新古今和歌集の部屋

新古今増抄 巻第一 通光 元久詩歌合 水郷春望

月の影は雲間よりもれて、朧々としたる

に、ちら/\とふる体成べし。冬のやうには春の

ゆきはあらぬ体也。大雪とはみるべからず。雪は

ふるとても、雨のやうにはなきものなり。心

をつくべし。

一 詩をつくらせて哥にあはせ侍しに

水郷春望といふ   左衛門ノ督、通光

元久二年四月三日叔正二位。内大臣右大

將通親ノ三男。母ハ刑部卿ノ三位憲兼ノ女十三首入

詩をつくりて歌二合とは、同題にて作る

事也。水郷とは水のあたりの里を云なり。

春望とは春の景氣を遠くのぞみたる


由なり。望字をよむにはこゝろ一ある事也。

一 三嶋江や霜もまだひぬ芦のはにつのぐむ程の春風ぞ
                                      ふく

増抄云。みしま江は、淀川のはたなり。芦の有所

也。霜もまだひぬとは、春になりても、いまださ

むさが残りたる也。かれ葉のあしに霜の置

たる也。つのぐむとは、芦がはへ出るは、牛の角

のやうに出るものなり。つのは角也。くむはめぐ

むなり。春風があたゝかなる物なれば、芦

の生をもよほす心なり。ほどゝ云詞は、ばかりと

云詞にかよふなれば、つのくむばかりに、春かぜが

吹となり。此風にてはそへいでそらるるとの心と、

又はつのぐむ時分のやうなるのどかなる風が吹心と


のこゝろ也。




頭注

職原云。

○左右衛門府

唐名武衛。督一人。

相當從四位下、

唐名武衛大將

軍。

中納言參議散

二三位非參議

四位皆任之。


詩に合する哥、

よみやうの故実

あるごとくなり。


○霜 大載礼云霜

陰陽之氣也。陰

氣勝則疑而

為霜。

釈名云。霜者

喪也。

三嶋江は摂津

國の名所也。


※職原 職原抄で中世日本の有職故実書。『職原鈔』とも。北畠親房が、常陸国小田城で後村上天皇のために書いたものとされる。興国元年/暦応3年(1340年)。官位日本の官制の成立や沿革、補任や昇進の流れ、それに伴う儀式、各職に任ぜられる家格、個々の省・寮・司・職・所の職掌や唐名、官位相当などを漢文で記す。『群書類従』官職部72巻に収められている。慶長13年(1608年)には、中原職忠が校訂を行い、活字印刷本を刊行している。

釈名 後漢末の劉熙が著した辞典。全8巻。 その形式は「爾雅」に似ているが、類語を集めたものではない。声訓を用いた説明を採用しているところに特徴がある。著者の劉熙については、北海出身の学者で、後漢の末ごろに交州にいたということのほかはほとんど不明である。「隋書」経籍志には、劉熙の著作として「釈名」のほかに「諡法」および「孟子」の注を載せている。

大戴礼 前漢に存在した儒教文献のうち、『礼』の『記』『孔子三朝記』『曽子』などを材料として、85篇に編纂された書物。『大戴礼記』ともいう。39篇のみ現存し、古代の礼関係の貴重な資料を伝える。鄭玄以来、前漢の戴徳(甥の戴聖が小戴とよばれるのに対して大戴という)の編とされてきたが、古文学系の資料を含んでいることから、後漢の学風に近いもので、戴徳との関係は疑わしいという説もある。北周の盧辯の注があるが簡略で、清朝考証学者の注釈、孔広森の『大戴礼記補注』、王聘珍の『大戴礼記解詁』などが参考になる。



春歌上 三島江の春 - 新古今和歌集の部屋

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新古今和歌集巻第一春歌上詩をつくらせて歌に合せ侍りしに水郷春望といふことを左衛門督通光みしま江や霜もまだひぬ蘆の葉につのぐむほどの春風ぞ吹く読み:みしまえやしも...

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