1 鏡のかけら
昔むかしのことです。ひとりの悪魔がいて、たいそうこっけいな悪巧みをして、一つの奇妙な発明をしました。
発明というのは、一枚の鏡のことです。なんとも変な鏡で、鏡というのはほとんど真実そのままを映しかえすものなのに、その鏡ときたら、真実をとんでもなく曲げて写したり、小さなかわいいほくろのような欠点を、それは大きな黒あざのように見せたりしてしまうのです。
悪魔の手下の小悪魔たちは、最初この鏡を見て、大笑いしました。足の短い奴は、ネズミのようにちっこい足に映ります。頭のでっかいやつは、それはもうスイカ三つあつめて丸めたくらいの大きな頭に映ります。鼻のつぶれたみたいに低いやつは、顔の真ん中に大きな穴が空いているみたいに見えます。みな、鏡に映るものを見るたびに大笑いして、楽しみました。どんなやつも、それはこっけいな、みじめなものに映るのです。
立派な紳士も、この鏡に自分を映すと、女の子ばかり見ている醜い小男の覗き魔のように見えました。親切な奥さんは、御師匠さんの財布から金を盗み取る性悪小女のように見えました。それでこの鏡を見たみんなは、自分はたいそう悪いものだと思って悲しみ、苦しみました。
悪魔は、この発明をいかにも大いに喜んで、しまいに、神さまや天使もこの鏡で映してやれとさえ、思いました。そして小悪魔どもに鏡を運ばせて、神さまや天使のいる天国まで持っていかそうとしたのです。
小悪魔どもは小躍りしながら、鏡を持って天に向かって登って行きました。いったいどんな馬鹿みたいなものが見えるか、楽しみでしょうがなかったのです。きっとずいぶんと醜くて、ちっぽけで、いやらしいものが映るに違いない。それがどんなものかと想像するだけで、小悪魔どもは楽しくてしょうがなかったのです。
けれども、神さまや天使のいる天上に向かって登っていけばいくほど、鏡が変なものを写すものですから、小悪魔どもはそれを見ているうちに、耐えられなくなって、大笑いして、しまいに鏡を取り落してしまいました。
鏡は、地上に落ちて、粉々に割れてしまったのです。そして悪いことに、幾万、幾奥の小さなけし粒のようなかけらになって、地上世界に広がってしまったのです。
これは、地上にとても苦しいわざわいをまいてしまいました。というのも、このかけらが目に入ったものは、ものごとの真実の姿が見えなくなり、ものごとが悪い方向にばかり見えるようになってしまったのです。どんな素晴らしい景色も、みすぼらしくて汚い田舎の景色に見え、どんなすばらしい紳士も、くだらない馬鹿に見え、どんなに美しい奥さんも、陰でいやなことをする性悪女にしか見えないのです。中には、このかけらが心臓に入ってしまう者もいて、そんなことになった人は、もう心がそのまま凍ったように冷たくなってしまいました。
こんなふうに、鏡のかけらと一緒に、まちがいが世界中にはびこり、それが人間世界に大変な騒ぎを起こしました。悪魔はその様子を、腹をかかえて笑って見ていました。
これは、そんな寒い寒い人間世界で起こった話です。
昔むかしのことです。ひとりの悪魔がいて、たいそうこっけいな悪巧みをして、一つの奇妙な発明をしました。
発明というのは、一枚の鏡のことです。なんとも変な鏡で、鏡というのはほとんど真実そのままを映しかえすものなのに、その鏡ときたら、真実をとんでもなく曲げて写したり、小さなかわいいほくろのような欠点を、それは大きな黒あざのように見せたりしてしまうのです。
悪魔の手下の小悪魔たちは、最初この鏡を見て、大笑いしました。足の短い奴は、ネズミのようにちっこい足に映ります。頭のでっかいやつは、それはもうスイカ三つあつめて丸めたくらいの大きな頭に映ります。鼻のつぶれたみたいに低いやつは、顔の真ん中に大きな穴が空いているみたいに見えます。みな、鏡に映るものを見るたびに大笑いして、楽しみました。どんなやつも、それはこっけいな、みじめなものに映るのです。
立派な紳士も、この鏡に自分を映すと、女の子ばかり見ている醜い小男の覗き魔のように見えました。親切な奥さんは、御師匠さんの財布から金を盗み取る性悪小女のように見えました。それでこの鏡を見たみんなは、自分はたいそう悪いものだと思って悲しみ、苦しみました。
悪魔は、この発明をいかにも大いに喜んで、しまいに、神さまや天使もこの鏡で映してやれとさえ、思いました。そして小悪魔どもに鏡を運ばせて、神さまや天使のいる天国まで持っていかそうとしたのです。
小悪魔どもは小躍りしながら、鏡を持って天に向かって登って行きました。いったいどんな馬鹿みたいなものが見えるか、楽しみでしょうがなかったのです。きっとずいぶんと醜くて、ちっぽけで、いやらしいものが映るに違いない。それがどんなものかと想像するだけで、小悪魔どもは楽しくてしょうがなかったのです。
けれども、神さまや天使のいる天上に向かって登っていけばいくほど、鏡が変なものを写すものですから、小悪魔どもはそれを見ているうちに、耐えられなくなって、大笑いして、しまいに鏡を取り落してしまいました。
鏡は、地上に落ちて、粉々に割れてしまったのです。そして悪いことに、幾万、幾奥の小さなけし粒のようなかけらになって、地上世界に広がってしまったのです。
これは、地上にとても苦しいわざわいをまいてしまいました。というのも、このかけらが目に入ったものは、ものごとの真実の姿が見えなくなり、ものごとが悪い方向にばかり見えるようになってしまったのです。どんな素晴らしい景色も、みすぼらしくて汚い田舎の景色に見え、どんなすばらしい紳士も、くだらない馬鹿に見え、どんなに美しい奥さんも、陰でいやなことをする性悪女にしか見えないのです。中には、このかけらが心臓に入ってしまう者もいて、そんなことになった人は、もう心がそのまま凍ったように冷たくなってしまいました。
こんなふうに、鏡のかけらと一緒に、まちがいが世界中にはびこり、それが人間世界に大変な騒ぎを起こしました。悪魔はその様子を、腹をかかえて笑って見ていました。
これは、そんな寒い寒い人間世界で起こった話です。