「沖山塔子を殺したのは、僕なんだ」
東恭吾は、そう言った。
窓の外は猛烈な吹雪。
その風の音に紛れるように、しかしはっきりと、言った。
「何を・・・言っているんだ?」
大木茂は、驚いて問いただす。
「言葉の通りさ」
恭吾は怯む様子も悪びれる様子もない。
茂と恭吾は友人だった。
大学の卒業旅行として、この山奥のペンションへとやってきた。
そこで偶然居合わせた他の客――沖山塔子が殺された。
電話は不通。携帯も圏外。
しかも、殺害現場は彼女の自室であり密室。
絵に描いたような殺人事件だった。
――夜明けまで各自自室で待って、警察へ連絡しよう。
誰からともなくそんなことを言った。
そうして二人はこの部屋へと戻ってきた、その矢先の告白だった。
「どうして、そんなことを?」
恭吾の様子にただならぬ真実味を感じた茂は、戸惑いながら問う。
「理由なんか、ないさ。ないから困ってる」
「ああ、いやいや、それ以前にお前にはアリバイがあるだろう? それに密室だ」
不可能なんだよ、ありえないんだよ。
友人の犯行が信じられない茂は、ただただまくし立てた。
「落ち着けよ。あんなもんは簡単なトリックだ。
死んだと推測されている時間より前に殺した。密室は合鍵を使った。それだけのこと」
言われてしまえば――簡単な話だった。しかし盲点だった。
だが、しかし。
「どうして・・・それを、俺に言ったんだ?」
その理由が、分からなかった。
最後まで隠し通しておけばいいのに。
友人とはいえ、茂に告白するメリットはない。
「聞いてくれ。これは懺悔なんだ」
沖山塔子を殺したのは僕だ。
理由はない。
意味が分からないだろう?
本当に、ないのさ。
彼女と面識もないし、当然恨みもない。
行き当たりばったりではあるが、その場の衝動的なものでもない。
合鍵を用意して最低限のアリバイトリックを仕掛ける程度には計画的だ。
明確に、殺意を持って、殺そうとして、殺した。
しかしそこに明確な理由はない。
ただ、殺したかった。
快楽殺人・・・とでも言うのかな。よく分からないが。
とにかくこれは、僕が引き起こした事件だ。
悪いのは、僕だ。
僕の持つ理由のない殺人衝動だ。
許して欲しいなんて言わない。
誰かに――聞いて欲しかった。
「そんな、馬鹿な」
告白――懺悔を聞いた茂の感想は、ただそれだけだった。
混乱、そして理解不能。
「い、意味が分からない! それに、それを俺に言ってどうなる?」
「どうにも、ならないよ」
茂を宥めるように、そしてどこか諦めたように、恭吾は言った。
そして。
だけど――と、続ける。
「だけど、知ったからには、死んでもらわないとな」
茂の腹部に、激しい裂傷――焼けるような痛みが走った。
腹には、深々と銀のナイフが刺さっている。
「な、何故・・・?」
「理由なんか、ないさ」
どさり、と倒れ込む茂。
恭吾は、それを見届けて。
「さて――次に懺悔する相手を見つけないとな」
と呟いた。