、平仄、対仗、四声八病などに気をつけなければならなかった。当時の韻には順番がついていて、一東、二冬、三江、四支、五微、六魚などと続き、最後が十三元、十四寒であった。平声は更に上平声、下平声に分かれ、この他、上声、去声、入声にもそれぞれ韻の部分の順番があった。黛玉はこう提案した。「この“欄干”(詩の一句)の棒の部分を数えてみましょう。この頭のところからあの頭のところまでです。それが何本目かによって、それに合った順番の韻を用いることになります。」二人は13本の欄干(詩句)を数えたので、十三元の韻を踏む必要がある。けれどもここで問題があり、つなげられた詩の語句の韻脚は“門”、“昆”、“痕”などで、それと“元”にはどんな関係があるのか。実は、十三元の韻は、当時は “元”は、 “門”、 “昆”、“痕”と同じ韻部にあり、したがって韻を踏んでいることになるのだ。例えば:“向晩意不適,駆車登古原(夕方、気分がすぐれなかったので、車を駆って古原に上った);夕陽無限好,只是近黄昏(夕陽はとてもすばらしかったが、程なくたそがれて暗くなった)”がその一例である。
 中秋の夜宴で賈宝玉、賈環、賈蘭は三首の詩を作った。この三首の詩は物語では、ただ賈政に渡して見てもらった云々とされているが、三首がどのような詩であったかは、物語では触れていない。《紅楼夢》の中の詩は多くが不吉な予言手か性質を帯びており、後ろの物語の伏線となっている。この回の題目は「中秋の新たな詞を賞し、佳懺(佳い予言)を得る」である。明らかに、家運が傾いている中で、これらの詩はたいへんめでたい吉兆である。脂硯斎はここでこうコメントを加えている:「中秋の詩の欠落は、雪芹を待つ」、つまり、この三首の詩が暫時欠落していることについては、曹雪芹が完成されるのを待つ、と言っている。《紅楼夢》には二百首近い詩や賦があるが、それぞれ特色があり、作者の才気や智慧を充分に表しているが、ひとりこの中秋の夜宴では、一貫して詩を用いて未来を予言し、運命を暗示するのに長けた曹雪芹がこの三首の中秋の詩を書いていないのは、「江郎、才尽く」で能力が衰えたのか、それとも別に隠れた理由があったのだろうか。

■[3]


・秋爽斎 qiu1shuang3zhai1 《紅楼夢》の中で、大観園の中の建物の一つ。
・藕香榭 ou3xiang1xie4 これも、大観園の中の建物の一つ。“榭”とは、四方を展望できるように造った高殿。
欣欣向栄 xin1xin1 xiang4rong2 [成語]草木がすくすく伸びる。勢いよく発展すること。
・粛殺 su4sha1 厳しい秋や冬の寒さが草木を枯らす。
・愁緒 chou2xu4 憂慮。心配。
・凄風苦雨 qi1feng1 ku3yu3 [成語]寒い風と冷たい雨。悲惨な境遇の喩え。
・炎涼 yan2liang2 暑さと涼しさ。転じて、人情の移り変わりの激しさの喩え。相手の地位などが変わると、すぐに態度を変えること。[用例]人情冷暖,世態~(人情は変わりやすく、世間は薄情なものだ)
・糟粕 zao1po4 滓(かす)。

□ 本来、中秋の佳節は、一家団欒を祝う祝日である。大観園が真っ盛りであった時期には、秋爽斎で海棠社を結成し、藕香榭で菊の花を題した詩を作って競い、大観園は勢いよく発展するにぎやかで盛んな情景を呈していた。然るにこの時の大観園はちょうど「役所の取り調べを受ける」騒ぎがあったばかりで、厳しい冬の時代の情景であった。こうした情況の下、皆ふつふつとふさぎ込んで歓び少なく、精神を鼓舞してうら寂しい中秋節を過ごそうとしたのであった。曹雪芹はここまで書いてきて、既に頭の中は憂いで一杯であったに違いない。自分自身の栄華から衰退、度重なる一族のもめ事が連想され、どうしてまた良い予言となる詩を考えようという気持ちになれるだろうか。だから、気持の上で、言葉にならず、書くことができなかったという可能性が、能力が衰えたので書けなかった可能性よりずっと大きい。
 曹雪芹の筆による中秋節は美しく華麗であるが、もの寂しくもある。悲惨な境遇により作られた物悲しい心境は、彼の筆に無限の霊感と力を与えた。正にこうした心境が、その重々しいけれどもバランスを崩していない精神の筆に触れて、中秋をより深化させ、中秋に詩意を持たせ、濃く解けることのない愁いの雲にし、読者の心の中で固まり、いつまでも振り解こうにも解けない……

