ばあちゃんから聞いた話なんだけど。
昔、ばあちゃんがまだ15、6歳くらいの頃。
当時まだこの辺は全部森で、ほとんど手付かずだったらしいんだ。
で、ばあちゃんは、山菜なんかを採りによくその辺の森に入ってたんだって。
今でこそ森に入るのなんて危ないと思うだろうけど――それは当時もそうだったんだろうけど。
とにかく食料が今ほど豊かじゃなかった。
食えるモノはとにかくしっかり確保して、ありがたく頂かなきゃいけなかった。
だもんで、普通に森にも入ってたんだってさ。
そういうことだから森なんて慣れたもの。
その日も、ばあちゃんはいつも通り山菜やら木の実やらを集めてたんだ。
で、その日はやたらツイていた。
いい物がそれこそ山のように採れたんだと。
だからばあちゃんは、つい夢中になった。
それでいつもならしないミスをした。
簡単な話さ。
道に迷ったんだな。
おかしいな、来た道を真っ直ぐ戻っても、どうにも知った場所に戻れない。
日も暮れてきた。
こうなると、それまで忘れてたカゴの重さが嫌にのしかかるんだって。
だけどまぁ、そこは苦労して手に入れた食い物だ。まさか捨てるわけにもいかない。
そう思いながら、とにかく辺りをさまよった。
どこをどう行ったかよく分からくなってきたところで、どうにかこうにか1本の獣道へと出た。
獣道っていうとちょっとアレだな。とにかく、人が通った形跡があるような道さ。
ざあっと左右に伸びた道。
どっちもすぐに森の中へ消えて行くような道だ。
さてどっちへ行ったものかな。
もう夕暮れだ。これ以上遅くなるとますます迷うことだろう。
道の上に立ち尽くした。とにかく腹を決めなきゃならない。
そこで、右の道の奥の茂みから一人の老婆が現れたんだ。
ばあちゃんと同じようにカゴを背負った、60歳だか70歳だか、とにかく一目瞭然の老婆さ。
ああ助かった、この人に道を聞けばどうにかなりそうだ。
ほっとして、ばあちゃんはその老婆に尋ねた。
「すみません、近くの村に出るにはどっちへ行けばいいでしょうか?」
すると老婆は、人のよさそうな柔らかい笑顔で答えた。
「ああ、村の人かい? だったら、こっちへ行くといいよ」
そして、老婆の真っ直ぐ先を指さした。
ばあちゃんからしたら、『左の道』さ。
なるほどそうかと安心して、ばあちゃんは礼を言う。
「ありがとうございます。お婆さんも、山菜採りですか?」
「ああ、ああ。そうだよ。今日はようけ採れたねえ」
言って、老婆はカゴを下ろしてばあちゃんに中を見せたんだ。
そこには、そりゃあ驚くほどの山菜・木の実・果物が入ってたんだ。
わらび、栗、フキ、柿に梨にイチジク。
それはもう、どっさりさ。
「へえ、これは凄いですね。私ももう少し取ってから帰ります」
「そうかい? あんまり遅くなるとこの辺りは危ねえよ?」
「はい、すぐ帰りますから」
そう言って、ばあちゃんは老婆を見送った。
見送って、直後。
ばあちゃんは、老婆が指さした逆の方へと走った。
あれは、あの老婆は人じゃない。
あのカゴの中の食材は、異常だった。
量の問題じゃない。
採れる時期も場所も、てんでバラバラなはずのものだったのさ。
必死になって、背負ってたカゴも放り出して走ったってさ。
程なくして、ばあちゃんは無事森から出ることができた。
予想通りにね。
あのまま、老婆が言う方へ行っていたらどうなってただろう。
少なくとも無事じゃすまなかっただろうねぇ、ってばあちゃんは言ってたよ。
これでおしまい。
意外と淡白だろ?
