類似性の有無の判断手法は3つのステップに分けることができる。第1は,原告の表示の要部の認定であり,第2は,被告の表示の要部の認定であり,第3は,両要部の比較である。このように,類似の判断に際しては,要部同士の比較が行われる結果,要部以外の相違点は,基本的に,類似の判断を左右しないことになる。例えば,プルデンシャルライフツアー事件判決では,「生命保険」と「ライフツアージャパン」の部分が相違するが,この点は,類否の判断を左右していない。
要部の認定の手法としては,呉青山中学校事件判決にも見られるように,表示全体から,普通名詞等の識別力を有しない部分を控除するという手法や原告表示が著名であることを理由として被告表示のうち原告表示と同一の部分が要部と認定される手法などが用いられている。なお,プルデンシャル生命保険事件判決は,被告表示の一部である「プルデンシャルライフ」について,「「プルデンシャルライフ」のうち「プルデンシャル」の部分は,「慎重な」,「分別のある」等の意味の英語の形容詞を片仮名で表記したものと認められ,そのような英語の意味は,我が国において一般に広く認識されているものと認められる証拠はないが,「プルデンシャル」の語は六音節からなり,長すぎることはなく,発音しやすいことから,意味不明ではあっても,特徴ある表示部分として一般需要者に認識されるものと認められること,我が国においては,原告と米国会社の使用するもの以外に,「プルデンシャル」の語が商品等表示として使用され,社会的に認識されているものがあるとは認められないこと,これに対し,「ライフ」の部分は「生命,生活,人生」という意味の英語に由来する同じ意味の外来語であることは一般的に認識されており,「プルデンシャルライフ」の語は,意味の上では「プルデンシャル」と「ライフ」の部分に分かれるものと認識されること,「プルデンシャル」に部分が前に位置し,七文字六音節と長く,「ライフ」の部分は,後に続き,三文字三音節と短いこと,及び,前記のとおり,原告表示四が著名であることを考慮すると,被告表示一の要部は,「プルデンシャル」の部分にあるものと認められる」として,被告表示の要部が「プルデンシャル」にあると判断している。
本号に基づく差し止め請求の場合,被告が現に使用している表示のみならず,被告が使用する可能性のある表示として「原告表示を含む表示」の差止めが認められる場合があるところ,原告表示と「原告表示を含む表示」(これは抽象的な概念である)の類否の判断に際しては,呉青山学院中学校事件判決にも見られるように,原告の表示が著名であることが,類似性を肯定する要素として重要なものとなる。
類否の判断に際し,原告表示の知名度が高いことに加え,原告表示の独自性が強いこと,被告に不当な加害目的があること,原告の営業と被告の営業との近似性を考慮する見解もある(小野・概説164頁以下)。
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