 課題研究はこれで終了する。けれどもこの幾つかの重要な節句行事から分かってくるのは、単なる伝統文化の話ではなく、これらの節句を通じ、物語の中のたくさんの、そして現実の生活の中での人情の移ろいやすさと世間の薄情さを説明しているのである。だから、私がこのテーマで主に研究しているのは、古典作品の研究だけでなく、古典作品の背後の、後世の人々に残された貴重な財産の研究であり、現象を通じて本質を理解することである。私たちはこのことを理解し、時が来ればできるだけそれを継承し、それを発揚させ、再び育てると同時に、かすを除き、精華を留め、世界に我々民族の財産を残していくこと、これこそが私の最終目的である。

        -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 以上で、《紅楼夢中的節日》の全文の紹介を終わります。最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。なにかご質問がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。


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《紅楼夢》の中の節句行事(4) 中秋節[その1]

2011年09月10日 | 紅楼夢

 ※ 口絵は、“撃鼓傳花”、宴会の余興として行われたゲーム

 紅楼夢の中で取り上げられている節句行事、最後は中秋節です。ここでも、中秋節が物語の展開に重要な役割を果たしています。この部分の説明もやや長いので、二回に分けます。

■[1]
 ( ↓ クリックしてください。中国語原文が見られます)


・当下 dang1xia4 即刻。すぐさま。
・羊角灯 yang2jiao3deng1 透明な角質で覆いを作った照明。羊の角を切って、それを煮て作ったことからこの名がある。
・斗香 dou3xiang1 線香を一束に束ねたもの。燃やすと煙や火が盛んに出るので、祖先に対する敬虔さを表すものとされた。
・伏筆 fu2bi3 伏線。“暗筆”ともいう。・嘆惋 tan4wan3 ため息をついて惜しむ。
・皎潔 jiao3jie2 (月が)白く光って明るいさま。

□ 「月の明かりに灯の彩り、人々の息吹に線香の煙」 
 《紅楼夢》第75回で、寧国府は一日前に「中秋節」を過ごし、人々は「西瓜と月餅は全て揃ったので、後はそれを分けて皆に送るだけ」という状態になっていた。翌日、ご隠居様は賈珍に言った:「おまえが昨日送ってきた月餅は上等だ。西瓜は見たところ良さそうだけど、切ってみないとね。」賈珍は笑って言った:「月餅は新しく来た点心専門の料理人が作ったもので、私も試してみましたが、予想通り良かったので、お贈りできると思いました。西瓜は例年はまずまずでしたが、今年はどうも良くないかもしれませんよ。」ここから、西瓜と月餅が中秋節で並んで取り上げられる、無くてはならない食品であったことが分かる。したがって“瓜餅”(西瓜と月餅)、“瓜餅酒”(西瓜と月餅と酒)という言い方があり、例えばご隠居様が人々を連れて屋敷内をお祝いの挨拶に回る時、本ではこう書かれている:「すぐさま屋敷の正門は悉く開け放たれ、大きな明かりが吊るされた。嘉蔭堂の前のバルコニーの上では、大いに線香を焚き、蝋燭の光を手に持ち、西瓜と月餅、その他様々な果物やお菓子を並べていた。」ここで“各色果品”とあるように、他は簡略にして一々書かなくてもよいが、“瓜餅”、西瓜と月餅は無くてはならないものなのである。
 中秋節は民族の習俗的色彩の濃い節句で、人々は月明かりの下で酒を飲み、足を踏み鳴らして歌を歌い、賑わいは夜通し、明け方まで続くだけでなく、故人を懐かしみ、一家団欒を願うための祝日である。《紅楼夢》の中では二回、中秋の晩が描かれ、何れも物語の重要な転機となっている。正にいわゆる「人には悲しみと楽しみ、別れと出会いがあり、月には曇りと晴れ、満ち欠けがある」であり、物語中の人物の秦可卿が言うように、「水は満ちれば溢れ、月は満ちれば欠ける」で、比類無く賑やかな中秋の夜宴の中に、作者は巧妙に玄妙な道理の伏線を埋め込み、月を隠喩にして、楽しそうな情景によって悲しみを描き、物語中の人物が、読者をしてため息をつきて惜しませる運命を、白く輝く月光と見かけの派手やかさの下に潜ませている。

