彼と出会ったのは、もう15年前になる。
健康のためにと思い、ボクシングジムに通うことにした。
僕と同時にジムに入った練習生は3人だった。
毎日練習で顔を合わせることや、誰も知っている人がいない不安もあり、当然のように3人は仲良くなっていく。
その時、僕以外の2人はプロを目指すと言っていた。
2人に影響されたというか、一緒に練習しているうちに、僕もプロを目指す事になっていた。
プロを目指すと言っても、それで飯を食べていこうという事ではなく、プロテストを受けてみようと言うことだが・・・。
毎日、ハードな練習が続く中、3人のうちの一人が練習に来なくなってしまった。
しかし、そんな事はもう関係ない。
プロテストを受けると決めた以上、練習を続けるしかなかった。
ボクシングのプロテストを受けられるのは、30歳までだった。
僕が始めたのは、28歳の時。
今はわからないが、当時はプロテストに申し込みをしても、何ヶ月も待たなければいけなかった。ある程度の実力をつけて、テストに挑戦するには、チャンスは1回だけだった。
途中、何度もくじけそうになったが、もう一人の同期生が頑張っているのを見て、自分も必死に練習を続けた。
29歳の時に、ついにプロテストを受ける事になったのだが、結果は不合格。もう次はなかった。
もう一人の同期生は、僕よりも4つほど年下だったため、その何年か後にプロテストを受け、見事合格。
彼は、当初からの目標を成し遂げたのだった。
しかし、彼もプロとして、リングに立つことはなく、今ではガラス屋の社長として、立派に仕事をしている。
ボクシングをやめた後も、彼と僕は友人として、つき合いがあり、今でも交流を持っている。
今度、工房に住まいを移す事になり、一部屋作っている途中だが、部屋が暗くならないように壁の一部にガラスを入れることにした。
もちろん、ガラスは彼に頼んだ。
彼は僕からお金を取ることなく、頼んだガラスを用意してくれていた。