一気に読んだ。
1933年、東京オリンピックの前年出稼ぎのため上野駅に降り立った、一人の男の物語です。自分の「居場所」を確認、求め活きる人達の心の旅の一冊。
浅草生まれの私は、あの時代の上野駅のたたづまい、匂い、音・・・、すべて体現している。前に前にと、勢いよく突き進んでいる時代でした。
でも、その繁栄の陰で置き去りにされた人たち、いや、見捨てられた人々の姿がこの本に丹念に描かれている。でも、テーマはここではなくて、奥が深い。誰もが自分の居場所を求め、探す、築く。しかし家族も構築できず「働く」こともできなくなった人達の背中に、見えるはずのない「国策」の黒いシールをが見て取れる。
この国がどこへ向かおうとしているのか?それは、、読む人一人一人につき刺さる1冊になるでしょう。
柳美里「JR上野駅公園口」 河出書房新社