マジに体験談だからな。そんなもんさ。
第一、本気で危ない話だったら、ばあちゃん生きてねーし。
俺がこうやって話をすることもできなかったんだ。
だからね、俺は怖かったよ、この話。
何せ、あの時ばあちゃんが咄嗟に逃げてくれなかったら、と思うとね。
そう思うと――俺は今でも、ゾクリとするんだ。
昔、ばあちゃんがまだ15、6歳くらいの頃。
当時まだこの辺は全部森で、ほとんど手付かずだったらしいんだ。
で、ばあちゃんは、山菜なんかを採りによくその辺の森に入ってたんだって。
今でこそ森に入るのなんて危ないと思うだろうけど――それは当時もそうだったんだろうけど。
とにかく食料が今ほど豊かじゃなかった。
食えるモノはとにかくしっかり確保して、ありがたく頂かなきゃいけなかった。
だもんで、普通に森にも入ってたんだってさ。
そういうことだから森なんて慣れたもの。
その日も、ばあちゃんはいつも通り山菜やら木の実やらを集めてたんだ。
で、その日はやたらツイていた。
いい物がそれこそ山のように採れたんだと。
だからばあちゃんは、つい夢中になった。
それでいつもならしないミスをした。
簡単な話さ。
道に迷ったんだな。
おかしいな、来た道を真っ直ぐ戻っても、どうにも知った場所に戻れない。
日も暮れてきた。
こうなると、それまで忘れてたカゴの重さが嫌にのしかかるんだって。
だけどまぁ、そこは苦労して手に入れた食い物だ。まさか捨てるわけにもいかない。
そう思いながら、とにかく辺りをさまよった。
どこをどう行ったかよく分からくなってきたところで、どうにかこうにか1本の獣道へと出た。
獣道っていうとちょっとアレだな。とにかく、人が通った形跡があるような道さ。
ざあっと左右に伸びた道。
どっちもすぐに森の中へ消えて行くような道だ。
さてどっちへ行ったものかな。
もう夕暮れだ。これ以上遅くなるとますます迷うことだろう。
道の上に立ち尽くした。とにかく腹を決めなきゃならない。
そこで、右の道の奥の茂みから一人の老婆が現れたんだ。
ばあちゃんと同じようにカゴを背負った、60歳だか70歳だか、とにかく一目瞭然の老婆さ。
ああ助かった、この人に道を聞けばどうにかなりそうだ。
ほっとして、ばあちゃんはその老婆に尋ねた。
「すみません、近くの村に出るにはどっちへ行けばいいでしょうか?」
すると老婆は、人のよさそうな柔らかい笑顔で答えた。
「ああ、村の人かい? だったら、こっちへ行くといいよ」
そして、老婆の真っ直ぐ先を指さした。
ばあちゃんからしたら、『左の道』さ。
なるほどそうかと安心して、ばあちゃんは礼を言う。
「ありがとうございます。お婆さんも、山菜採りですか?」
「ああ、ああ。そうだよ。今日はようけ採れたねえ」
言って、老婆はカゴを下ろしてばあちゃんに中を見せたんだ。
そこには、そりゃあ驚くほどの山菜・木の実・果物が入ってたんだ。
わらび、栗、フキ、柿に梨にイチジク。
それはもう、どっさりさ。
「へえ、これは凄いですね。私ももう少し取ってから帰ります」
「そうかい? あんまり遅くなるとこの辺りは危ねえよ?」
「はい、すぐ帰りますから」
そう言って、ばあちゃんは老婆を見送った。
見送って、直後。
ばあちゃんは、老婆が指さした逆の方へと走った。
あれは、あの老婆は人じゃない。
あのカゴの中の食材は、異常だった。
量の問題じゃない。
採れる時期も場所も、てんでバラバラなはずのものだったのさ。
必死になって、背負ってたカゴも放り出して走ったってさ。
程なくして、ばあちゃんは無事森から出ることができた。
予想通りにね。
あのまま、老婆が言う方へ行っていたらどうなってただろう。
少なくとも無事じゃすまなかっただろうねぇ、ってばあちゃんは言ってたよ。
これでおしまい。
意外と淡白だろ?
マジに体験談だからな。そんなもんさ。
第一、本気で危ない話だったら、ばあちゃん生きてねーし。
俺がこうやって話をすることもできなかったんだ。
だからね、俺は怖かったよ、この話。
何せ、あの時ばあちゃんが咄嗟に逃げてくれなかったら、と思うとね。
そう思うと――俺は今でも、ゾクリとするんだ。