オキシトシンの働きは、ポリヴェーガル理論等だけから知る人にはかなり意外なことかもしれませんが、
オキシトシンはポリヴェーガルでいう腹側迷走神経複合体だけでなく、
むしろその対極ともみられる交感神経系を賦活するのにも不可欠な役割を果たすものです。
現に、視床下部の室傍核で産生された脳内のオキシトシンには、エネルギー消費量を上げ、体温を上昇させ、心拍数を上げる作用もあることが
これまでの研究で知られています。
このたびその作用を引き起こす神経ルートが、名古屋大学の中村和弘教授らの研究グループによって確定されました。
彼らが室傍核から出力するオキシトシン・ニューロンの軸索の行先を丹念に調べたところ、
延髄の縫線核付近、すなわち「吻側延髄縫線核領域」(rostral medullary raphe region:rMR)という部位に伸びており、
軸索の終末から放出されたオキシトシンがこの rMR に作用して交感神経系を活性化し、その交感神経系が褐色脂肪組織の熱産生を駆動するとともに
心拍数を増加させることが、光遺伝学的手法を組み合わせた生理学的な実験によって明らかにされたのでした。
ちなみに褐色脂肪組織とは、脂肪細胞の中でも、白色脂肪細胞と同じく脂肪を蓄えるだけでなく、脂肪を分解して、そのエネルギーを熱に変える役割を持つ細胞で、
食物から摂取した過剰のエネルギーを燃焼させ、肥満を防ぐ機能があります。交感神経線維から放出されたノルアドレナリンが褐色脂肪細胞の受容体に結合すると、
褐色脂肪細胞内のミトコンドリアで熱が作られ、その熱が血流に乗って全身に運ばれるのです。
オキシトシンはさらに、寒冷刺激やストレスなどによる日常的な熱産生をも増強している可能性も示されました。これも言うまでもなく、
交感神経系の働きを媒介するものです。
<原著論文>
Fukushima, A., Kataoka, N. & Nakamura, K., 2022 An oxytocinergic neural pathway that stimulates thermogenic and cardiac sympathetic outflow, in Cell Reports, vol. 40 , no.12 :111380, pp.1-7.
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