■[2]


・聯袂 lian2mei4 手を携えて。[用例]~而往(いっしょに行く)
・開場白 kai1chang3bai2 前口上。
・寓懐 yu4huai2 想いを託する。“寓”は意味を含ませること。
・口占 kou3zhan4 口ずさむ。原稿を書かないで、気の向くままに話をすること。即興の詩を自由気儘に唱えること。
・潦倒 liao2dao3 落ちぶれる

□ 《紅楼夢》の最初の第1回に中秋節を書き、物語全体の始まりとしている。作者は甄士隠、賈雨村の二人を鍵となる意味を備えた人物として同時に登場させている。一人は“真事隠去”(真実を隠し去る。“甄士隠”と“真事隠”は中国語の音が同じ(“諧音”xie2yin1という))、もう一人は“假語村言”(うそや粗野なことば。“賈雨村”と“假語村”は“諧音”)で、両者は手を携えて《紅楼夢》の実際の意味での前口上となる話を完成させている。賈雨村は都へ出て功名を上げることを望んだのだが、懐具合が乏しかったので、甄家の隣の瓢箪廟に下宿していた。ある時、偶然の機会に、彼は甄家の下女の嬌杏を見かけ、中秋の夜、月に想いを託し、五言の律詩を口ずさんだ:「未だ三世の契りを占わざるに、頻りに一段の愁いを添う。悩ましき時、額に皺寄せ、行きては何度も振り返る。自ら浮世に一人居るも、誰か月下の伴侶にふさわしからん。月光よ、もしその意あらば、先に楼に上りてその美人を照らせ。」白く光る月光は、彼にまとわりついた恋心を燃え上がらせ、また彼の盛んな野心を呼び覚まさせた。
 《紅楼夢》の出だしは末世の悲観に満ち、落ちぶれた書生の自負心と軽度の狂騒、蘇州の名家での事件と没落が、ある種の牽引力となり、全篇、人の世の無常という悲劇性が基調を成している。こうした基調の下では、如何に楽しい情景やにぎわいを描いても、ある種のむなしさを帯びる。それゆえ、《紅楼夢》の一番目の中秋節は、小から大を見、小さな栄枯盛衰を伏線として、大きな栄枯盛衰を予告しているのである。

■[3]


・灯紅酒緑 deng1hong2 jiu3lv4 [成語]あかいともしび、緑の酒。ぜいたくで享楽的な生活のたとえ。
・本応 ben3ying1 本来ならば……すべきである。
・守制 shou3zhi4 昔、父母が死ぬと、その子は27カ月、家に閉じこもって身を慎み、官職にある者は必ず一時その職を退いたことをいう。
・酒酣耳熱 jiu3han1 er3re4 酒が回って顔がほてる。“酣”は気持ちよく存分に酒を飲むこと。
・恍惚 huang3hu1 どうも……のような気がする。(中国語の“恍惚”は、「ぼんやりする」という意味で、日本語の恍惚の「うっとりする」という意味はない)
・隔扇 ge2shan 部屋の仕切り板。紙、またはガラスをはめ込んだ板製の戸を屏風のように連ねたもの。部屋の入口としても使う。“格門”ともいう。(“隔”は「木」偏を使うこともある。発音は同じ)


・森森 sen1sen1 うす暗く、陰気で、薄気味悪いさま。
・詭譎 gui3jue2 怪しい。奇怪な。
・毛骨悚然 mao2gu3 song3ran2 [成語]恐ろしくて、身の毛がよだつ。ぞっとして、鳥肌が立つ。
・怪力乱神 guai4li4 luan4shen2 怪異現象、妖怪の存在。
・看官 kan4guan1 読者
・隠約 yin3yue1 かすかなさま。はっきりしないさま。
・描摹 miao2mo2 描写する。
・觥筹交錯 gong1chou2 jiao1cuo4 酒宴が盛んに行われるさま。“觥”は昔、獣の角で作った酒器。
・天倫之楽 tian1lun2 zhi1 le4 一家団欒の楽しみ。“天倫”は、親子兄弟の関係(これは自然の秩序であることから)をいう。
・温情脉脉 wen1qing2 mo4mo4 [成語]人や物に対し、やさしい感情がこもっているさま。まなざしに愛情がこもっているさま。
・面紗 mian4sha1 女性がかぶる、ベール。

