我が国の音楽は麻薬によって作られている。
過去の名曲も、現代のヒット曲も、間違いない。
例外があるとすればそれこそ「天才」の存在だ。
我々凡夫は、麻薬によって底上げして初めて勝負の舞台に立てる。
これまで大した問題にもならなかった麻薬。
隠そうと思えばいくらでも隠し通せた。
それが、今度大規模な調査が入るという。
事務所からも麻薬の使用などがないように、と念を押された。
これまで見て見ぬふりをしてきた共犯者のくせに。
近く、警察から聞き取りがなされるという。
勿論使っていないと嘘を吐くつもりではある。
だが、尿検査などをされれば一発でバレるだろう。
・・・聞き取りで済めばいいのだが。
それよりも、音楽を全く作れなくなったことが大きい。
麻薬を絶って、禁断症状よりも辛いのがこれだ。
楽器を持つ気になれない。
楽譜に向かう気になれない。
音楽生命を絶たれた、というと大げさではある。
明日になればケロッと歌っているかも知れない。
しかし、作品のクオリティは確実に下がる。
私は天才ではないのだ。
麻薬の下駄を履かなければ、できる作品は並以下だろう。
それはもう、死んだと同じことだ。
仕事仲間に電話をかけた。
今度の聞き取りの件について話を向けると、やむを得ないと返ってきた。
何を取り繕っているのだ。
同業の私に対して。
お前も黙って使っているのだろう?
伝わってくるんだよ、曲の端々から。
麻薬の臭いが。
適当に会話をして電話を切ると、豪華なベッドに身を沈めた。
麻薬のない私には何もできない。
音楽を作ることも――生きることも。
仲間にも裏切られた気分だ。
負け犬め。
そんな声が聞こえた気がした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます