知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

特許訴訟の基礎(1)

2011-04-08 22:44:14 | 知的財産権訴訟

第1 特許訴訟の流れ

1 ステージ

特許訴訟は、大別すると、以下の4つのステージに分かれる。

① 特定論

② 属否論

③ 無効論

④ その他の抗弁

⑤ 損害論

 

第2 特定論

特定論とは、特許訴訟の対象たる製品(以下「対象製品」)の特定に関する議論である。

特定の方法としては、基本的に、①製品名等による方法と②構成による方法がある。従来は、②による特定が行われていたが、どのような文言により対象製品の構成を表現するのかという点[1]を巡って議論の応酬がなされたため、審理の遅延の一因となっていた。そこで、90年代の終わり頃から、①による特定が採用されるようになり、徐々に主流となった。しかし、①は、同一の構成であっても製品名が違う製品には判決の既判力が及ばないという問題がある。つまり、①も②も一長一短なのである。従って、両者を併用することが選択されることもある。

 

第3 属否論

1 3ステップ及び侵害類型

1―1 3ステップ

属否論とは、特許発明の技術的範囲に対象製品が属するか否かという議論である。この判断は、以下の3ステップにより実施される。

① 特許請求の範囲を構成要件に分説

② 被告製品の構成の分説

③ 対比

 

1-2 侵害類型

侵害類型は、まず、直接侵害と間接侵害に分かれる。間接侵害については応用編で扱う。

直接侵害は、文言侵害と均等侵害に分かれる[2]

 

2 文言侵害

2-1 「用語」の解釈

2-1-1 解釈の手法

対比のためには、構成要件中の「用語」を解釈する必要がある。かかる解釈は、以下の事情を参酌して行う。

(a)  文言の有する通常の意味

(b)  技術常識

(c)  明細書の記載

(d)  出願経過

構成要件中の「用語」の解釈は、特許訴訟における最重要論点の一つである。なぜなら、構成要件中の「用語」の意味が明瞭であり、解釈が問題とならないようなケースであれば、訴訟になる確率が低いからである。逆にいえば、構成要件中の「用語」の意味が不明瞭であり、当事者間で解釈が分かれる場合に、第三者である裁判所の判断を仰ぐために特許訴訟が提起されるという整理もできる[3]

 

2-1-2 裁判例の検討の重要性

このように、構成要件中の「用語」の解釈[4]は、特許訴訟における最重要論点の一つであるが、その判断は、上記(a)ないし(d)の事情を総合考慮して行うものであり、その習得は容易ではない。現時点でもっとも有効な習得方法は、公表されている裁判例(及び特許発明の明細書)を検討し、裁判官がどのような手法により構成要件中の「用語」を解釈しているかを分析することであろう[5]


[1]この点は、属比論とも密接に絡む。

[2] 後述のとおり、判例により均等侵害が肯定された結果、迂回発明・不完全利用等については論じる必要がなくなっている。つまり、直接侵害のパターンは、文言侵害と間接侵害しかない。

[3] もちろん、これだけが特許訴訟が提起される理由という訳ではない。

[4] 基本的文献として、森「特許発明の技術的範囲の確定」牧野・飯村編「知的財産関係訴訟法」(新・裁判実務体系4)160頁以下

[5] この点、機能的クレームにおける技術的範囲などの応用問題も、「用語」の解釈の問題であり、「用語」の解釈論以外の特別な問題を取り扱っているものではないことに留意が必要であろう。


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