□ もう一回の中秋節に関する描写は第75回である。この回では、一家が団欒し、贅沢な飲食を享受しているのだが、繁華でにぎやかな背後には、悲しさ、さびしさの霧が次第に広がってきている。中秋の前夜、本来ならば賈敬のため喪に服さなければならない賈珍は、大々的に一族の宴席を催し、簫の演奏や歌を聴き、月を愛でて楽しんだ。ちょうど酒が回って顔がほてってきた時、突然壁の下あたりから長いため息が聞こえてきた。「一言も発せず、ただひとしきり風の音が聞こえるばかりで、やがて壁越しに消えていった。ふと祀堂の中の折戸が開いたり閉じたりする音が聞こえてきた。」この時の情景は「薄気味悪く、月明かりもうす暗く」、元々こっそりどんちゃん騒ぎをしようと思ったのに、楽しめずに終わった。不思議な怪奇現象を書いて、読む者をぞっとさせている。
 曹雪芹が怪異現象や妖怪の存在を信じていたかどうか、祖先の霊魂のようなことを信じていたかどうかは、知る由も無い。曹雪芹はふと聞こえてきたため息によって、中秋節前のこの時の一族の宴会は、実は不吉の兆しであったと、読者の注意を喚起したのである。行間に、私たちはかすかに、悲劇の序幕が既に開き、百年続く名門の一族が正に一歩一歩衰亡に向かおうとしていることが見てとれるのである。
 その後、作者は再び栄国府が凸碧山庄で中秋の夜宴を催すところを描写した。ご隠居様は一家の者全員を連れて線香を手向け月を拝み、月餅を賞味した。月明かりと提灯の火の下で、酒宴が盛んに催され、たいへん賑やかである。酒が三巡すると、ご隠居様は皆に“撃鼓傳花”の遊びをするようお命じになり、負けて罰として酒を飲まされたり、冗談を言ったりして、この大家族の一家団欒の楽しみを思う存分に描き出した。しかしながらこのやさしさに満ちたベールが破られると、家族の内部に隠されていた様々な矛盾が遂に水面に浮かび上がり出した。

■[4]


・心火 xin1huo3 癇癪。漢方で、人体の臓器に発生する熱のこと。漢方では、この熱が様々な病気を引き起こす原因と考えられている。
・肋条 lei4tiao 肋骨。あばら骨。
・遮掩 zhe1yan3 遮り隠す。ごまかす。
・避忌 bi4ji4 禁句を言わない。忌み嫌う。タブーとする。
・前程 qian2cheng2 官吏の資格。官職。
・庶 shu4 妾腹の。
・長房 zhang3fang2 長男の家系。
・二房 erfang2 妾。側室。
・嫡 di2 嫡出の。

□ 先ず賈赦が冗談を言ったのだが、そのためご隠居様を怒らせてしまった。この冗談の内容は、鍼灸をやるばあさんに来てもらって癇癪の治療をしてもらったのだが、針がつぼに刺さらず(中心に刺さらず)、あばら骨に刺さっただけと、こう言ったのである。ご隠居様はそれを聞かれて、いくらか皮肉の意味を感じられた。それでこう言われた:「私もその婆さんに針を打ってもらった方が良いね。」(自分が“偏心”、つまり公平でなく依怙贔屓をしていると皮肉られたので、“心”に針を打ってもらったら依怙贔屓は直るね、と返した。)賈赦はそれを聞くと、大慌てでごまかして言い訳をした。それから、賈政と賈環の詩の評価をしたのだが、その時タブーを避けるのを忘れた。賈政は賈環の詩の語句の中に勉強が嫌いであるという意味が込められているように感じ、「おまえと宝玉の二人は、「二つの難物」と並び称すことができる」と言った。一方、賈赦がこの詩が通り過ぎようとする時、続けざまに褒めて、賈環に言った:「今後はこのようにしよう。そうして初めて私たちの言葉になるし、将来の世襲の資格も定まり、おまえが跡継ぎ間違いなしになる。」
 爵位の継承者はただ一人で、何人もが分担できるものではない。賈環は賈宝玉の弟で、めかけの子供であり、この世襲の資格がどうして彼の手に来ることがあろうか。これはなぜかというと、世襲の資格は一つ前の世代では賈赦の名義だからである。彼は殊更に賈環はこういう所やああいう所が良いと言うが、実際には暗に賈政一派に強い対抗心があるからである。したがって、私たちは話の内外から、長男の家と側室の家との間、嫡子と庶子の間に、様々な錯綜した複雑な矛盾が存在していることが分かる。

[次回に続く]

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